第8話 召喚石

 この召喚石の選択自体はベータテストの時にもあったので、潤花の話やネットの情報で既にどういうものなのかは把握している。


 その時はさっきのキャラクリエイトと似たような空間で行われただったらしいが、取り敢えず見た限りでは場所と立会人以外の大きな違いはなさそうだった。


 まず、色がついている召喚石だが、これはその色に応じた属性のドラゴンのうち、Aランクのドラゴンが必ず手に入るというものとなっている。


 属性は基本的に火・水・風・土・光・闇・無の7つに別れているのだが、最初の召喚石で選べる属性は火・水・風・土の4種類となる。因みに無属性は属性を持っていないという扱いになる。


 それぞれ赤が火、青が水、緑が風、黄が土というように対応している。目当ての属性のAランクドラゴンが欲しいときは、これらの召喚石を使うといいだろう。


 次に透明の召喚石だが、これは『未知の召喚石』と呼ばれており、属性もランクも決まっていない、どんなドラゴンが召喚されるか分からない召喚石となっている。


 先程もAランク確定などと言ったが、ドラゴンにはランクというものが存在し、基本的にはランクの高いドラゴンの方が初期ステータス値や最大レベル、各種能力などが高いとされている。


 属性の召喚石で確定で召喚できるAランクというのは比較的高めのランクとなる。


 その下にBランク、Cランクと続き、最低ランクのDランクがある。


 上にはSランクやSSランクなどが存在し、ベータテストではそのSSランクのドラゴンが、フィールドやイベントなどで出現するドラゴン含めて確認された最大のランクだったらしい。


 未知の召喚石ではランクが決まっていないので、CランクやDランクのドラゴンが出ることもあれば、Sランク以上のドラゴンが出ることもある。


 ベータテストの段階ではかなりの確率でCランク以下のドラゴンが出てきたらしいが、一部ではSランク以上のドラゴンを召喚することに成功したプレイヤーも複数居たらしい。さっき触れたSSランクのドラゴンも実はこの未知の召喚石で召喚したドラゴンとなる。


 かなり分の悪い賭けになるが、高ランクのドラゴンが出てくるかもしれないということで、ベータテストでは未知の召喚石を選ぶプレイヤーは多かったらしい。まぁ、その結果は散々だったようだが。


 結果として、最初は手堅く強力なドラゴンを手に入れてから進めたほうがやりやすいということから、Aランク確定の属性の召喚石を選ぶことを推奨する考察サイトが多かった。だから、多分本サービスだと属性の召喚石を使うプレイヤーが多くなる予感はする。


 僕のプレイスタイルの場合、自分に戦闘能力があまりない事からドラゴンには戦闘能力が無いと困る。


 その点で言えば、Aランク確定であれば、その条件は生産特化や防御特化などでない限りは十分に満たすことができるだろう。


 だが……。


「さて、どれにするか決まったかね?」


「はい。僕は……この召喚石にします」


 そう言って僕が選んだのは属性石ではなく、『未知の召喚石』の方だった。


 確かに確率的にはCランク以下のドラゴンが出てくることがほとんどなのかもしれないが、それでも試してみたいと思ったことがある。


 それはLUKの数値の影響だ。ステータス値の割り振りもアビリティによる強化も出来なかったこのステータス値が、僕の場合は何故かかなり高いように見える。


 他のプレイヤーの数値がどうなっているのかは流石に知らないが、流石に1/6以上のプレイヤーはそんなに居ないのではないかと思う。


 なので、その数値の高さに少し賭けてみるのも面白そうだと思った。


「ふむ。その召喚石で本当にいいんだな? かなりランクの低いドラゴンが出てくるかもしれないぞ? 無論、それでもドラゴンなので強力なのは変わりないが」


「それでも、かなりランクの高いドラゴンも出てくるかもしれないでしょう? 僕は運がいいらしいんで多分大丈夫ですよ。何が出ても後悔はしません」


 僕がそう言い返すとダブリスは一瞬面食らったような表情を浮かべ、そして豪快に笑い出す。大男だからか、その笑い声は辺りに響き渡る。


 他に人が居れば何事かと慌てて駆けつけてきそうなレベルだが、他に人がいる気配がないのでその心配はなさそうだ。


「いやすまんな。そこまで自分の運に自信を持った者は初めて見たのでな。……だが、来訪者は自身の能力を見ることができるというし、そこまで自信があるということは、君は相当運がいいのだろうな」


 笑い終わったダブリスは召喚のやり方を教えると言って、僕が選ばなかった召喚石を回収してから神殿の中へと入っていく。


 選ばなかった召喚石はどうなるのかと聞くと、他の来訪者にあてがうという話らしい。


 一応王城の在庫は潤沢にあるものの、5つ全てを一人ずつ渡した場合、国の召喚石が枯渇する為、一人につき1つまでとなっているらしい。まぁ、うまい話はないということだ。


 召喚石はゲーム中、そう簡単に手に入れられるようなものではないので、もう一つくらいあれば召喚に失敗しても気が楽だったのだが、まぁそればかりは仕様なので仕方ない。


「召喚の方法は簡単だ。この祭壇の中心に召喚石を置くだけだ。後は私を初めとした竜神官が儀式を始める。その際に幾らか魔力が吸収されるだろう。そうすることによって召喚されたドラゴンはコントラクターと契約を結ぶことができるのだ」


 ダブリスがそう告げるので、祭壇の中央の窪んだ場所に未知の召喚石を置く。それからダブリスがよく分からない詠唱を始めると、ふと身体の中から何かが抜け出ていくような感覚が襲う。


 おそらくこれが魔力が吸収されるという事なのだろう。視界の左上の方にある現在のHP・MP・SPを表示しているゲージではMPがごっそり減っているのが確認できた。これが召喚コストなのだろう。


 召喚石を中心に魔法陣のような物が展開され、そこから光の柱が立ち上がる。この光の柱の色で召喚されるドラゴンのランクがだいたい判明する。


 金色ならSランク、銀色ならAランク、赤色ならBランク、青色ならCランク、緑色ならDランクといった形だ。


 そして僕の目の前に立ち上がった光の色はそのどれでもない虹色の輝きを放っていた。

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