第5話 魔女

『気味の悪い子』


 それが、ワタシが家を離れる前にお母さんが呟いていた言葉だった。

 お父さんについてはわからない。

 ワタシは家を出る時も、ワタシの前に現れなかったから。

 そのときに5歳だったワタシには、どうしてワタシがそんな風に言われるかわからなかった。

 ただただ、悲しかったことを覚えている。


『鶫。お前にはね、特別な力があるんだよ。・・・お父さんもお母さんも、その力が怖いんだ』


 おばあちゃんの家で暮らすようになってからしばらくして、そのことを聞いてみたら、おばあちゃんはそう答えた。


『だからね。その力を使うときは、よぉく考えるんだよ?そうしないと、独りぼっちになっちゃうからねぇ』


 頭を撫でてくれるしわくちゃの手に触れながら、ワタシは聞いた。


『ワタシは何なの?どうして他の人と違うの?』


 そのときのおばあちゃんの顔は、少し困ったような、ワタシを労るようなものだった。


『お前はね、『魔女』だよ。とっても偉い魔法使いの子孫なんだ』

『魔女・・・なんか、やだな』


 魔女という言葉を聞いたとき、あんまりいい感じはしなかった。

 魔女といえば悪い人だ。

 本の中では、お姫様をだまして、ひどい目に遭わせる。

 そのくせ、最後にはお姫様と王子さまたちに倒されてしまう。

 そんな魔女が、自分なんだと思いたくなかった。


『鶫』


 ワタシの頭を撫でる力が、少し強くなった。


『そんな風に思っちゃいけないよ。その力を正しいことに使うか、悪いことに使うかは、お前が決めるんだ。魔女は悪い人じゃなくて、魔法を使える女の人なんだから。だからね、鶫。お前が、よく考えて、その力を正しいことに使えるなら・・・』


 おばあちゃんは、ワタシの頭から手を離した。

 ワタシは、頭を上げておばあちゃんの顔を見ると、おばあちゃんはいつもみたいに優しく微笑んでいた。


『鶫にも、いつか・・・』


 その後、おばあちゃんが何を言ったのか、ワタシは未だに思い出せずにいる。



-----


『魔女』


 それは、魔力を持った人間である魔法使いが変貌を遂げた先にいる存在だ。

 魔力は肉体の情報を介して遺伝しやすい傾向にあるが、何代にもわたって魔力を使い続けることで、その肉体と魂が完全に人間から逸脱してしまった存在。

 なぜか女性の方がそうなりやすいことから、魔女と呼ばれるようになったという。

 魔女の使う魔法は千差万別で、稲妻を降らせるのが得意な者もいれば、炎を出すのが得意な者もいる。

 見た目や、純粋な身体能力は人間とそう大差はないが、身体のどこかが魔力によって異常に発達している場合が多い。

 そして、ワタシこと、黒葉鶫は魔女である。


『キミも、人間じゃない・・・?』


 ワタシの目の前で、禍々しい髑髏がまじまじとワタシを見つめてくる。

 普段のワタシだったらびっくりして泣き出してしまうだろうが、今は自分の失言の方が気になって、あまり怖いと思わない。

 そもそも、この死神さんは見た目こそ怖いが、ワタシの『眼』で見る限り、内面はそうでもないとわかっている。


『心映しの宝玉』


 それは、ワタシが生まれながらに宿す魔法。

 ワタシの眼が魔力によって変質した結果、身についていた力。

 その効果は、他人の感情を色として見ることができるというものだ。

 嬉しいなら黄緑、怒っているなら赤、悲しんでいるなら青、楽しいなら黄色、憎しみや敵意ならば黒といった風に見える上、その色の濃さや輝き方から、誰に向けてどのくらいの感情なのかもわかる。

 死神さんは、なぜか色がかなりぼやけてしまっていてわかりにくいが、初めて会ったときには平常心に近い緑色で、さっきまでは少し青っぽい色だった。

 だから、ワタシには死神さんが悪い人じゃないってわかったし、『この先どうしよう?』という命題について思考を巡らせることができた。


「え、えっと、その・・・」


 あんまり意味はなかったが。

 

(ど、どうしよ~~っ!!!)


 ワタシの頭は絶賛混乱中だった。

 まさか、あれほど隠したかった魔女のことを言ってしまうなんて、自分に驚きである。

 だが、どうして言ってしまったかというのは、なんとなくわかっていた。


(い、いくら、初めて会った『ワタシ以外の人間じゃないヒト』だからって・・・!!)

