第6話 悪人面と地味っ子

「おはよ~っす」

「っ!?・・・なんだ、伊坂か。おはよう、伊坂」

「おはよ~・・・いや、教室にヤクザが入ってきたかと思ったぜ。マジで」

「お前らなぁ・・・割と傷つくんだぞ、そういう反応」

「悪い悪い」


 朝の教室。

 オレはいつものようにクラスメイトと挨拶を交わしていた。

 ドアを開けた瞬間、教室の空気がシンと静まりかえったが、オレだとわかるとすぐに弛緩する。

 以前とは比較にならないほどクラスに馴染んでいるとはいえ、オレの顔はよほど怖いのは変わらないということか。

 まあ、前はオレが教室に入ってから、白上さんが来るまで全員無言だったことを思えば、よくぞここまで来たものだと思うが。

 と、そんな感じで雑談をしていると。


「おっはよう~っ!!」

「おはよ~、羽衣」

「おはよう、白上さん」


 彼女が入ってきた瞬間、教室が明るくなったような気がした。

 海外の血が入っているのか、色素の薄い、ポニーテールに結われた銀色に近い髪。

 スラリとした長い脚に、均整の取れた体つき。

 なにより、見る人の心まで照らすような、まぶしい笑顔。

 白上羽衣は、今日もみんなの太陽だった。


「おはよう、伊坂君っ!!」

「うあっ!?あ、お、おはよう・・・」


 見蕩れていたら、いつの間にか白上さんが近くまで来ていた。

 白上さんの席はオレの後ろだから、近くにいることはおかしくないのだが、やはりここまで至近距離だと緊張がヤバい。

 しかも、ここ最近の白上さんのオレはストーカーをしていたわけで、その後ろめたさから会話を最小限にしていたのも後押ししている。

 つまり、いつかのように、オレのあいさつはどもっていた。


「見ろ、また伊坂がキョドってんぞ」

「ああ。あの凶悪なツラでな」

「ギャップがすごいよね。ちょっとエモ・・・うん、エモくはないな」


 さっきまで雑談をしていた連中が何やら好き勝手にしゃべっている。

 後で覚えていろよ?

 お前らが他のクラスの連中と話してるとき、背後からめっちゃ威圧感醸してやるからな。


「・・・伊坂君?」

「うぇっ!?なっ、何かな?」


 オレがクラスメイトにガンを飛ばしていると、白上さんがオレをじっと見つめていた。


「・・・なんか、伊坂君、雰囲気変わった?」

「え?そ、そんなことないと思うけど」


 白上さんと話すときのオレは、いつもこんな感じだ。

 むしろ、早く変わりたいとすら思っている。


「う~ん・・・気のせいかな?なんか妙な感じがしたんだけど。うん、私の気のせいだったみたい。変なこと言ってごめんね?伊坂君」

「い、いやいやっ!!そんなことないって!!全然!!ぜんっぜん気にしてないからっ!!」

「もう、そんなに慌てなくても大丈夫だよ・・・あ」


 そこで、不意に白上さんが、オレに向かって手を伸ばした。


「っ!?」

「はい。糸くず付いてたよ?」

「あ、あ、あり、ありがっ!!」

「ふふ、『ありがとう』って言いたいんでしょ?ちゃんとわかってるから、落ち着いて?ね?」

「う、うん・・・ありがとう」

「どういたしましてっ!!」

「あ、そろそろ先生来るね。静かにした方がいいかな」

「う、うん」


 『ニパッ』と効果音でも付きそうな明るい笑顔で、オレに笑いかけてくる白上さん。

 ああ、オレみたいな悪人面にも、分け隔てなく挨拶して、笑顔を向けてくれるなんて、この人の前世は天使だったのだろうか。

 っていうか、本人も自覚のないような『妙な感じ』があったからって、それをわざわざ口に出して教えてくれるか?普通?

 しかも、男子の服に付いた糸くずを、手ずから取ってくれるか?普通?


(朝からツイてんな、オレ!!)


