第28話 ランスたちのスライム討伐
その後、再びランスがスライムを探したが、次はそう時間をかけずに発見することができた。
今度はスライムが2体の群れのようだ。
「次は僕がサポートするから、ランスたちだけで戦ってみようか?」
僕がそう尋ねると、2人はコクリと頷いてそれぞれ槍と杖を構える。僕とルヴィアは後ろに下がって様子を窺う。
戦闘が開始し、スライムがぴょんぴょん飛び跳ねる。
そんな様子を尻目に、僕は緊張しきっている2人に向かって早速スキルを発動する。
「行くよ。――まずは『リリーブテンション』だ」
僕が支援スキルである『リリーブテンション』をランスに向けて発動すると、ランスの体に赤のエフェクトが走る。
するとそれに遅れる形でミリィの方にもエフェクトが走る。
〈【スキルリンク】によりミリィ・ルヴィアに『リリーブテンション』のスキル効果がリンクされました〉
アビリティによる効果を知らせてくれるアナウンスにより、ミリィの方にも【スキルリンク】により緊張をほぐす効果が与えられる。
【スキルリンク】は常時発動のアビリティなので、噛み合わないと無駄にMPが多く消費されてしまうだけなのだが、まぁその点は仕様なので仕方ないだろう。
このアナウンスはパーティーでスキルを使用する度に流れるようなので、連発するとうるさいかも知れないな。取り敢えず、戦闘後に流れないよう設定を変更することにしよう。
「おお! なんか体が軽い気がする!」
「これが……支援スキル……!」
ランスとミリィが支援スキルに感動しているが、一応これは緊張状態を解消させるスキルだ。一応、アバターが動かしやすくなるという効果もあるものの、そこまで劇的な効果はない筈だ。
まぁ、ある意味ではプラシーボ効果なのかもしれない。
「……大丈夫かの、あの2人」
「アハハ……」
流石にスライム相手にやられはしないとは思うが、どうだろうか。ゲームによってはかなりの強敵だったりする場合もあるし、このゲームでもその手のスライムが居ないわけではない。ただ、そうだとしてもまだ先の方に出る敵となるだろう。
この手のゲームだと、ゲーム内の肉体をどれだけ自分のイメージ通りに動かせるかどうかが肝となってくるだろうから、そのセンスが無いと大変かもしれない。
そう考えると、僕は多分そのセンスは無い方なのかもしれないな。
取り敢えず、『リリーブテンション』の効果があるうちは、それまでよりある程度身体は動かしやすくなるだろうから、今回は特に問題ないだろうと思っている。
「じゃあ行きます! 『ダッシュ』!」
まずランスがスキルを叫ぶと、先程のルヴィアのように急加速して前に飛び出る。
そして勢いよくジャンプして、そのまま長槍を勢いよく振りかぶると、まずは右側のスライムに向けて攻撃を仕掛ける。
「くらえっ、『霧払い』!」
ランスがそう叫んだ瞬間、槍の先端の刃の箇所が白く光り、そのまま素早く振り下ろす。
【槍術】の初期アーツか。確か、移動しながらの切り払いにダメージ補正が追加されるんだったか。漢字が霧を払う方になってるのがユニークだ。霧を払うだけの速さで槍を振るうという意味もあるのだろう。
しかし、スライムは咄嗟に左に跳ねることでその攻撃を素早く躱す。ランスが放った場所は別に悪く無かったが、今回は相手の行動の方が早かったようだ。
ランスは悔しそうに飛び跳ねたスライムをそのまま睨みつける。構え直そうと足を上げようとしていたから、僕は咄嗟に声を上げる。
「ランス! その構えのまま、左に槍を薙ぐんだ!」
「……? 了解っす!」
僕の出した指示に従い、ランスは避けられて構え直そうとしていた槍を、無理やり左側へと振り抜く。
その槍の機動の先には、ちょうど飛び跳ねて避けていたスライムがもう一体のスライムとぶつかって固まっており、運良く2体まとめて切り裂くことに成功する。
ヒットした際、ランスの持つ槍は刀身が光ったまま――つまりアーツの効果継続中だったので、アーツによるダメージ補正が与えられ、だいたいHPゲージの半分より少し多いくらいの位置まで、2体のスライムのHPが削られる。
「えっ!? アーツが継続してる!?」
ランスが信じられないようなものを見たかのように驚いていた。まぁ、情報を調べてなかったら驚くのも無理はないだろう。
ベータテストの時点でアーツの発動状態についての検証が行われたらしく、その際に攻撃系のアーツの場合、回避されたりして攻撃が当たらなかったときは、地面に武器が接触するか再度武器を構え直すまでそのアーツの発動状態が継続している事が明らかとなっていた。
ただ避けられた場合、普通なら攻撃を放つ場所を変更しなければいけないので、再度構え直す必要があるので、普通はそこでアーツの発動状態は切れてしまう。
そこを、今回はたまたま槍でなら届く範囲にスライムが飛んでいたので、無理やりアーツ発動状態を継続させた形となる。
普通なら狙ってそんなことは出来やしないのだが、それを可能としたのはランスのセンスによるものだろう。
長槍というリーチの長い武器とランスの咄嗟の動きの良さとが噛み合って、見事成功したということになる。
まぁ、『リリーブテンション』による緊張状態の解消による効果も大なり小なりあるのかもしれない。
