第11話 武器の選択

 SSSSランクドラゴンのルヴィアと無事に契約を果たし、聖竜神殿を後にした僕らは来訪者の街『ファスタ』を見回していた。


 どうやら聖竜神殿はマップで見た限りは街の中心にあるらしく、街はそこから放射状に広がっている。


 マップには行ったことのある聖竜神殿以外には特に記されてはいないが、重要拠点はそれとなくそうと分かるようなアイコンで表示されている。


 例えばこの神殿は十字架で表示されている。見た感じ全滅した際のリスポーン地点でもあるようだ。


 他には剣と盾が組み合わせられたアイコンが表示されているが、そこに次に進むべき場所を示すポインターが表示されている。


 どうやらそこが『初心者の工房』という武器屋のようだ。ここからだいぶ南に進んだ方向にあるな。


「さて、先の神官が言っておったように早いところ武器を手に入れようではないか主殿」


「あぁ、そうだな」


 周囲には僕と全く同じような格好の人物が男女関係なくゾロゾロと歩いている。おそらく全員がプレイヤーなのだろう。


 時々、肩に小さなドラゴンを乗せている者もいたが、おそらくそれらのドラゴンは【セーブモード】持ちか、元からそのサイズで常時召喚系のアビリティを覚えていたかのどちらかだろう。


 その殆どが僕の以降としていた場所と同じ方向に向けて歩いていた。


 すると、不意に誰かから睨まれているような違和感を肌で感じる。


 何だろうと思って周囲を見ると、他のプレイヤーのほとんどが僕の方を見つめていた。そして僕は隣にいるルヴィアの姿を見て、その視線の意味が理解できた。


 案の定、ルヴィアの存在が目立ってしまっているようだ。そりゃそうだ。こんな姿のキャラが初期装備のプレイヤーの隣に居たら、気になるに決まってる。


「うん、ルヴィア。急いでいこうか」


「んむ? だからそう言っておろうが」


 君のその姿が目立つから早く行こうっていう話なんだよ――とは流石に言いづらいのでそのまま僕らは周囲の目線を無視して、初心者の工房へと向かうことにした。


 幸いにもチュートリアル中は、そのチュートリアルを妨害されることがないように、他のプレイヤーとは交流できないようになっている為、睨まれることはあっても絡まれることはなかった。


「さて、ここが初心者の工房か」


 僕らは目的地である古びた武器屋に辿り着く。早足でかけた事で思ったよりも早く到着することができた。


 この中で武器を選ぶことになる。さっさと決めて次に進もう。


「……らっしゃい」


 中に入ると店の奥のカウンターでタバコを咥えている背の低い髭を蓄えた男性が気だるげに声をかけてくる。その男は、右腕が無さそうだった。


 先に入ったはずのプレイヤーが見当たらないということはチュートリアル中は建物内ではソロプレイになるということなのだろうか。


 男性はカウンターから歩いてこちらの方に近づいてくる。背がかなり低いが、いわゆるドワーフという種族なのだろうか。


 すると男性は、ふと僕の隣にいるルヴィアを見て奇妙なものを見るかのような表情を浮かべる。


「ほう驚いた。坊主、そいつはドラゴンか。初めてこの地に訪れた来訪者に武器を渡す仕事を長らく続けていたが、人の姿のドラゴンが来たのは流石に初めてだ」


 どうやらこの人にはルヴィアがドラゴンだということは分かってしまったようだ。まぁ、この世界ではそういうものなのだろうと思うしかない。


「儂はゴーダン。この初心者の工房の店主をやっておる。かつては名の知れた鍛冶師だったがごらんのありさまでな。今ではこうして弟子の作った武器を売る仕事をしている」


 そう言ってガハハと笑うゴーダン。そういうのはあまり笑えないのだが。


「国王からの伝令でな、来訪者に最初の武器を与える仕事を請け負っておる。この店にある武器から1つ、好きなものを選ぶといい。使い心地を試したい時は、店の裏に練習用の的があるからそれを使うといい。……まぁ、どの武器にしろ弟子が最初に作る初心者武器程度しか与えられんがな」