 全身に、やる気がみなぎるのを感じる。

 朝から、オレのテンションは天元突破していた。

 だから・・・


「「「起立!!」」」

「へ?」


 気がつけば、オレ以外の全員が席から立っていた。


「おい、伊坂。朝だからって寝ぼけてんのか?」

「す、すみません・・・」


 起立の号令に気がつかず、1人だけ椅子に座ったままだったオレは、慌てて立ち上がるのだった。



-----



 昼休みになり、オレは購買で買ったパンを片手に廊下を歩いていた。

 オレの昼飯は母さんの都合によって、弁当だったり購買だったりと不規則なのだが、今日は購買で済ませる日だ。

 なお、学食という手はない。オレが食堂に入って席に座ると、その周辺が空白地帯になるから。

 そして、購買においても、人混みがモーゼの十戒のように割れていくので、あっさり好きなものを買えたりする。

 そこだけ見ると、この悪人面も役に立たないわけではなかったりするのだが、まあそれはどうでもいい話だ。

 

「ちっくしょ~・・・あいつら、好き勝手からかいやがって」


 いつもなら、購買で素早くパンなり惣菜なりを買って教室に戻るのだが、今のオレにそのつもりはない。

 朝のことは、オレの新たなイジりネタとして格好の材料だったのか、休み時間中もかなりからかわれたのである。

 もちろん、クラスメイトたちに悪意がないのもわかるし、オレとしても、そうやって構ってくれるのは実を言うとそこまでイヤじゃない。

 向こうがからかってくるのも、オレが本気で嫌がっていないのをわかってるからだろう。

 しかし、さすがに昼飯時までイジられるのは、少し億劫だ。

 オレは、飯はしっかり味わって食いたいのである。


「久しぶりに、あそこに行くか」


 そんな1人で飯を食いたいオレが向かっているのは、南校舎の四階。

 舞札高校には北校舎と南校舎があるのだが、生徒の教室は北校舎にまとまっており、南校舎には音楽室や理科室、そのほか文化系の部室がある。

 そして、移動の便が悪い四階は、昼休みの間はもっとも人がいないのだ。

 白上さんのおかげでクラスに馴染める前は、いつも南校舎の四階にある物置部屋を使っていたものである。


「うわ、久しぶりだから結構埃たまってるな。まあいいか」


 四階の端にある、机やら椅子やらの備品が山と積まれた空き教室。

 オレはその部屋の隅にある机に積もった埃を手で払った。

 案の定というかなんというか、この部屋はオレが来なくなってから人が来なかったようだ。

 

「オレみたいに、1人で飯食う奴はいなかったってことだな・・・あれ、なんか目頭が熱いぞ?」


 思えば、少し前のオレのなんと寂しいことか。

 1人で飯を食うのが好きな人もいるだろうけど、こんな僻地にまで来るのは、それだけオレが他人との接触を、人を怖がらせるのを避けていた証である。

 それが、クラスメイトにイジられるのが少し面倒だからなんて理由でここに来るなんて、ずいぶんと変わったものだ。

 