『・・・?』


 ワタシの前で首をかしげる全身鎧。

 見た目は禍々しいのに、なぜかその仕草は妙にコミカルな感じがした。

 それは、ワタシがこの死神さんに少し親近感を覚えているからだろうか?

 そう、今まで魔女であることをひた隠しにしてきたワタシにとって、この死神さんは、『死神の力を取り込んで今の姿になった人間』なんてありえない存在は、ワタシが魔女であるなんてことがちっぽけに思えるようなヒトなのだ。

 おばあちゃんも魔女で、この儀式のことも含めいろんなことを知っていたが、本人曰く『ほとんど人間並み』とのことだったし、本当の人外と言えるのは死神さんが初めてだ。

 ワタシの『眼』で見たところ、悪い人ではないようだし、実際に吊された男からワタシを助けてくれた恩人でもある。

 そんな死神さんが、『自分が人間じゃない』と落ち込んでいるのを見たら、どうしても他人事に思えなかった。


「ふぅ~・・・」

『えっと・・・?』


 そこまでを自分の中で振り返っていると、ワタシは落ち着いていた。

 言ってもいいと思ったヒトであるし、言ってしまったモノはしょうがない。

 そう思ったワタシは、困ったような風にこっちを見る死神さんに向き直った。

 

「そうです。ワタシも人間じゃないんです。ワタシは・・・魔女なんです」


 その告白は、思ったよりもすんなりと口から飛び出した。



-----


『魔女・・・』

「はい」


 オレは、魔女っ子から『魔女』に関する話を聞いた。

 オレが魔女っ子を『魔女っ子』と呼んだのは間違いではなかったようである。

 同時に、納得できることもあった。

 

『オレのことを信じられるのも、魔女の力があるからなのか』

「はい。詳しくは話せませんが、相手に敵意があるかどうかは確実にわかります。死神さんからは、嫌な感じがしません・・・外見はすごく怖いけど」


 最後の方にボソリと呟かれた声は聞こえなかったふりをする。

 素顔もそうだが、今のオレがめちゃくちゃ怖いというのはよくわかっている。

 というか、そんなオレにこうやって接してくれていることそのものが、魔女であることが嘘ではない証拠だろう。


『魔女っていうなら、やっぱり魔法を使えたりするの?空を箒で飛ぶとか。あ、あの炎を出していたのも?』

「いえ、アレはこの『魔術師』のカードの力です」


 そう言うと、魔女っ子はオレに一枚のカードを見せてくれた。

 男が、杖を持った腕を振り上げている絵だ。

 オレの死神と同じように、描かれている『THE MAGICIAN』の文字は普通の並びなのに、絵は逆さまだったが。


「空を飛ぶのもできなくもないですけど、かなり準備がいりますね。専用の薬を作らないといけません。魔女と言っても、ワタシにそんな大きな力はないんです。できるのは、薬の調合くらい」

『薬?魔女の作る薬っていうと、ゲームで言うポーションとか?』

「怪我を治す薬のことですか?それなら作れますよ。育てる植物に魔法をかけて、特殊な効果を持った素材を収穫するところから始めないといけないので、手間はかかりますが。それでも、手足の欠損レベルでもなければすぐに治せます」

