第37話

『―――早く起きろ我が主!!』

「――――――はっ!」


 俺はカーラの声で目を覚ます。

 すると目の前には見慣れたベッドと部屋の姿と、ベッドの縁には遥や父さんと母さんが寝ている。

 3人とも目の下に隈ができており、涙の跡も残っていた。


「……また此処に来たのか……結局また心配かけてしまったな……」


 俺は病室で1人ため息を吐く。

 ほんの数週間前に退院したばかりなのにまた此処に戻ってくるとは思ってもいなかったな。

 それにもう心配させないようにしようと思っていたのに。


「カーラ、俺はどのくらい寝てたんだ? 体が結構動くってことは相当の時間が経っているんだろ?」

『…………5日だ』

「……5日か。思った以上に長いな」

『あれ程のダメージを受けていたのにその程度なのは我からしても異常だとは思うがな』


 確かにカーラの言う通りたったの5日で完全回復は異常な速度だとは思うが、


「家族に心配掛ける日数が1日でも少なかった方が良いに決まってる」

『……そうだな』


 俺は遥の頭を撫でながらカーラに言うと、肯定した後喋らなくなってしまった。

 「何でだ?」と思っていると、


「……っん……おにぃ……?」


 瞼をこすりながら遥が起きた。

 だがまだ頭が寝ているのかポヤポヤしている。

 しかし俺と目が合うと、殆ど閉じていた目がぱっちりと開き、その目からキラキラと光る雫がこぼれ落ちる。


「お、おにぃ……」

「おはよう遥。ごめんな、心配掛けて」

「……うん……心配した」


 そう言って俺の手を握る遥。

 その手はふるふると震えており、とても弱々しい。

 俺はその手を強く握り安心させるように言い聞かせる。


「大丈夫だ。お兄ちゃんはもう元気だぞ」

「……でも死んじゃうかもしれない……」

「死ぬわけ無いだろ。俺は遥が死ぬまで死なないさ。なんたってシスコンだからな!」


 俺が笑顔を浮かべると遥は一瞬ぽかんとするが、直ぐにいつもどおりの笑顔になる。


「ふふっ……ほんとに私のこと大好きねおにぃは。でも結婚相手は自分で決めるからね?」

「俺のお墨付きが貰えるやつなら許してやるよ。一対一の面談で最低一時間くらい遥への愛を語れるやつが絶対条件だな」

「そんなの無理に決まってるでしょ! おにぃは過保護すぎ!」


 俺たちがいつもどおりの軽口を言い合っていると、五月蝿かったのか母さんと父さんも目を覚ました。

 

「あっパパとママ起こすの忘れてた。おにぃが変なこと言うから」

「酷いわね遥――って隼人が起きてる!? 隼人~~ッ!!」

「や、やめ―――ぐえっ」


 俺は母さんに強く抱きつかれて奇妙な叫び声が出てしまう。

 しかし母さんにはそんな声など聞こえていないのか、更にギュッと抱きしめてくるのだが……


「か、母さん……痛い……」

「え? あっごめんね隼人。嬉しすぎて思わず抱きついちゃったわ。まだ事故で体が治ってないのに」

「―――……は? 事故? 一体どんな?」


 俺は思いがけない言葉に首を傾げる。

 遥もそうだが、母さんも父さんも俺の能力を使っている所を見ているはずだ。

 なのに事故だと?


「……父さん、詳しく説明してくれない? 母さんじゃ説明不足だから」

「ちょ、それは酷いんじゃないの! 私が説明してあげるわ———」

「はいはいママは黙っていようね」


 母さんが食ってかかるがすぐに遥に口を押さえられて声を遮られる。

 これではどちらが母親なのか分からないな。


「あっははは……それじゃあ説明しよう。と言っても僕も殆ど知らないんだけどな」


 そう言って話し出した父さんの話を要約するとこんな感じだった。


「……俺は学校に突撃してきたトラックに轢かれて大怪我。更に同じく轢かれた人が数人いて、父さん達が協力して救急車を呼んだってこと?」

「そうだ。そのトラックを誰が運転していたのかも知らないし、どうやってグラウンドまで来たのかもわからない」

『……おいカーラ。これはどう言うことだ?』

『我にも分からん。我も一時期気を失っていたからな。魔力不足で』


 となると……後は優奈さんや清華などの異能者達か。

 