「改めて、白上さんには感謝だな」


 白上さんがいなければ、こうはならなかっただろう。

 ほかにも、他人と話す機会が増えたのおかげで会話のスキルが向上した自覚もある。


「魔女っ子と話せたのも、白上さんとかクラスのみんなと話してなかったら無理だったろうな」


 きっと、『あ、その・・・』とか、『えっと・・・』とかしか喋れず、情報を引き出すこともできなかったはずだ。

 あの魔女っ子もオレの同類な感じがしたし、まず間違いなくそうなっていただろう。

 そうなれば、オレは儀式のことを知ることもできず、白上さんや魔女っ子と敵対することもマジでありえたかもしれない。

 まあ、そんなもしものことを考えても仕方がない。

 今は、残り半分くらいになった昼休みで食事を済ませる方が先だ。


「んじゃ、いただき・・・」

『いいから出せよ!!陰キャ!!』


 パンの袋を開け、かぶり付こうとしたオレの耳に、柄の悪い声が聞こえてきた。



-----



「おいおい、これは・・・」


 オレは、パンを持ったまま教室のドアの隙間に目を寄せ、中の光景を見てうめくように呟いた。


『何度も言わせんな!!さっさと部屋代出せよ!!』

『この部室を使えるのはウチらのおかげだって、わかってんだろ~な?』

『は、はい・・・でも、今持ち合わせが』

『ああ?』

『ひぃっ!?ご、ごめんなさいっ!!』


 『オカルト研究部』というプレートがかかった教室の中では、制服を着崩し、金色というか黄土色って感じの髪色をした女子2人が、1人の女子生徒に詰め寄っていた。

 柄の悪そうな2人に対して迫られている方は、小柄で、髪が目元まで伸びている眼鏡をかけた女子。

 言っちゃあ悪いが、いかにも『地味っ娘』といった子だった。

 柄の悪い生徒が、大人しそうな子に乱暴な口調で言い寄るという構図。

 なにより、さっきから飛び交う『部屋代』という言葉。

 これが意味するのは、一つしかないだろう。


「これが、いじめってやつか」


 正確にはカツアゲなのかもしれないが、まあ大差はあるまい。

 

『謝って済むことじゃねーだろ!!』

『ごめんさいって言うだけで金が出てくるのかよっ!!』


 ドカッという音とともに、椅子が倒れる。

 苛立ちを発散するためか、脅しのためか、椅子を蹴り飛ばしたのだ。

 その暴力の気配が、地味な女子をさらに萎縮させる。


『す、すみませんすみませんすみません・・・っ!!』

「いや、これは、見てる方もキツいな・・・」


 何気に、オレがいじめを見るのは初めてで、かなりショックを受けていた。

 他人にひたすら避けられるのもいじめの一種かもしれないが、オレの中でその理由はわかっていたし、世間一般のいじめにある『ウザい』だの『キモい』だのといった下らないことが原因じゃないってのも理解している。

 そして、そうして他人に避けられるオレだから、他の人がいじめられている所に遭遇することもなかったのだ。

 当時、人気のない場所は大抵オレの縄張りという名の食事場所だったし。


『チッ・・・ねぇ、どうする?』


 オレがショックやら過去の悲しい記憶を思い起こしている間にも、事態は進行していた。

 しかも、オレの想像を上回る悪い方向に。


『・・・男、呼んでみる?それで、金取んの』

『え?』

「は・・・?」


 扉越しに、オレは思わず声を出してしまった。

 地味な女子を脅すのに夢中な2人は気付いていないようだし、肝心の地味な子も、何を言われたのか理解できているのかいないのか、唖然とした顔をしている。

 