『マジで!?すごいな・・・』

「そ、そうですか・・・?」

『そうだよ!!そんな薬があったら医者いらずじゃないか!!それに、空を飛べるってのもすごいよ。オレはこの姿でも飛べないし』

「そ、そこまで万能じゃないですよ。た、確かにワタシが病気になったことは一回もないですけど・・・」


 大したことのないように言う魔女っ子であるが、十分すごいと思う。

 オレの小学生並みの語彙力での褒め言葉に、『それほどでもない』と言った感じを醸し出しているが、どことなく嬉しそうでいるのは言わないでおこう。

 しかし、それにしても・・・


『ありがとう、魔じょ・・・魔術師さん』

「え?」


 危うく魔女っ子と言いそうになったが、なんとか堪えて、オレはお礼を言った。

 突然お礼を言われた魔女っ子はきょとんとしている。


『いや、話してたらなんか気が楽になったからさ。人間じゃないのがオレ1人だけじゃないってわかっただけでも、仲間がいたんだって気分になれた』

「そ、それは、ワタシだって・・・い、いえ!!元気になってくれたならよかったです!!」


 そう言って、はにかんだように笑う魔女っ子。

 最初は何を言い出すのかと思ったが、本当に気分が楽になった。

 だが、そうなると疑問だけが残る。


『結局、オレは何なんだ?どうして、死神になれたんだろう?』

「一番可能性があるのは、ワタシと同じように魔法使いだったということですが・・・」

『う~ん、オレの家族とか家系は普通だと思うけどな。今まで、変なことが起きたりもしなかったし』

「それなら・・・先祖返りでしょうか?ワタシもそうみたいなのですが、死神さんも先祖に強力な魔法使いがいたか。それか、ものすごく珍しいですが、突然変異で魔法使いとしての才能を持っていて、それが眠っていたかですね。どちらにせよ、今まで才能が眠っていたことと、『死神』にとても高い適性があったのは間違いないです」

『適性?』

「はい。ただ魔法使いだからって理由で、今の死神さんみたいにはなれません。ワタシたちが持ってるカードには、扱うための適性があるんです。死神さんは、元々の死神から力を奪い取れるくらい、死神に向いていたんだと思います」

『死神に向いてるって、なんかイヤだな・・・』

「・・・・・」

『ん?どうかした?』

「あ、い、いえっ!!なんでもないですっ!!・・・確かに、死神って魔女よりイヤかも?」


 オレが零した台詞を聞いて魔女っ子が遠い眼をしていたが、オレが声をかけるとすぐにポケットに手をやって、魔女っ子はもう一度カードを見せてくれた。

 

「このカードは『魔術師』。プレイヤーには、一番適性のあるカードが与えられるんです」

『へぇ~。まあ確かに、魔女なら『魔術師』がピッタリな感じするもんな。というか、魔女って魔術師のくくりに入ってるようなものか』


 魔女っ子のカードを見て、納得する。

 同時に思った。


(なら、白上さんは何のカードだったんだ?)


 あのとき、隙間ごしにしか見えなかったから、どんな魔法を使っていたのかはよくわからない。

 炎や水じゃなく、光っていたような気もするが、白上さんのことだからなんか明るいカードなのだろう。

 一応、魔女っ子には『もう1人のプレイヤーに会った』ことは伝えてある。

 それが白上さんだとは言っていないが。


「あはは、そのせいで巻き込まれちゃったんですけどね」

『巻き込まれた?』


 オレが少し考え事をしていると、魔女っ子は自嘲するように笑っていた。

 そういえば、さっき儀式の説明をする時も、『巻き込まれた』って言ってたな。


「ワタシに、叶えたい願いはないんです。できれば、叶って欲しいかなってことはありますが、それでも普通ならこの儀式に選ばれるほどじゃない。ワタシは、魔女だから選ばれたんです」


 この儀式には、魔法使いが中途半端に改変しようとして失敗したという経緯がある。

 その影響で、一般人1人と魔法使い1人が選ばれるのが基本なのだそうだ。

 そして、一般人ならば願いが強い者が対象となるが、魔法使いは願いよりも、魔法使いであることそのものが理由で参加させられてしまうのだとか。


『なんというか・・・その、ご愁傷様?』

「死神さんには言われたくないですよぉ・・・」

『あ~、まあ、確かに』


 なんとなくいたたまれなくて、つい慰めの言葉が出てしまったが、考えてみればオレの方がヤバいか。

 なにせ、一度死んで、人間じゃなくなって、あんな怪物と戦わなきゃいけない儀式に参加しなければいけなくなったのだから。

 いや・・・


『儀式ってさ、途中で抜けられないの?』


 そうだ。

 確かにオレたちは巻き込まれたわけだが、死神になったオレはともかく、魔女っ子ならできるのではないだろうか。

 というか、プレイヤーどうしでもカードを奪い合わなければならないということは、最終的には白上さんやこの魔女っ子とも戦わなくてはいけないということだ。

 それは勘弁願いたい。


「できなくないのですが・・・難しいですね。儀式を抜けるには、参加資格であるカードをすべて手放せばいいのですが、条件を満たさないとペナルティを受けるらしいんです」

『ペナルティ?それに、条件?』

「条件については、ワタシもよく知らないんです。けれどもし、他のプレイヤーにわざとすべてのカードを渡す場合は、確実にペナルティがあると。それによると・・・身体のどこかの部位を失う、らしいです」

『マジかよ・・・』


 傲慢な話かもしれないが、オレはかなり強いという自覚がある。

 ならば、もしも魔女っ子や白上さんが儀式を進めることを嫌がるのなら、オレが代わりになろうみたいなことを考えたのだが、そううまい話はないということか。


「ちなみに、ワタシが知っている条件は『他にプレイヤーになるヒトを見つけて、交代した場合』ですね。ワタシの場合は絶望的ですが。そもそもやろうとも思いませんけど・・・」

『まあ、そりゃあね・・・』


 魔女っ子の代わりになるプレイヤーは、魔法使いでなければならない。

 そうなると、オレのような突然変異を探すしかないだろうが、途方もない話だ。

 それ以前に魔女っ子の性格的にもできるとは思えない。

 普通に考えたら、そんなものは間接的な殺人だし。


「後は・・・大量のカードを集めた場合には、別の条件が解放されるかもしれないらしいです。何枚集めて、どんな条件なのかはわかりませんが」

『今までの話を聞くと、それに頼るしかないか・・・・・ねぇ、オレが殺さない程度にキミと戦うって言ったら』

「ひぃぃっ!?・・・ほ、本気で言ってないのはわかりますけど!!で、できれば、それは最終手段にしてください」

『ごめん・・・』


 この危なっかしい魔女っ子を儀式から手っ取り早く抜けさせる方法としてはアリかも?と思ったのだが、断られてしまった。

 まあ、いくらオレが本気で戦う気がないとわかっていても、オレみたいなおっかない奴と戦うとなれば仕方ない。

 いざというときの最終手段として考慮に入れてくれるだけいい方だろう。

 しかし、そうなると・・・


『よし、決めた』

「え?何をですか?」

『オレ、戦うよ』


 元々そうするつもりではあったが、あえて言葉に出す。


『プレイヤーどうしは、カードがたくさんあればなんとかなるかもしれない。なら、オレは今日みたいに戦って、怪異を倒す。そうすれば、話し合いで解決できるかもしれない・・・最悪の場合は、その、オレがキミと戦うことになるけど』

「・・・・・」


 少し格好つけすぎたことを言ってしまったかと、少し恥ずかしくなって、オレは仮面の頬をコリコリと掻くが、反応がないのでチラリと見てみると、魔女っ子はボーっとした表情でオレを見ていた。


『あの?』

「あっ!!い、いえいえっ!!ごめんなさいっ!!・・・その、すごい勇気のあること言うなって、思って」

『いやいや、そんなんじゃないよ』


 本当に、そんなに格好のいい理由じゃない。


『事情を話した時に言ったけど、キミの話を聞く限り、オレはレベル9みたいだから。一番強いレベルの一つ下くらいなら、大分戦えそうだなって思ったからだよ。それなのに、ここで見ないふりをしたら、夜寝る前とかに『ああしとけばよかった』とか『オレが戦ってたら誰も怪我しなかったのに』とか後悔しそうだからさ。これで、オレに何の力もなかったら、とっくに逃げてるよ』


 これはオレの勘だけど、白上さんが戦っているのには、そういう事情もあるんじゃないかと思ってる。

 戦える力があるのなら、助けられる人を救いたい。

 白上さんなら、きっとそうする。

 だから、オレも同じようにありたい。

 白上さんや魔女っ子が傷ついて欲しくないのも勿論だが、本当はただそれだけなのだ。


「そ、それでも、そうやって思えるのはすごいですよ!!ワタシだったら、力があっても戦おうとは思えないかも・・・」

『そうかなあ・・・キミなら他のプレイヤーのこと気にして、逃げないでいると思うけど』

「そ、そんなこと・・・」


 オレがそう言うと、魔女っ子はまたも俯いてしまった。

 耳まで紅くなっていることから、照れているのだろう。


(ずいぶんと似合わないこと言っちゃったな・・・にしても、これからどうするか)



--ピシリ



『ん?』


 この微妙な空気をどうしようかと思っていたら、真上から妙な音がした。

 音のした方を見上げてみると。


『なんだありゃ』


 空にヒビが入っていた。

 あり得ないことだが、そうとしか表現できない。


「あ、忘れてた・・・」

『あれが何か知ってるの?』

「はい。この儀式では、怪異が現れると、プレイヤーか魔力の多い人しか入れない空間ができるんです。ワタシは『結界』って呼んでるんですが、結界は主である怪異を倒すと消滅するんです。今回は大分残ってましたが・・・」

