第36話
魔王軍幹部―――【真祖】ルドリート。
今俺の目の前にいる人間から魔族であるヴァンパイアになったイカれた男。
金髪の長髪に端正な顔、ニヤリと三日月の様に歪んだ口元には鋭く伸びた犬歯が見えている。
性格は屑だが、間違いなく強い。
今の俺では余裕で勝てる相手ではない。
しかし今はルドリートが忌々しげに俺を見ている。
「チッ……アレ程の軍勢を集めても、たったこの程度しか時間を稼げないのか……」
「―――余計なお話をしている暇があるのか?」
「ッ!?」
俺は一瞬にしてルドリートとの距離を詰めると、高速で剣を一振り。
音速を超えて振り抜かれた一閃はルドリートの体を両断……することは出来なかったが、傷一つなかった奴に軽くない傷を負わせた。
「クッ……調子に乗るなよ人間風情がッ!!」
ルドリ―トは激昂して傷を即座に再生しながらも、俺に血で出来た剣で攻撃してくる。
その速度は【身体強化:Ⅹ】の俺よりも速い。
「———くっ!!」
俺はギリギリで体とルドリートの剣の間に剣を滑り込ませて防御。
しかし力を完全に受け止める事ができずに吹き飛ばされてしまった。
だがこれだけでルドリートの猛攻は終わらなかった。
「ふふふ……ふはははははッ!! どうしたアイサカハヤト! この程度ですか!? どうやら昔よりも大分弱くなっている様ですね!?」
「…………」
煽るために言っているのか、それとも純粋に驚いているのかは分からないが、事実なので何も言い返せないし、言い返そうとも思わない。
「……ッ」
死角からの血のナイフの強襲。
それを感知だけを頼りに体を捻って避ける。
しかし避けた先には剣を振りかぶったルドリートの姿が。
「これなら私でも勝てるっ!! さぁ———死ねええええええええ!!」
ルドリートの剣が音を置き去って俺へと迫る。
そんな光景を見ながら俺にニヤリと笑みを浮かべると、
「———いつから俺が本気だと言った?」
「は?」
俺はアホな面をしたルドリートを見ながら呟く。
———【
その瞬間に俺の体はより強く光り輝く白銀のオーラに包み込まれた。
ルドリートは隼人の姿を見て、本能からの警鐘をひしひしと感じていた。
その証拠に体がぶるぶると震えており、今すぐに逃げ出そうと体が勝手に動きそうになるのを必死に抑えていた。
原因は目の前の隼人だ。
今ルドリートの目の前には、オーラをはらはらと花びらが舞う様に体の周りに纏い、白銀の髪を風に靡かせて、その白銀に輝く瞳を此方に向けている隼人がいた。
先程まであった体の不可解な亀裂は跡形も無く消え去り、その悠々とした立ち姿はただひたすらに神々しさすら感じるほど美しい。
その証拠にルドリート以外の者達は、隼人の姿に完全に目を奪われていた。
「す、凄いです……あれが隼人君ですか……か、カッコいいです……」
「……悔しさすら感じないほど綺麗ね……それに、とても穏やかな気持ちになるわ……」
優奈と清華は絶体絶命という状況にも関わらず、ポーッと顔を少し赤らめて、隼人に見惚れている。
隼人の妹の遥も兄の姿に完全に視線を固定させられ、
「おにぃがカッコいい……いつもカッコいいけど、いつもより100倍カッコいい……こんなの、誰だって好きになっちゃうよ……」
そう言って少し苦しそうな表情をしていた。
しかしルドリートは違う。
(何が美しいだ! あんなの化け物じゃないか! くそッ……このままじゃ不味い……こうなったら———)
顔面を蒼白にさせて冷や汗をかいていた。
だが、それも束の間。
一瞬にして視線を遥に向けると、全速力で人質に取ろうと動き出す。
その速度は先程よりも更に速くなっており、この場の皆が少しも動きを捉えられないほどだった。
ただ1人、隼人を除いて。
「———何をしようとしている?」
「———ッ!? ば、馬鹿な……!?」
ルドリートが遥の下に辿り着く前に、隼人が遥を抱き締めて、ルドリートの振り抜かれた拳を掴んでいた。
突然の事で訳の分からないと言った困惑の表情を浮かべた遥に隼人は安心させる様に呟く。
「大丈夫だぞ遥。お兄ちゃんがすぐに終わらせてやるからな」
隼人はパッと掴んでいたルドリートの拳を離す。
その瞬間にルドリートは即座に距離を取り、腹立たしそうに吐き捨てる。
「ぐっ……くそッ、クソクソクソクソクソクソッッ!! 何なんだその姿は!? 人間如きがこの私をこれ程までにコケにするなどあってはならないッッ!! 私の全魔力を使って貴様を殺してやるッッ!!」
ルドリートが全力で魔力を解放し、そして掌にその全てを集める。
そして自身の腕を切り落としてそこから溢れる血を魔力に混ぜていくと、魔力は色を持ち始め、徐々に黒くなっていく。
「くたばれ———【血魔波】ッッ!!」
膨大な魔力の篭った光線が隼人に迫る。
しかし隼人はその魔法など大して気にせず、ゆっくりと遥を抱いたまま
破壊剣もいつもの漆黒ではなく、所有者である隼人と同じ様に白銀色に染まっていた。
そんな聖剣のような輝きを放つ剣を振り上げ———
「———【刹那】———」
————………………。
「———ッ———」
気付くと全てが終わっていた。
ルドリートは跡形もなく消滅し、どんよりと曇った空がいつの間にか雲一つない快晴となっている。
太陽が辺りを元気付けるかの様に照らす。
その太陽を見ながら隼人は一言。
「……ああ……俺は守れたんだな……」
まるで自身に言い聞かせるかの如くそう呟くと、安心しきった笑みを浮かべて意識を手放した。
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