 そう言うとゴーダンは再びカウンターの方へと戻っていってしまう。そこで、使う武器を選んだら自分のもとに持ってくるといい、と話すと再びタバコを吸い始める。


 なんだか田舎に帰ったときに立ち寄った個人経営の小さな商店を思い出した。そこでも結構ぶっきらぼうに扱われたっけ。


「さて、主殿。どんな武器を使うのかの?」


「そうだねぇ……。一応、戦闘技能は魔術を選んでいるから、魔術スキルの発動体ならどれでもいいんだけど」


 このゲームで存在している武器は多種多様存在しているのだが、この店には今のところは『剣』『短剣』『槍』『斧』『槌』『杖』『盾』『籠手』『弓』というジャンルの武器がおいてあるようだ。


 基本的に武器は物理攻撃ありきで作られていることが多く、僕のように【魔術】の技能アビリティを習得している場合は魔術スキルの発動体となるかどうかが重要になってくる。


 ここにある武器の中では『初心者の杖』だけがその魔術スキルの発動体としての効果を持つようだった。


 勿論、発動体がなくても魔術スキルの発動自体はできるのだが、その際は通常時よりもMPを多く消費してしまうらしい。


 どうやら発動体としての適性がない武器に無理やり魔力を通してスキルを発動するという事になるため、どうしてもMPを無駄に消費してしまうという設定になっているらしい。


 潤花の話では、ベータテストで魔法剣士を目指したプレイヤーが剣を持ちながら魔術を使おうとしたが、只でさえ少ないMPがすぐに枯渇してしまい、まともに使えなかったらしい。


 まぁ僕の場合、そもそも戦闘を考慮していないアビリティ構成なので正直どの武器でもいいのだが、支援スキルの中には魔術スキル扱いのものもあるので、発動体だけはちゃんと用意する必要はあった。


「杖であるか。まぁ、何も持たぬよりはマシだろうな」


「まぁ、戦闘はルヴィアに任せるからね。こいつは『転ばぬ先の杖』ってやつさ」


「そ、そうか! まぁ妾に任せておけば問題ないぞ!」


 ルヴィアは僕の発言に少し嬉しそうな表情を見せる。いい笑顔だね。


 取り敢えず、武器は決まったのでゴーダンの元に初心者の杖を持って歩いていく。


「ん? もう決まったのか?」


「えぇ。僕はこの初心者の杖を使わせてもらいます」


「杖……成る程、魔術使いか。試さなくても大丈夫か?」


 特に戦闘に使うつもりは無いので試す必要はないだろう。適当に相槌をうってから問題ないと答える。


「ふむ。取り敢えずしばらくはその武器で色々やってみろ。同じ初心者武器ならタダで取り替えてやる。ただ、もっと性能がいいものが欲しければ、今の段階だと店で買うくらいだが――割高になるから、外で適当に拾って手に入れる方が手っ取り早いだろうな。もしくは自分で作ってみるのも案外良いものができるかもしれんな。お前さんは【加工】のアビリティを持っておるようだし」


 あくまでチュートリアル用なのでステータスに与える装備補正というものはない。あくまで最初にその武器に応じた戦闘技能のスキルやアーツを使えるようにする為のものだから仕方ない。まぁ、武器耐久値が無いのでどれだけ使っても壊れないという点が特徴ではある。


 僕は戦闘しないつもりなので問題ないが、普通なら早々に外で武器を見つけるか、プレイヤーメイドのものを使ったほうがマシな性能をしているのだろう。というか、このゴーダンの言い方だと杖は【加工】で生産可能なのだろう。よく分からないが、記憶の片隅に留めておこう。


 なお、防具に関してはまた別の店で取り扱っているようで、聞いたときには「防具のことは儂は知らん」といってそっけない態度だった。


「……まぁ何にせよ、外に出るとしたらまずはジョブを身に着けないことには始まらん」


 ゴーダンが言うには、武器を手に入れたら次は『ジョブ案内所』でジョブに就く必要があるらしい。詳しいことはジョブ案内所で聞いてくれとはぐらかされたので、仕方なくジョブ案内所に向かうことにする。


 ジョブ案内所はマップでは聖竜神殿を挟んで逆方向の位置にあるようで、アイコンは大の字になった人の姿を模していた。


「取り敢えず、次はジョブ案内所だな」


「うむ。早く行くぞ!」


 僕らはゴーダンに礼を告げてから、再びファスタの街の街道を歩いていく。


 その最中に街の様子を見てみると、さっきまでと異なりプレイヤーの中に初期装備とは違う防具を纏う人がごく数人ほど混じるようになってきた。


 おそらくは先んじてログインしていたベータテスター辺りが街に戻ってきたりしたのだろう。


 お陰でルヴィアを見る好奇の眼差しが心なしか少なくなったような気がしたので、こちらとしてはありがたい限りだ。

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