ただ、仮に同じ状態や同じステータスで、同じ武器を使っていたとしても、僕にはできない芸当だろうというのは容易に想像できた。
その点で言うと、ランスはかなりのこのゲームの戦闘におけるセンスがあると言えるかもしれない。
そんなランスだが、流石に無理な体制のまま攻撃を放ったためか、そのままの勢いで転んでしまう。
だが、彼は決して一人で戦っているわけではない。
「た、頼んだ、ミリィ!」
「了解……『ファイヤーボール』!」
ランスの叫びとほぼ同じタイミングで後ろに控えていたミリィが『ファイヤーボール』を発動する。
初心者の杖の先から発生した火の球はそのまま固まっていたスライムの方に向けて勢いよく発射され、片方のスライムに命中すると一気に燃え上がる。
もう片方のスライムもすぐに放たれた2発目のファイヤーボールが命中し、そのまま焼き尽くされる。
2体のスライムが消滅すると、戦闘は終了しドロップアイテムが分配される。
〈ジョブ『ブラッドサポーター』がレベル2になりました。それに伴いジョブアビリティ『ドラゴンサポート』がレベル2になりました〉
〈アビリティ【後方支援】がレベル2になりました。それに伴い、新しいスキル『マジックアシスト』を覚えました〉
今回はまともに分配された経験値を貰えると思ったが、なんとルヴィアの方にまたしてもその多くを取られてしまった。何故だと思ったら、どうやら【常在戦場】の効果でルヴィアは常に戦闘に参加している扱いになっているらしい。
結果としてプレイヤーレベルの方はレベルが上がらなかったのだが、今回は支援スキルをこまめに使ったことでジョブとアビリティの方にそれなりの経験値が入っていたのか、今回の戦闘終了後にはそれらのレベルアップのアナウンスが追加で鳴り響いた。
まぁ、こっちのレベルは行動次第なので、最初はそれなりに上がりやすいらしい。
【後方支援】の方のレベルアップでは新しいスキルを覚えたが、これは『アタックアシスト』のINTを対象としたものとなる。ミリィやルヴィアみたいなスキルを攻撃手段として使う相手にはピッタリの効果だ。
一方で、ランスとミリィは戦闘終了後もしばらく呆けて自分の手や身体を見つめていた。
どうかしたのだろうか。もしかして、スキルを使ったことで何かしら変な影響でも出たのだろうか。
心配して2人の方へ近づいた僕だったが、それが全くの見当違いであったことに気付かされる。
「す、すすす凄いっすよ、リュートさん! めちゃくちゃ身体動かしやすかったです!」
「うん……2発目のファイヤーボール、ギルド登録試験の時はもう少しかかったのに、すぐに撃てた……すごい」
2人は爛々とした眼差しで僕を見つめてくる。
どうやら『リリーブテンション』の効果は僕が想定していた以上に高かったようだ。
ただ、この効果はまだゲームに慣れていないから顕著に感じられるだけで、将来的にはステータスアップ系のアビリティレベルを上げたりすることで、このスキル無しでも同じように動けるようになる……かもしれない。
その点はランスたちがどう立ち回っていくかで決まることだろう。
因みにこのスキル、ドラゴンには緊張状態の回復効果しかないのだが、ルヴィア程のランクの高いドラゴンだと、そもそも緊張状態になるような相手に出くわすこともあまりないので、はっきり言うと使い所はなかったりする。
「フフフ、そうであろう、そうであろう。我が主殿は凄いのだ」
そんな2人の尊敬の眼差しを見て、ルヴィアが誇らしそうに胸を張る。いやなんでお前の方が誇らしげなのだろうか。
まぁ、僕もルヴィアが凄いと言われて嬉しかったから、似たようなものなのだろう。
「……それにランスも、あそこでスライム2体を斬ったのは、カッコよかったよ?」
「そ、そうかな? でも、それもリュートさんのお陰だからね! ミリィもトドメのファイヤーボールは良かったよ!」
「……フフッ、ありがと」
ランスはミリィに褒められていて少し顔を赤らめていたし、ミリィもランスから褒めら返されて嬉しそうにしていた。うーん、青春だねぇ。
……さて。取り敢えずこれでスライムの討伐については達成済みになった。これらは常設の討伐依頼となっており、基本的に記載されている討伐数以上を倒しても依頼の報酬は変わらないものとなっている。
後はランスたちはクスリ茸の採集、僕らは薬草の採集とグレーウルフ3体の討伐となる。
薬草はこの付近でも探せば見つかるだろうが、流石に他のプレイヤーが集めて回ったのかそんなに数は多くない。そういえば、採集系をするならここを勧められているんだっけ。
一応、プレイヤー毎にそういう採集ポイントは個別で発生するのだが、リアルを再現するために全体で取れる量が設定されているらしく、皆が多く取ればそれだけ採集ポイントは減少するらしい。
確か、薬草もクスリ茸も10個の納品が必要なので、ある程度採集ポイントを回らないと集まらないはずだ。
ある程度時間が経過すれば再度採集ポイントの数は増えるのだが、流石にそれを待つのも面倒だろう。
そうなると、薬草も森の方で探したほうが良さそうだな。まだそっちならモンスターのレベル的に採集目的のプレイヤーは少ないだろうし、手付かずな可能性がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます