第2章 冒険の始まり

第22話 ちょっとした騒動

 ギルドで3つの依頼を受けたあと、ギルドショップに置いてある装備やアイテムを見てみたのだが、思っていたよりも回復アイテムの単価が高い。チュートリアル特典でもらった初級ポーションが一つ1000ドラドもした。


 他には空腹値を回復するための食事アイテムである携帯食料や、【料理】持ちでないプレイヤーでも食事アイテムを作ることができる『簡易調理キット』が置いてあった。そちらは携帯食料が1個100ドラド、簡易調理キットが1000ドラドと破格の安さだった。


 そして僕が譲り受けた地図やモンスター情報の冊子だが、それそれ5000ドラドも必要だった。


 ここまでアイテムの値段に差がある理由としては、ポーション系は生産職ギルドが生産したものを商人ギルドを通じて仕入れているのでどうしても高くなってしまうようで、逆に携帯食料などは冒険者ギルドの職員が頑張って作っているので安くなっているようだ。


 地図やモンスター情報が高いのは、まぁ 情報料というものなのだろう。冒険者ギルドも決して慈善事業ではないということだ。


「それにしても空腹値か。疲労度といい、ゲージ化されていない変動系のパラメーターもあるんだな。気を付けないと」


 空腹値とは、お腹が空いているかどうかを示す値であり、時間経過や様々な行動で減少する。この空腹値が一定値まで下がると、特殊な状態異常である『空腹状態』になってしまい、少しだけ動きが鈍くなる。これが空腹値が減少してきたというサインとなる。


 そして、0になってしまうと飢餓状態になって即死に戻りだ。まぁ、その前に空腹自体を耐えられなくなるだろうが。


 ベータテストの頃だと、何もしなくても時間経過で『空腹状態』になっていたらしい。それが約8時間だったので、だいたいそれくらいを目安に食事をするといいと言われている。また、動けばそこから更に2時間ぐらいは縮まるとのことだった。


 そして疲労度についてだが、これは単純に疲れたかどうかの指数になる。ずっと移動したり、ずっと戦闘し続けたり、ずっと生産活動していたりすると溜まっていくようで、それが一定値まで溜まるとこれまた特殊な状態異常である『疲労状態』になる。


 そうなるとゲージ系以外のステータスがどんどん下がっていくので、こまめに休憩を取る必要がある。これは休めば下がっていくので空腹値よりは気にする必要はなさそうだ。


 因みに、活動時間がゲーム内時間で96時間の内の90時間を超えると『睡眠不足状態』となるらしい。これは回復不能な『空腹状態』と『疲労状態』が常時発生し続けるようになるもので、治すにはリアルで6時間以上のログアウトが必要となると公式が公表している。


 これはリアルで丸一日ゲームをプレイした場合に生じる事なので、もう少しちゃんと休んでくれという運営からのメッセージなのかもしれない。


 さて、購入するアイテムについてだが、取り敢えず腹が減っては戦はできぬと昔から言われているように、この手の空腹値の回復アイテムはHPやMPの回復アイテムの次に重要なものとされている。なので、僕も先人に倣って携帯食料を10個と簡易調理キットを購入する事にした。


 これを買うと、普通なら地図かモンスター情報のどちらかしか手に入れられないというのが、中々痛いところではある。僕の場合は譲ってもらったので問題なかったのだが。


 また置いてある武器も試しに触ってみた。木製の武器は初期装備よりも軽く取り回しやすいが、武器耐久値がやや低いのが難点だろう。あと僕の場合は【加工】でも作れるのでわざわざここで買う必要はないだろう。


「おぉ、鉄製の武器か。これも試しに……ん?」


 次に鉄製の武器を見つけたのでその中から『鉄の剣』を持とうとすると、剣は机に引っ付いたように動かず、持ち上げることはできなかった。


 どうやら僕のSTRの値が低すぎて、筋力制限に引っかかってしまったらしい。


「クッ、アハハハハハ! なんだ、その無様な姿は! 鉄の剣も持てぬとは……クフフ!」


 その姿を見て、ルヴィアがあまりにも可笑しかったのか、かなりの勢いで笑っていたので僕はつい苛ついてしまい、思わず彼女を送還してしまった。


 笑いながらそのままシュンと光とともに消えるるヴィア。


「……あ、しまった」


 その結果、ギルドにいたプレイヤーの多くにルヴィアがドラゴンだということが丸わかりになってしまい、辺りは騒然となった。詰めかけてくるプレイヤーに対して、流石にマズイと思ったのか慌ててギルドの職員が僕を取り囲んでくれた。