 俺がそんなことを考えていると、タイミングのいい事に病室の扉が開き、優奈さんと清華が入ってきた。

 優奈さんの腕の中には颯太もいる。


「隼人君!」

「隼人!」

「隼人お兄ちゃん! 一番弟子の僕が来たよ!」


 一番に颯太が優奈さんの腕から降りて此方に向かってくるが、遥に視線を移してビタッと止まる。

 しかしすぐに動き出し、遥の下へ行くと……


「綺麗なおねぇちゃん! 僕と結婚して!」

「「ふわっ!?」」

「え? この子誰?」


 突然の爆弾発言に俺と優奈さんは素っ頓狂な声を上げ、遥はその言葉よりも聡太の存在が気になる様だ。

 俺は一度落ち着いて遥に紹介する。


「こ、ここここの子はははは」

「おにぃ焦りすぎ。落ち着いて」

「お、おう……この子は優奈さんの弟の颯太だ」


 俺は颯太を抱っこしながら遥に紹介する。

 颯太は遥の手を握……おい、手は握るな。


 俺は遥を握ろうとする手をペシっと軽く叩いて防ぐと颯太は俺の方を見てむぅーーと頬を膨らませたが、すぐかやめて再び遥の方を向く。


「僕三河颯太! お姉ちゃんと将来結婚する予定のおとこです!」


 ドンっと自分の胸を叩きながら言う颯太。

 そんな颯太に優奈さんが慌てた様に言う。


「そ、颯太! いきなりなんて事言うの!? 彼女は隼人君の妹さんなのよ!?」

「えっ!? 隼人お兄ちゃんの妹なの!?」

「そうだぞ。それに幾ら何でも遥は渡さんぞ」


 遥との歳の差も考えるとどうしても無理なんだ。(自分のことを棚に上げる男)

 あとシンプルに俺が嫌なのもあるが。 

 しかしそんな俺の言葉を批判する言葉が発せられた。


「もう隼人もそんなこと言わないの! お母さんとお父さんは遥と颯太君と一緒に部屋を出るから後は若い子で楽しんでね~」

「「「ちょ、母さん(お義母さん)!?」」」


 俺たちの声など無視して父さん達を病室の外に追いやって最後に余計な言葉を残して逃げる母さん。


「「「…………」」」


 その余りの速さに俺たちは何秒か何も言葉を発さずボーッとしていた。












「ふぅ……それじゃあ俺から聞きたいことがあるんだが?」

「え、ええ。多分言いたいことは分かるわよ。大方……どうして記憶が違うのか? でしょう?」

「ああ」


 俺は清華の言葉に首肯する。

 すると清華は記憶が違う事の真相を話し始めた。


「貴方の家族も含めて、異能者でない者は一律【記憶改竄】の異能者によって記憶を変えさせてもらったの。勿論皆同じ記憶になっているはずよ。トラックが突っ込んだってね」


 確かにトラックが突っ込んで俺が轢かれたと言っていたな。

 まぁ俺も家族ならまだしも、不特定多数に知られたくはないから丁度いい。 


 と言うかこの世界にそれくらいの力を持った異能者がいる事の方が驚きだ。

 異世界でも相手の記憶を弄るのは相当な等級のスキルや魔法だったからな。


「ならまぁいいか」

「「よくない(ありません)!!」」

「!?」


 俺は2人の大きな声に、完全に気を抜いていたのでビクッと体が跳ねるほど驚く。

 俺が恐る恐る2人の方を向くと……そこにはニコリと笑顔を浮かべた2人がいた。

 目は全く笑っていなかったが。


「このまま終わらせはしないわよ」

「色々と教えてもらいますからね。あの力の事とか」


 そう言って迫ってくる2人に俺は空笑い。


「あ、あはは……秘密じゃダメ?」

「「ダメ!!」」


 その後2人に散々色々と質問された。

 でも美少女と美女に囲まれるのは、苦しかった10年を考えると悪くない……それどころかとてもいい時間だったとだけ言っておこう。










「……ルドリートは失敗したのか……」


 とある洞窟の中で1人の男が呟く。


「まぁアイツは昔から雑魚だったし、しょうがないか。まぁある程度の力は確認したし及第点だな」


 男はそう言って目の前にあるモノに触れる。

 そして笑みを浮かべると、


「落第勇者———期待大だ」


 楽しそうにクツクツと笑った。

 その時、男が触れるモノもゆっくりと胎動していた。


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 これにて第1章終幕です。

 第2章は少し間を開けさせていただきます。

 

 下⇩⇩⇩の☆☆☆を★★★にしてくださると嬉しいです。  


 


 

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