『ってなると、もうすぐ普通の人がいる場所に出るってこと?』

「そうなりますね。まあ、ワタシたちの姿は、普通の人には見えないですが・・・魔法使いでなくても、魔力が多めの人なら見えるかもしれません」

『マジっ!?』


 魔女っ子の言うとおりなら、オレは今すぐこの場を離れないとマズい。

 下手したら、いや、見つかったら確実に不審者として通報されるだろう。


『ごめんっ!!オレ、もう行くよ。万が一、この姿が見られたらマズいし。またねっ!!』

「え、あ、はい・・・また」


 魔女っ子に一言告げると、オレはきびすを返して、地面を思いっきり蹴る。

 すると、あっという間に空高くまで舞い上がり、距離を稼ぐ。

 よし。これで、この空間が壊れる前に人気のない所まで移動するだけだ。

 そうして、ピョンピョン飛び跳ねている内に、ふと思い出した。


『そういや・・・あの子、ノーパンかもしれないけど、そのまま帰して大丈夫か?』


 あの危なっかしい身のこなし、おどおどした性格。

 それに加えて、現在は履いてない疑惑もある。

 そんな子をそのまま帰して大丈夫だったのか。


『も、戻って家まで送るか?いや、でも時間ないし、正体ばれるし、魔女っ子も身バレは勘弁だろうし・・・う~ん』


 夕暮れに染まる街の中、結界が完全に崩壊するまで、オレは思い悩むのだった。



-----



「『またね』・・・か」


 ワタシは、元の姿に戻って、家路についていた。

 下半身の濡れた下着の感触が気持ち悪いが、家までの間だと辛抱することにする。

 そうやって道を歩きながら、ワタシはさっきまでの会話を思い出していた。


「他の人にそんなこと言われたの、久しぶりかも」


 おばあちゃんが数年前に亡くなってから、ワタシはずっと一人暮らしをしている。

 魔女という人外だから、学校でも他の人と話すのは苦手だ。

 どうしても、『ワタシは人間じゃない』って思ってしまうと、関わるのが怖くなってしまう。

 それは、感情を読む力があっても、いや、持っているからこそ。

 だから、実を言うともう1人のプレイヤーとも、あまり関わり合いになりたくない。

 いずれ戦うことになるかもしれないのもあるけど、その人は、普通の人間だから。

 ワタシは、そんな人たちから見れば化け物だから。

 けれど・・・


「魔法のこと、褒められたのも、おばあちゃん以来だな」


 だから、久しぶりだった。

 こんなに他の人と話したのも。

 魔法のことを褒めてもらったのも。

 お礼を言われたことも。


「初めて、だったな」


 本当の意味で、ワタシの『同類』に会えたのは。

 

「けど、優しいヒトだったな」



--オレ、戦うよ



 その言葉を聞いたとき、不覚にもドキリとしてしまった。

 ワタシの眼のおかげで、本気で言っているのがわかったからだ。

 そして、おぼろげではあったが、その想いの向きは・・・


「ワタシの、ため・・・?」


 ワタシの方を、向いているように見えた。


「な、なんてっ!!そ、それは、死神さんが優しいからでっ!!別にワタシが特別だからってわけじゃあっ!!」


 夕方ということもあって、周りには誰も歩いていないが、誰かに言い訳するかのように、ワタシは虚空にまくし立てる。

 それでも。


「えへへ・・・」


 いつも通り、1人で帰る帰り道だというのに、その日の夕日はいつもより暖かく感じられたのだった。



-----


TIPS1  THE MAGICIAN 魔術師



大アルカナの1番目。

杖を持った男が腕を振り上げる絵。

カードの中には、杖(火)、杯(水)、剣(風)、硬貨(土)の四元素を象徴する道具が描かれている。


 

正位置では、創造、天賦の才、深い知識、始まり、カリスマ性、コミュニケーション能力。

逆位置では、想像力の枯渇、優柔不断、意気消沈、空回り。



作中では、黒葉鶫の初期カード。

彼女が魔女であったことからこのカードがあてがわれた。


レベルは4。本来、魔術師は四元素を扱える存在だが、黒葉鶫の性格が大きな力や戦闘に向いていないため、杖の火属性のみが解放されている状態。

絵柄も逆位置である。


-----


TIPS2 黒葉鶫の好感度


吊された男から助けてもらった  +5%

自分の同類           +10%

見た目の割にいい人       +5%

でもやっぱりちょっと怖い    -5%

漏らすところを見られた     -5%


現在10%

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