第17話 ギルド登録試験
「取り敢えず、最初はルヴィアの素の力を見せてもらうよ」
「うむ。任せておくが良い、主殿!」
そう言ってルヴィアはゴーレムに向かって突進する。そのスピードは流石はドラゴンというべきか。とても僕のAGIより10だけ高いとは思えないな。
ゴーレムに対して蹴り技をお見舞いしようとしているルヴィアだが、相手は石で出来ているが故にかなり頑丈なようで、ATK120の彼女が蹴りつけてもそこまでダメージを与えている様子はなかった。
逆に硬すぎたのか、ルヴィアは足を擦りながらこちらの方を見てくる。ほんの少しだけだがダメージを食らっているみたいだな。
ちょっとだけ涙目になっているような気もするが、まぁあまり気にしてあげないほうがいいかもしれない。
「……主殿! こいつ硬い!」
「だろうね。見てたら分かったよ!」
流石に肉弾戦で戦うのは分が悪いか。おそらくは戦闘のチュートリアルにはなっているのだろうから、本来ならスキルやアーツを活用して戦う必要があるはずだ。
とはいえルヴィアの場合、アーツも攻撃向けなのは『ブラッドクロー』しかない上に、そっちは明らかにゴーレムには向いてなさそうだ。
まぁ、今回はチュートリアルだし、自分の攻撃がどれだけ通用するのかを確かめるというのも悪くはないだろう。一応、ルヴィアにもさっきそう説明していたし。
僕はジョブ『ブラッドサポーター』の制限により、通常攻撃によってダメージを与えることができない。
ここでいう「通常攻撃」というのは、スキルやアーツ以外での武器による攻撃のことを指すのだが、それが本当に通用しないのか色々試してみよう。どうせ攻撃してこないのだ。なんだってやってやる。
早速、ルヴィアに頼んでゴーレムの動きを止めてもらう。イーリアがその光景になにやら唖然としていたが気にしない。
「ふっ、はっ! よっと! ……うん、ダメだな」
「ホントにダメダメであるな」
い、言い方……。
まぁ、結果として何回か杖で叩きつけたが、ダメージが発生したことを示すダメージエフェクトが発生せず、ゴーレムのHPは全く微動だにもしていない。やはり、ノーダメージのようだ。
本来攻撃をした場合、たとえATKなどのステータス値が低く、更に敵のVITによりダメージが0になったとしても『攻撃』という判定はされるため、ダメージエフェクトは発生する筈なのだ。
それが発生しないということは、攻撃と判定されてないということになる。
つまり、このジョブの特性で通常攻撃は攻撃と判定されなくなり、その結果としてダメージが与えられないということになるようだ。
この場合、攻撃を当てることで発動する効果は確か発動対象外となる。まぁ、そんな武器や効果のスキルは持ってないのだが。
なお、何も武器を持たずに攻撃したり、武器を持つ手以外で蹴りや突進、頭突きなどもしたのだが、どうやらその場合は『格闘攻撃』として扱われるようで、それらもまたスキルやアーツによる攻撃でない限りは全て通常攻撃として扱われ、攻撃判定されずにノーダメージとなった。
結果的にやはりこのジョブに就いている間は、スキルやアーツ、あとは試していないもののアイテムなどを使った攻撃以外ではダメージは与えられないという事が分かった。
とはいえ、ジョブに就く際にもルヴィアが言っていたように、僕のステータス値ではそもそもまともなダメージが与えられないので、仮に通常攻撃で攻撃したところでダメージは0になっていただろう。
というわけで、次は通常攻撃以外の戦闘手段を試してみることにしよう。
現状唯一存在している魔術スキルの『マナボール』をメニューから選択する。すると、手に持った杖の先に魔力の塊のようなものが形成される。
これからどうやって使うのだろうと思っていたら、咄嗟にイーリアが「スキルやアーツを使うにはその名前の詠唱が必要」だということを説明してくれた。
成る程、メニューから選択するだけではスキルやアーツは使えないということか。
「よし、『マナボール』!」
僕がスキル名を叫ぶと、杖の先から魔力の塊が解き放たれる。
しかし、そのスピードはあまりにも遅く、そのあまりのトロさにため息をついたルヴィアが、無理やりゴーレムを引きずってきて、魔力の塊の前に居座らせたことで命中したのだが……その際の衝撃はとても弱かった。ダメージもルヴィアの『ブラッドクロー』による攻撃の何分の1くらいかも分からないレベルで少なさそうだった。マジかぁ……。
使ってみて気づいたが『マナボール』は INTの数値に応じてスピードが上昇するスキルだったようで、そう考えるとINTが20程度ではこんなものなのだろう。改めて見るとホント低いな、僕の火力系のステータス値。
まぁ、そもそもMP消費が10のスキルに火力を求めるものではないな。
取り敢えず、仮にこのスキルを僕が使うとするならば、それこそかなり至近距離で放たないとまず当たらないということが分かった。
ただ、『マナボール』で作り出した魔力の塊にも『魔力供与』でMPを与えらそうな表示が付いていたのが気になるところだ。今はルヴィアに使うのが先なので、後で調べてみようかな?
