第10話 世界への第一歩

「えぇーい! 妾を無視して話を進めるんじゃあないっ!」


 すると、僕がダブリスと話をし続けて放置されたと思ったのか、ルヴィアは突然怒り出してこちらに歩いてくる。そういえばずっと祭壇の上でポーズを取っていたな。


「全く……とんだ来訪者の元に呼び出されたものよ。しかしまぁ、面白そうだから許してやるぞ!」


「ハハハ……そりゃどうも。ところで、君は僕の契約したドラゴン……で良いんだよね? 見た感じ、人間とそんな変わらないような気がするんだけど」


「それはそうだろう。妾のように力の強い龍は自ずと創造主の姿に似た形を取るようになる。同じ存在に祖にする者同士、似た姿になるのは当然よな」


 ん……? どういうことだ?


 僕がよく分からないと言いたげな表情を浮かべているからか、ルヴィアは「はぁ……」と溜め息をついて説明をしてくれた。


 強大な力を持つドラゴンは人間――というよりもその原型となった龍神に似た姿を取る。


 それは神に近い姿である事こそ、強大な力を持つ事の証になるからである。


 また、このような人型の姿になるには体内の膨大なエネルギーを爆発しないように圧縮する必要があるため、少なくとも彼女が属するSSSSランク以上のドラゴンや、そのひとつ下のSSSトライエスランクのドラゴンの一部にしか行うことができない事なのだという。


 なにより、この姿はそれら高ランクドラゴンの有り余る力をこの世界で制御するための一種のセーフティーのようなものでもあるらしい。


「そうなのか。まぁ、色々まどろっこしい事は抜きにして、そろそろ自己紹介しないとね。……僕が君を呼び出した来訪者のリュートだよ。宜しくね、ルヴィア」


「ふむ……成る程、良き名だな! では宜しく頼むぞ、主殿!」


「……主殿?」


「ふむ? 不満か? お主は妾の契約主であるが故に主殿と呼ぶ」


 いや、それは分かるのだが、せっかく名前を教えたのだから名前で呼んでほしいと思っただけなんたが……。


 そう伝えると、ルヴィアは苦々しそうに笑みを浮かべて理由を説明し始めた。


「妾のように力のありヒトの言葉を語れるドラゴンは、その言葉に『力』を乗せてしまうのだ。その力が強く発揮されるのは繋がりのある者の名――故に妾は簡単には主殿の名を呼べぬのだ。力ある言葉は言霊となってしまうからな。もし主殿の名前をうっかり呼べば、それが妾の力の制限を砕く楔となりかねんのだ」


 つまり、うっかりルヴィアが僕の名前を呼んでしまうと、それによってルヴィアの力が解き放たれてしまって世界がヤバい――ということになるのだろうか。


 ハハハ、そんな馬鹿な――と鼻で笑えなさそうなのが目の前にいるんだよなぁ……。


「まぁ、何はともあれこれから共に歩んでいくのだからな。面白いことを期待しておるぞ、主殿?」


 ルヴィアはニヤリと笑みを浮かべながら僕の腕にしがみついてくる。ヒトと同じ姿をしているのだから、その体格は年相応(といっても彼女の本来の年齢は知らないので外見年齢になるのだが)なので思わず驚いてしまうが、潤花からはよくしがみつかれていたので潤花をイメージすればそう緊張しなくなった。すまん潤花。


「……さて。色々あったが、召喚は無事に終わったな。これから外の世界で旅をするにせよ何にせよ、まずは武器がないと厳しいだろう。この街には『初心者の工房』という武器屋があるから、そこで武器を選ぶといい。来訪者には無償で初心者武器を渡すよう国王からお達しが出ているはずだ」


 僕らの話が一段落するのを待っていたのか、不意にダブリスが新たな話題を話し始める。


 どうやらチュートリアルの次の段階の説明のようだ。


 ドラゴンの召喚契約から先のチュートリアルではまずこの施設から出て、武器を手に入れる必要があるようだ。


 僕らはダブリスに連れられ、この神殿の表の方へと歩いていく。


 その際、ルヴィアは祭壇から降りて部屋から出ても送還されなかった。本来なら儀式が終わればそのまま自動的に送還される筈だったのだが、何故かルヴィアの場合だと召喚されたままだった。


「それは妾が【常在戦場】のアビリティを持っておるからだな。これは常に戦場に在るという心構えの元、基本的に主殿と共に召喚されて行動できるというものになる。まぁ、簡単に言うと常時召喚系のアビリティの一つである」


 常時召喚系のアビリティは幾つか存在していることはキャラクリエイトの際に少し触れたが、どうやらルヴィアの持つ【常在戦場】もそのうちの一つだったようだ。


 常時召喚系のアビリティを最初から覚えているドラゴンがパートナーだったのは、実に幸先がいいと言えるだろう。


「へぇ。それは召喚コストがかからなくて便利だね」


「ただし、一度送還してからの召喚にかかるコストは通常のドラゴンよりもかなり多くなってしまうぞ。まぁ、妾をずっと側に置いてくれれば何も問題はないぞ」


 にこやかに笑いながら説明するルヴィア。普通のドラゴンの召喚にどれだけ必要になるのかは分からないものの、ルヴィアの場合はそれらのスキルの発動にそれなりのコストがかかってしまうということか。


 既存の常時召喚系のアビリティでも召喚コストは同じような扱いだったので、この【常在戦場】がどうこうというデメリットではない。


 まぁ消費量にもよるが、とにかく無闇矢鱈に召喚や送還を行わなければ問題はないだろう。サイズ的に市街地エリアも共に行動できるだろうから、より消費量は減るだろう。


「……そういえば、この街の名前をまだ教えていなかったな、来訪者よ」


 神殿のエントランスにたどり着き、扉が開きだした際にふとダブリスが口にする。そういえばまだ外に出てないからマップにも街の名前は表示されていない。


 そして扉が開ききり、その先から差し込む光が一気に飛び込んできて、思わず目を細めた時にダブリスは声を出す。


 その先には、かなり長い道とその左右に広がる街並み、そしてその先にある大きな門と街を取り囲む壁が見えた。


「ここは、来訪者の街『ファスタ』――歓迎しよう。来訪者リュートよ。良き、ドラゴニアライフを」


 ダブリスはあの時、女神アリエスに言われた言葉と同じものを口にしていた。


 神官だからなのか、それともこの世界の常套句なのかは分からないが、僕はその時、世界に歓迎されている事を心から思ったのだった。


「良きドラゴニアライフか……」


 僕は隣で共に立っているルヴィアの姿を一瞥すると、そのまま扉の先の街の中に足を踏み入れる。


 ここからが本当の、この世界への第一歩なのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る