『え~・・・コイツで金取れる?こんな陰キャで?』

『まあ確かに陰キャだけど、ヤれれば誰でもって奴もいるっしょ。コイツ、胸はそこそこあるし』

『ヒッっ!!』


 それまでの暴力的な雰囲気から、ドロドロと陰湿な空気を醸し出す2人組。

 自分がどういった目で見られているのか悟ったのか、自分の身体をかき抱いて、後ずさる地味な子。

 しかし、そう広くない部室では、すぐに壁に背中が付いてしまった。


『んじゃあ、今日はどうする?もうあんま時間ないよ』

『それならさ、準備しよ準備。ウチらに逆らわないように、どっちが上かわからせてやんなきゃねぇ?』

『オッケー。なら、ウチは写真撮るわ』

『あぅっ!!』


 地味な子ににじり寄る2人組。

 そして、1人が地味な子の横からタックルするようにぶち当たり、よろけた所を捕まえて羽交い締めにする。

 さらに、もう1人はその正面に回り、制服のリボンに手をかけた。


「お、おい・・・ヤバすぎだろ、コレ」


 そんな光景を見ても、オレは動けなかった。

 はっきり言って、死神になって、吊された男と戦った時よりも強い恐怖を感じていたのだ。

 ここまで、ドロドロとした人の悪意を間近で見るのは初めてだった。


「せ、先生呼んでくるか?いや、それじゃあ間に合わない・・・そ、そうだ」


 単純に相手をぶっ倒せばいい怪異との戦いとは勝手が違う。

 どうすればいいのかわからず、オレはドアの外でオロオロとするだけだったが、ふと閃いた。

 それは、昨日魔女っ子に語った時と同じ。


「こんな時、こんな時、白上さんならどうする・・・?」


 オレみたいな悪人面にも話しかけてくれるような白上さんなら、こんな場面は絶対に放っておかないだろう。

 けれど、単純に殴り倒せばいいのかと言えば、それは違う気がする。

 白上さんなら、まず2人組の説得を試みるはずだ。

 しかし、オレにそんなことができるかと言えば、自信がない。

 オレは白上さんに救ってもらったが、他の誰かを同じやり方で助けられるような奴じゃない。

 なら、ならばどうする。

 他の誰かを呼んでいる暇はない。

 オレは、オレのやり方で止めなければならない。


「クソッ!!どうする?どうすれば・・・」

 

 焦りや恐怖、理由のわからない気分の悪さでグルグルと思考が空回り、結局オレは動けないまま。

 そんなオレに、その声はよく響いた。

 

『や、やめっ・・・やめて、ください!!』

「っ!!」


 少女の、涙ながらの声。

 その声を聞いた瞬間、内から急速に湧き上がる衝動に任せるまま、オレの身体は動いていた。





「何やってんだテメェらぁぁぁあああっ!!!」




「はっ!?」

「えっ!?何々っ!?」


 叫びながらオレが部室に入り込むと、柄の悪い2人組の動きがピタリと止まった。

 その様子を見て、オレは思う。


(ヤバい、これからどうしよう・・・)


 勢いで入ってしまったが、はっきり言ってノープランだ。

 しかも、こちらを見る2人組どころか、地味な子の目まで恐怖と驚きに染まっている。

 だが、勢いそのものは残ったままだ。

 それに任せて、オレは口を開く。


「さ、さっきからギャンギャン喧しいんだよっ!!静かに飯も食えないだろうが!!近所迷惑考えろや!!」

「そ、そんなこと言われても・・・」

「アンタがいるとか、知らなかったし・・・」

「ああっ!?」

「「「ひぃっ!?」」」


 全力で睨みながら、『ダンッ!!』と床を思いっきり踏みならすと、目の前の女子3人全員の顔に恐怖が浮かぶ。

 さっきまで脅す側だった2人組が怯える様子を見て、オレの中で急ごしらえではあるが勝ち筋が浮かんだ。


(このまま、脅して追っ払う!!)