「……やっぱり、今の僕に戦闘は無理か。よし、それじゃあそろそろ本題の『魔力供与』のスキルを試すとするか。行くぞ、ルヴィア」
「うむ、待っておったぞ!」
そして僕はルヴィアに対して杖を向けると、スキルの使用をイメージする。
スキルやアーツは戦闘中、常時表示されるようになったメニューから選択して使用するのだが、ある程度そのスキルやアーツの効果や内容を理解している場合は、そのスキルやアーツの使用をイメージすることで、さっきのメニューからの選択したように発動待機状態となる。
そしてイメージして使用する場合にも必ずスキルやアーツの名前を唱える必要があるようだ。むしろ、こっちの方が使いやすいかもしれないな。ちゃんと把握していればの話だが。
「――『魔力供与』!」
僕はイメージした『魔力供与』のスキルを発動させ、ルヴィアに向けてMPを100与えることにした。
イメージした通り、ステータスの欄にある僕のMPは【320/320】から【220/320】に減少する。
MPを受け取った側のルヴィアの身体には緑色のエフェクトのようなものが下から上へと走り去っていく。咄嗟に視界に映るルヴィアのステータスを確認すると、それまで【20/20】だったMPの欄が【120/20】という風に表示されるようになっていた。
どうやら無事に渡すことができたようだ。しかし、良かった。上限以上はやっぱり渡せないとかにならなくて。
「よしっ! やれ、ルヴィア!」
「任せよ! 滅龍吐息――『ドラゴンブレス』ッ!!」
ルヴィアが勢いよく息を吸い込むと、その周囲の空気が歪む。そして口を閉じてある程度溜めた後に、その口から紅蓮色の炎が勢いよくはきだされる。
その攻撃を見て、防衛本能からか慌てて逃げ出そうとするグレーウルフのゴーレムだったが、彼女が吐き出した炎の方が圧倒的に速く、あっという間に呑み込まれてしまう。
どんどん進んでいく炎の中で必死に藻掻いていたゴーレムだったが、しばらく経つとその体は動かなくなり、やがてその姿は焼き尽くしてしまったのかのように塵となって消えてしまった。
シンと静まり返った中で、イーリアはその一瞬にも近い間に起きた出来事にただ呆然としており、もはや何があったのかすらよく分かっていなさそうだった。
取り敢えず、ドラゴンブレス一発で事足りたのでルヴィアには余分にMPを与えてしまった事になる。戦闘中に供与したMPは戦闘終了後にリセットされるので全くの無駄になってしまったが、まぁその点は気にしても始まらないか。どうせすぐに回復するし。
「さ、流石ね……。まさかあれを跡形もなく焼き尽くすなんて。……フフ、文句なしの合格よ」
イーリアは冷や汗をかいている様子ではあったが、取り敢えず僕らの実力を認めてくれたようだ。
まぁほとんどがルヴィアによるものなんだけどな。僕の攻撃は悲しいことになっていたし。
「いや何を言っておる。妾もまさかあそこまでの火力が出せるとは思わなかったぞ。流石は妾の専属支援職――『ブラッドサポーター』だけはある」
「あぁ、成る程。ジョブの補正効果も追加されてたのか」
「うむ!」
確かに、そうで無ければたったMP30しか消費しない攻撃でゴーレムが倒れるわけがないよなー。
成る程、このジョブだとドラゴン相手ならかなり高レベルな支援が出来たんだなー。
「――ってなるわけ無いだろ! やっぱり規格外すぎるだろ、SSSSランクドラゴンはぁ!」
そんなルヴィアの規格外な力を見せつけられたところで、僕らの冒険者ギルド登録試験は幕を閉じたのだった。
その後、僕らはイーリアから回復アーツをかけてもらい、各種ゲージステータスを回復することとなった。
少なくとも3種のゲージステータスを回復させる手段なんて序盤にはないし、この感じだと、イーリアはかなり高位の神官系のジョブに就いているのだろうか。これはギルド職員の底知れぬ実力を感じてしまうな……。
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