第18話 ギルドの心得

 その後、僕らは再び冒険者ギルドの受付カウンターに戻ってくることになった。結果はすでに分かっているので、後は事後処理などを行うのだろう。


「――さて! 合格おめでとう! これで君たちも冒険者ギルドの一員よ!」


 カウンターに戻ってから再び面と向かって顔を合わせたイーリアは、そう言ってから預けていたクラスカードを返してくれた。


 その表面には預ける前には無かった、西洋甲冑の兜のようなエンブレムが刻まれている。


 どうやらこのエンブレムが冒険者ギルドに所属している証のようだ。


 これを見せれば冒険者ギルドが身分を保証していると証明してくれて、一定の距離までは自由に行動できるようになるらしい。


「ただし、君たちはまだ新人冒険者。この付近には急に敵のレベルが上がる地点が幾つか確認されているから、慢心して進みすぎないこと。特に北門から先のエリアは初心者には厳しいから、まずは南門から先のエリアを進むことをオススメするわ」


「分かりました」


 イーリアの説明によれば、このファスタの周辺は低レベルのモンスターが多いのだが、少し離れた場所には急激にレベルが高くなるポイントがあるらしく、そういった場所には近付かないようにしないといけないようだ。


 また、北門の先のエリアは推奨レベルが高いらしく、初心者には向いていないらしい。一度このゲームを触れているベータテスターならまだ何とかなるレベルらしいが、舐めてかかればすぐ死に戻りするだろう。


「それと、南門の方に行くのならその先にある村落を見て回ってほしいの」


 イーリアの説明によると、このファスタの近郊を始めとして、拠点となる街の付近には必ずと行っていいほど村としての集落が存在しているらしい。


 それらは街には住めないような人々が暮らす集落となっており、そのような場所にギルドは存在しないようだ。維持費用がかかってしまうためだ。


 冒険者ギルドはそういった集落についても、モンスターや色々な問題から守るため、登録者たちには義務ではないものの定期的にそういった集落を巡回する事を勧めているらしい。


 要するに、僕らに依頼を受けたついでや、そうでなくても探索や冒険のついででいいので、そういう村々の様子を見て来てほしいということなのだろう。


 村の場合、冒険者ギルドが無いために依頼をわざわざ離れた場所にある街のギルドまで伝えに行かないといけない。もしもの時があった際はそれでは間に合わないだろう。


 なので、可能であればそういう村で村人たちが困っているようであれば助けて欲しい、という事らしい。


「勿論、その手の依頼を引き受ければ自動でクラスカードに記録されるわ。それを達成して、ここや別の街のギルドで提示してくれたら、お金は支払うことはできないけど、代わりにギルドポイントをあげるようにしているの」


「ギルドポイント?」


「ええ。ギルドポイントはギルドで使えるポイントで、食事場やギルドショップでお金の代わりに使えるの。これらのギルドポイントは生産者ギルドとも連携してて、そっちの方でも利用可能になっているわ」


 成る程。そういう小さな村の依頼は基本的に報酬が少ないかそもそも無い場合があるので、その依頼を冒険者が受けないという事を避けるために、ポイントシステムを使っているわけか。


 しかし、ゲームシステムとはいえ、このクラスカードは便利すぎやしないか?


「フフ、任せておれ! 困っているものを救うのは妾たちブラッド・ドラグーンの使命だからな!」


「あらあら。それはありがたいわね。多く依頼をこなしてくれれば、ギルドランクも上がるから頑張ってほしいわね」


「ギルドランク?」


 ふと初耳の要素が聞こえたので、イーリアに聞き返す。さっきからオウム返しばっかりしてるな僕。


 すると、イーリアはクラスカードの表面に刻まれたエンブレムの隣に文字がある事を教えてくれた。


 確かにそこには『G』と読めそうな文字が彫られている。


「ギルドランクというのは、ギルド内での評価のことよ。依頼をしっかりとこなすことで上げることができるわ。ランクが上がると特別な依頼を引き受けることができたり、ギルドショップでより上位の装備やアイテムが買えるようになったりするわ」


 つまり、ちゃんと依頼を成功させていれば自ずと上がっていく評価点のようなものらしい。


 ただし、特定のランクからは受けることのできるようになる依頼の難易度もかなり高くなるため、上げたい時にはランクアップの昇格試験を受ける必要があるようだ。


 因みに生産者ギルドにも同様のギルドランクがあるようだが、冒険者ギルドとは別扱いになるらしい。まぁ向こうとは活動内容も違うので当然といえば当然である。


「じゃあ最後に私から忠告ね。……依頼に関して、無理だけは禁物よ。ちゃんと、自分ができる範囲で引き受けること。ここでの依頼もそうだけど、基本的に依頼というのは時間が限られているから、自分が活動できる範囲内で行うのが、一人前の冒険者なの。これ、ギルドの心得としてちゃんと覚えておいてね?」


 このゲームはオンラインゲームなので当然なのだが、リアルタイムで進行する。しかも、時間加速を導入しているから、現実からすればこの世界は4倍のスピードで進んでいることになる。


 なので、このゲームで受ける依頼やゲームイベントなどは期限が設けられているものが殆どとなっている。設けられていないものもあるらしいが、潤花が言うにはそういうのは何度でも受けることができるような依頼くらいのようだ。


 期間を越してしまうと問答無用で依頼は失敗扱いになる。報酬は当然貰えない。


 中には依頼を受ける冒険者の実力を見極め、確実に依頼を達成させるために、委託金を最初に回収するような依頼もあるらしい。当然、成功すれば依頼料と別に委託金は返ってくるが、失敗すればそれも返ってこない。


 そういった期限のことも考慮して、依頼などは引き受ける必要があるということだった。


 尤もその点は自分が行動する時間を逆算して引き受ければいいだけの話であり、そもそも出来無さそうな事は無闇に引き受けないほうが無難となる。


 さっきも言ったが、時間加速の影響で少しゲームから離れただけでかなりの時間が経過してしまうので、いっそのことログアウト前にはこの手の依頼などは報告まで済ませてしまっておいたほうがいいとのだろう。


「それに、あまりにも依頼の失敗が増えるとしばらくの間、ギルドで依頼を受けることが出来なくなるわ。それにランクも下がってしまうこともあるの。だから、気をつけてね?」


「……はい。気をつけます」


「うむ。気をつけるぞ」


 僕らはイーリアの忠告をしっかりと聞き、気をつけることを誓う。うっかりやらかしてしまわないようにしないとね。

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