第27話 ルヴィアのスライム討伐
ファスタの外壁に近い草原でモンスターと戦っているプレイヤーの姿は本当に疎らだ。
おそらくその理由は、この付近ではスライムの他にノーマルラビットとアースラットしか出現しないからだと思う。
ノーマルラビットは文字通り普通のウサギであり、アースラットは野ネズミのことを指す。リアルと同じような姿ではあるが、名前は少しだけ捻ったらしい。一応、どちらも土属性のモンスターだが、属性攻撃などはせずに体当たりなどしかしてこない。
これらのモンスターはサイズが小さいため、そもそも遭遇しにくく、モンスターの説明によればノーマルラビットもアースラットもそれなりに素早いため、攻撃を当てるのに最初は苦戦するかもしれないとされている。
ただ、スライムも含めたこれら3種のモンスターは、
また、僕らの依頼の目標となっているスライムはその2種と比べると素早くはないので、しっかり狙って攻撃すれば簡単に倒せるだろう。
尤も、簡単に倒せるということは当然ながらあまり経験値は貰えない敵となるし、ドロップも美味しくはない。
まだ森の方向に進めば、少し強めの敵であるホーンラビットなどが生息するようになる為、草原で自身の腕を確信した初心者プレイヤーたちは森の方へと進んでいるようだ。まぁ、森の方は少し奥へと進むと、推奨レベルが急に上がるので気をつけないといけないのだが。
掲示板の初心者支援スレでも同様に森の方を勧めている形となっているようで、少し調べていたランスは最初、真っ直ぐに森の方へと直行しようとしていたらしい。
なお、モンスター情報によれば森にはスライムが出現しない――正確には派生種のスライムしか出現せず、通常種のスライムが出現しない――ので、直行していればいつまで経ってもスライムの討伐を達成できないという羽目になっていただろう。
とにかく今は森の方はそういう初心者プレイヤーによって若干混雑しているようだ。後で、グレーウルフの討伐の為にその森の奥へと向かわなければいけないのが今から億劫である。
その後、ランスの【鷹の目】によりスライムの姿を発見した僕らは、そのスライムに向けて進んでいく。そこにはスライムとノーマルラビットが並んで潜んでいた。
「リュートさん、居ましたよ! どうします? どっちが先に行きます?」
ある程度近づいたことで戦闘開始になったが、まだ向こうは特に行動をする様子はない。
このあたりのモンスターの場合、戦闘するにしても射程範囲があり、攻撃範囲に入らなければ向こうからは攻撃してこないらしい。
それでいて別に逃げるという行動もしないので、一度戦闘に入ればある程度作戦を考えたり
尤も、時間をかけ過ぎれば流石に逃げるし、森から出てくるホーンラビットなどからは普通に攻撃をしに接近してくるので、この手は通用しなくなる。
「それなら、まずは僕らの力を見てもらうことにしようか、ルヴィア?」
「ん〜? そうさな、アレ程度なら妾の物理攻撃でも余裕で倒せるぞ?」
「そうか。でも念の為こいつは使っておくぞ。――『ドラゴンエンハンス・ディフェンス』」
そう言って僕はルヴィアに向けて右手を翳し、『ブラッドサポーター』のジョブスキルを発動する。
これでこの戦闘中、ルヴィアのVITは50上昇していることになるので、スライムやノーマルラビットの物理攻撃を受けてもまずダメージを受けることはないだろう。
まぁ、ステータス値を考慮すれば元から不要だろう。ただこのままだと『魔力供与』も使わずに何もしないまま終わりそうだったから、とにかく何かしようと思って発動しただけだ。
「む。そんなことをせずともいざというときは『闘気外殻』で耐えれるというのに」
「一応、念の為さ。……というわけで、最初は僕らに戦わせてくれるかな?」
ランスとミリィの2人に問いかけると、2人共コクコクと頷く。人間の姿のドラゴンの実力がどのようなものなのか、気になって仕方ないという様子でルヴィアの姿を見ている。
それじゃあお手並み拝見と行こうか。……と言っても、すぐに終わりそうな気もするが。
「まずは先手必勝! ……っとなぁ!」
ルヴィアは素早く前に飛び出ると、まずはスライムに向けて横側から蹴りを入れようとする。この子はまず足が出るんだな。
因みにギルド登録試験でも見せたこの急加速だが、どうやらアーツの『俊足』を発動したらしい。