 そのまま、イーリアの案内によって裏口から速やかに冒険者ギルドを後にすることができた。よくあの混雑の中、出れたなと思う。ありがとう、イーリア。


「……すまない、ルヴィア。勝手に送還しちゃって」


 その後、路地裏でルヴィアを再度召喚し、苛ついて軽率に送還した事を謝った。


「うむ、気にするでない。妾も主殿の事を馬鹿にしたように笑ったのが悪かったのだ。思えば、妾もMPが低いので同じようなもの。だからその……すまぬ!」


 ルヴィアも同じように馬鹿にして笑ったことを謝ってきたので、この場はどっちもどっちということで何とか落ち着くことになった。


 因みにその際の召喚にかかったコストは驚きのMP消費250である。普通はMPを50消費する程度の筈なので、ざっくり5倍は増えていることになる。


 他の常時召喚系のアビリティでもここまで消費量が増えなかったと記憶しているので、おそらく【常在戦場】には常時召喚以外の効果も含まれているのだろう。後で確認しておかないといけないな。


 流石にこの量を回復するには少し時間が掛かりそうだったので、僕は消費したMPを回復する為にマップを確認して、神殿近くにある泉に向かう。


 なんでも、ここに湧き出ている水は龍神の加護を受けているとかなんとかで、ゲージ系のステータスを回復することができるというものらしい。残念ながら空腹値や疲労度は回復しないが。


 こういった水は市街地エリア以外の探索できるフィールドエリアにも湧き出ている事があるらしく、その場所はモンスターが近づいてこないことからセーフティーエリアとして利用されているらしい。そこでならフィールドエリアであっても安心してログアウトが可能だろう。


「うむ、神の加護がうまいぞ!」


 ルヴィアが泉の水を飲みながら謎の発言をしているが、無視しよう。


 ……しかし、こういう全回復系のスポットがタダで使えるのは非常に優しいと思う。僕が前にやったゲームだと宿屋に泊まったり、教会でお布施を払って回復する感じだったし。


 因みにこのゲームでの教会はこの聖竜神殿がそうだとして、宿屋もちゃんとベータの頃から存在している。さっきも開放されたと通知があったし。


 ただ、それは休めば回復できるというものではなく、夜の時間に利用する機能として存在しているようだ。


 夜の時間は昼の時間よりも出現するモンスターのレベルが高くなり、周囲も暗くなって戦いづらい環境になることから、ベータテストの最初は何もやることがなくてログアウトするというプレイヤーが多かったらしく、その際に利用できる機能を……ということでベータテストの途中に実装されたらしい。


 その機能だが、この宿屋を利用することで夜時間の間に自身のプレイヤーレベル、ジョブレベル、セット済みのアビリティのアビリティレベル、そしてパートナードラゴンのレベルの経験値を獲得することが出来るというものになる。


 因みにその間はログアウトしてもしなくても問題ないらしい。仮に宿屋利用中に一度のログイン可能時間の限界になると自動的にログアウトすることになる。


 その際は、ログイン可能時間を超過してログインし続けたことで強制的にログアウトさせられた場合のペナルティである、『リアルで3時間のログイン制限』の対象にはならないようだ。


 なお、その時に得られる経験値の量については、利用した際の夜の時間の残り時間に応じて変化する形となる。夜時間が12時間なので最大でその時間分となるようだ。


 因みにこの機能だが、ある程度実力があれば戦いづらくても普通に夜も外で戦闘したほうが経験値の効率は良く、また生産活動などは夜の時間でも普通にできるので、夜の時間にもちゃんとやることがあったプレイヤーたちからは、最後まで利用されることはなかったらしい。


 まぁ、僕としても夜時間に突入するタイミングでログアウトしなくてはならないとなった時に、お金があれば経験値稼ぎに利用するくらいで良いだろうと思う。


 因みに寝る事自体は宿屋でなくてもでき、それこそ夜で無くてもできる行動である。


 また、このゲーム内で寝た時間はリアルで同じ時間の睡眠を取ったのと同じだけのリラックス効果がある事が、テスト中のモニタリングで判明したらしい。なので宿屋は使わずともそのリラックス効果を得るために寝るプレイヤーというのは実は多かったらしい。


 ただ、宿屋以外で睡眠を取るとなると、専用の宿泊用のアイテムを使用したり、生産や商業用に自身部屋を手に入れた後にベッドを導入したりしなければ、その場で雑魚寝をするしか方法はなかったらしい。


 それでも草原等で寝たら気持ちよさそうではある。まぁ、モンスターがいるのですぐに眠りは邪魔されるだろうが。


 因みに一部の猛者は、セーフティーエリアで宿泊用のアイテムを使うことで擬似的なキャンプをしたらしいが、果たしてどういう感じだったのだろうか。少しだけ気になるところではある。


 ……おっと、話がだいぶズレてしまったな。取り敢えず泉の水でMPを回復できたから、今度こそ先に進むとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る