 過去、オレはこんな外見故に他校の不良に絡まれたことがある。

 そのとき相手は3人だったが、今のように睨みながら1人の胸ぐらを掴むと、全員が逃げていった。

 正直スマートなやり方ではないだろうが、ギリギリ暴力を振るわずに済ませるとしたら、この方法しかない。


「オレの貴重な昼休みが削れただろうが!!どう責任とんだよ!!ああっ!?」

「ひぃっ!?う、ウチらのせいじゃ・・・」

「こ、コイツが中々言うこと聞かなかったからだし・・・」

「え、えぇっ!?」

「ああ?ソイツが?」


 2人組は、まるでスケープゴートにするかのように地味な子をドンっと突き出してきた。

 押し出された方は呆然としたような表情をしているが、オレにとってはチャンスである。


「そ、そうだっ!!アンタ、コイツ、好きにしていいよ!!」

「そうそうっ!!ウチらも手伝うからさっ!!コイツ使って男から金取ろうって思ってたんだ!!」

「もちろん、アンタはタダでいいよ!!」」

「・・・・・」

「あ~、そうだな」


 オレがわざとなめ回すような視線で地味な子を見ると、少女は顔を青ざめさせたまま、カタカタと震え始めた。

 その姿に罪悪感を覚えるが、あと一押しである。


「中々悪くない話だけどよ・・・オレ、他の奴に見られながらヤんのは趣味じゃねーんだわ」


 言うまでもないが、オレは童貞である。

 しかし、その台詞には説得力があったらしい。


「わ、わかった!!ウチらは外出てるから!!」

「ごゆっくり!!」


 これ幸いとばかりに、2人組は教室を出て行こうとする。

 それそのものは都合がいいが、こちとら人にあらぬ噂を立てられることには一家言持ちだ。

 釘は刺させてもらおう。


「おい!!わかってるとは思うけどよ・・・ここでのことはチクるなよ?もしチクったら、わかってんだろーな?お前らも共犯だってこと、コイツの口から喋らせんからな?あと、この部屋気に入ったから、オレの部屋にすっから」

「わ、わかってるよ!!」

「喋ったりなんかしないって!!」

「そうかよ・・・なら、さっさと失せろ」


 オレがしっしと犬でも追い払うように手を振ると、2人組は脱兎のごとく逃げていった。

 マジでビビっていたみたいだし、多分オレに脅されたことは喋らないとは思うけど。


「まあ、やっちまったもんはしょうがないか」


 この先どうなろうと、オレが止めに入らなければ、胸くそ悪いことになっていたのは間違いない。

 それが防げただけでも良しとしよう。


「・・・っ!!」


 オレが地味な子を見ると、彼女はさっきと同じように全力で後退した。

 まあ無理もないと、オレは苦笑するが、彼女にとってその笑みは舌なめずりする捕食者のように見えたのだろう。


「こ、来ないでくださいっ!!」

「心配しなくても、何も・・・って、危ないっ!!」

「え?・・・あ痛ぁっ!?」


 さっきよりも勢いを付けて、後ろ向きのままさらに距離を取ろうとした地味な子は、当然と言うべきかなんというか、そのまますっ転んだ。

 その拍子に、掛けていた眼鏡が外れて床に転がる。


「だ、大丈夫?」

「うう、痛い・・・」

「あ、これ。眼鏡」

「え?あ、はい・・・」


 床に落ちた眼鏡を拾い上げ、彼女に差し出すと、痛みのおかげで恐怖を忘れたのか、素直に受け取ってくれた。

 そして、涙をぬぐって、眼鏡をかける直前。


「えっ!?」


 彼女の動きがピタリと止まった。


「? どうかした?」

「・・・・・」

「お~い?」


 さっきまでとは比べものにならないほどの驚いた表情を浮かべる地味な子。

 オレが声を掛けても反応がない。

 オレの顔が怖すぎて、とうとう限界が来てしまったのだろうか。

 いや、眼鏡をかけた状態でオレを見ていたのに、外して見たところでさらに見えにくくなるだけだろうし、むしろマシになるはずじゃないか?

 まあ、いずれにせよ、オレはここを離れた方がいいだろう。


「とりあえず、オレはもう行くよ。またさっきの奴らが来る前に、キミから先生に相談した方がいいと思う。オレじゃ信用されないだろうし。それじゃあね」


 そうして、オレはきびすを返して部室を出ようとして・・・


「ま、待ってください!!」

「え?」

「あ・・・」


 呼び止められて、オレは立ち止まって振り返る。

 しかし、地味な子も、言葉が続かないようだった。


「え~と・・・?」

「あ、あのっ・・・」


 お互い、相手の目を見ることができず、かといって気の利くことも言えず、気まずい沈黙が発生する。


(なんか、昨日もこんなことあったなぁ・・・)


 昨日も魔女っ子とこんな感じになったことを思い出していると、目の前の地味な子の視線が、オレの手を、正確には掴んだままだったパンで止まった。


「あ、あの・・・」


 そして、口を開く。


「そ、そのパン、お昼ご飯ですよね?よかったら、こ、ここで、食べていきませんか・・・?」

「あ、はい・・・キミがいいのなら」


 思わぬお昼の誘いに、オレはそんな煮え切らない返事をするのだった。

 

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