なお、ドラゴンの場合は声に出さなくてもスキルやアーツは使用可能だ。何故なら喋れない個体がほとんどだからだ。 ただし、『ドラゴンブレス』は固有スキルのようなものらしいので、また別の話になるようだ。
因みに『俊足』は3秒間自身のAGIを2倍にする効果を持つらしい。消費SPも10と少ないので、ルヴィアは先制に使ったりしているようだ。
基本的に、ドラゴンはこちらから指示をしない限りは自身で考えて行動する。特にルヴィアのようにはっきりと自我がある場合は本当に自由気ままに動き回る。
一応、戦闘中に契約者が指示した命令は聞いてくれるらしいが、ドラゴンとの信頼度が低いとたまに命令を聞いてくれなかったりするようだ。
僕はまだ命令らしい命令をしてはいない、というよりもまだルヴィアの戦闘スタイルをまだうまく把握していないだろうから、指揮をするならそれをしっかり把握してからになるだろう。
「ハハハ! 脆いなぁ!」
ルヴィアによって蹴りつけられたスライムは、凄まじい勢いで横方向に吹っ飛ぶ。
あわやそのまま場外に吹き飛ぶかと思ったが、その途中で砕けるようなエフェクトを発生させてスライムは消滅する。
……実はモンスター解説によるとスライムは衝撃を吸収するから物理攻撃が若干効きづらいらしい。それでも通常攻撃で難なく倒してしまうのだから、なんというか流石はSSSSランクドラゴンという感じだ。これでレベル1というのだからなお驚きだ。
VITも硬くなっているし、そもそも敵も柔らかいからか反動ダメージも受けている様子はない。
ノーマルラビットは、そんなルヴィアの様子をしっかりと目撃していたからなのか、通常なら取らないであろう逃走モーションを取る。
「
そこにルヴィアが追いついて爪で切り裂いた。
その際に彼女の爪が鋭く伸びたように見えたのだが、その通り伸びている。
ルヴィアが持つアーツ『ブラッドクロー』の効果だ。これは自身の血を凝固させ、鋭い爪を作り出すというもので、ゴーレムなどのとても硬い相手はともかく、そうでない敵には剣で切り裂くのと同じような効果を与える。
普通に爪で攻撃しても格闘扱いになって攻撃の性質が『物理打撃』になるのだが、これは一応特殊な爪を形成することで『物理斬撃』扱いとなる。
モンスターによっては斬撃と打撃とで、攻撃の効きが変わったりする。また、魔術スキルにも斬撃や打撃の性質を持つものが存在したりするため、それらをうまく使い分けられると、どのような相手でも立ち回りやすくはなるだろう。
まぁノーマルラビットの場合、どちらの攻撃でも同じくらい効くのだが。
「……ふむ、まぁこんなものよ」
爪で切り裂かれた角なしホーンラビットはそのまま崩れてゆき、消滅。
全ての敵性モンスターが倒れたことで戦闘が終了し、ドロップアイテムが分配される。
システム上、戦闘に一切関与していなくても同一のパーティーならドロップアイテムやプレイヤーレベルの経験値は均等に配分される仕様になっており、そこから更にドラゴンを召喚しているとドラゴンの方に経験値が分配される仕様になっている。
そしてその時の割合は御存知の通り、ドラゴンの方に圧倒的な比率が当てられている。
なので、今回の戦闘で僕が得た経験値量は、一切戦闘に参加していないランスたちよりもかなり少なくなっていた。まぁ、元からスライム相手なので得られる経験値はかなり少ないのだが。
因みに常時召喚のドラゴンを連れ歩いている場合、そのドラゴンが戦闘に参加しなかった時はドラゴンにはあまり経験値が入らないようになっているらしい。そうでないと流石に常時召喚持ちのドラゴンと契約しているプレイヤーが不憫となってしまうからだ。
なので、次の戦闘をランスたちに任せた場合はルヴィアにあまり経験値は入らないようになる為、ある程度経験値が貰えるかもしれない。まぁ、それでもレベルアップはしなさそうだが。
「す、すごいっす! 流石はSSSSランクですね!」
「真っ赤な爪……かっこよかった……!」
ルヴィアの戦う姿を目のあたりにして、その実力を理解できたであろうランスとミリィはキラキラした眼差しでルヴィアの姿を見つめていた。
そんな2人の様子を見て、満更でもなさそうな表情を浮かべるルヴィア。顔に出てるぞ。
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