第12話 落第勇者、この世界の異変に気付く①
「じゃあまた明日」
「……また明日ね。今日の事は絶対に言わないでよ」
僅かに頬を染めて鋭い瞳を向ける宮園。
俺達はプリクラを恥ずかしがりながら撮った後、羞恥心を誤魔化すかの様に1時間以上ゲームセンターで遊びまくった。
宮園はプリクラで相当恥ずかしかったのか、いつものクールさを完全に捨てて遊んでいたのだが……これがギャップ萌えと言うのだろうか?
正直めっちゃ可愛いと思ってしまった。
勿論絶対に言わないが。
「今日の事は言わないって。だって言って被害が大きいの確定で俺だし」
「……そうね、もし何かあればプリクラ撮った事を皆に言えばいいだけだものね」
やめろそんな恐ろしいこと言うのは。
俺の友達が減る。
俺の弱みを握ったお陰で安心したのか、「じゃあまた明日」ともう一度言って宮園は帰って行った。
残された俺は宮園が見えなくなると、
「俺も帰るか……」
1人寂しく家に帰る。
本来なら遥と帰ろうと思ったのだが、買い出しがあったため泣く泣く断ったのだ。
しかしその代償はあまりにも大きかった。
「帰り方が分からない……」
始めは地図アプリとかを使っていたのだが、異世界と違って細かいので思いっきり迷ってしまった。
今はあてのない道を彷徨っている。
と言うか27歳にもなって自分の家にすら帰れないとか自分で言うのも何だがヤバいな。
そしてどうにかして帰らないといけないのだが、一体どうしようか……遥を呼ぶか?
「いや、それは止めておこう。もうあたりも真っ暗だしな」
既に時刻は7時を過ぎており、秋ともなれば辺りは殆ど真っ暗だ。
そんな中女の子を……それも世界一大切な妹を1人で歩かせるにはあまりにも危険すぎる。
遥が誰かに襲われたら俺が犯罪者になってしまう。
「それに今日のことがあったら尚更な……」
俺はほんの1時間程前のことを思い出す。
あの奇妙なゴブリンは、異世界で見たゴブリンとは身体的な特徴は多少違ったが、戦闘の癖や習性は何も変わらなかった。
逆にその不自然さが俺を不安に駆らせる。
普通体の特徴が違ったら、その変化に応じて戦い方も変わってくるはずなのだ。
例えば大男なら短剣を使うよりも大剣をぶんぶん振り回す方が普通に強い。
そして本来ゴブリンの戦い方は、自分に力がないことを理解しているため、小さな体を生かして素早く敵に攻撃を与える。
しかし今回のデカいゴブリンも同じ様な戦闘スタイルだった。
勿論俺が相手が動けないように完封したが。
「あれはやっぱりゴブリンなのか……?」
もし異世界から俺のように転移してきたのなら、その大元を探せば何とかなるかもしれない。
しかし今回俺が相対した相手は、異世界で見てきた文献に載っておらず10年間冒険者として様々な地域に行って依頼を受けていた俺ですら知らないモンスター。
勿論魔王軍にもあの様なゴブリンは一体も存在していなかった。
偶々突然変異したゴブリンって線はないかな?
もしそうなら同じく異世界転移の発動した場所を感知すれば済む話なんだけどなぁ。
俺は限りなく小さな可能性に縋りたくなるが、それは現実的じゃないことは分かっている。
それに――
「今は家族がいるんだ。家族だけは絶対に守らないとな。皆には迷惑をかけたし」
俺が1ヶ月間昏睡していた時、遥は軽い鬱病になり学校を殆ど休んでいたらしい。
母さんも気疲れして何度も寝込み、父さんも死んだように仕事に行っていたんだとか。
これは全部俺が病院に居た時に、看護婦さんや俺も何度も会ったことのある遥の友達や父さんの会社の人がお見舞いに来てくれた時に教えてくれたのだが、その事を聞いた時は流石の俺も取り乱してしまった。
まさかそこまで酷いとは思っていなかったからだ。
愛されていた自覚はあったし心配してくれることも分かっていたが、俺は生き残ることに集中していたため殆ど家族のことを気にする時間はなかった。
俺は何て薄情な奴なんだと心底自分に失望したよ。
だからそんな状態になってでもこんな俺を心配してくれて、尚且退院した時には暖かく迎えてくれた家族は絶対に不幸にさせないと決めたのだ。
しかしそれにはまだまだ知らないことが多すぎる。
「……取り敢えず帰って調べないといけないよな……」
俺は早く家に帰るために思いっきり空中へと駆けた。
「ただいま~」
「あっお帰りおにぃ!」
「おかえり隼人」
俺が玄関の扉を開けて挨拶をすると、遥と母さんの声が聞こえると同時に2人とも玄関に集まってくる。
既に2人ともお風呂に入ったのかパジャマ姿だった。
「隼人、今日何でこんなに遅かったの?」
「そうだよおにぃ! 私との約束破って!」
母さんは心配そうな表情をしており、遥は少し怒っている様に見える。
今の時刻は20時過ぎで、普段俺は多分19時位には帰っていたはずなので、いつもの俺にしてはだいぶ遅い方だ。
それに俺は退院したばかりなので余計に心配させてしまったかもしれない。
なので俺は言い訳と言うか事実を話す。
「いや、今日文化祭の買い出しに行ってたんだよ」
「えーおにぃがそんなことする訳ないじゃん。だって面倒がり屋だし」
速攻で悪気もなさそうに痛い所をズバッと突いてくる遥。
今の言葉は確実に俺の心に深く突き刺さった。
妹よ……間違ってはないがそれは言わないで欲しいな。
そして母さんも納得した様に頷かないでくれよ。
「本当に文化祭の買い出しに行ってたんだよ……。くじ引きと言う強制的なものでな」
「あーだからおにぃがやるのね。納得したわ」
遥は「なーんだ。彼女さんとデートかと思ったのに」と言って詰まらなそうにリビングへと戻っていった。
そして母さんは「次はもう少し早く帰って来てね」とだけ言って同じく戻っていく。
「……宮園と買い出しに行ったのは黙っておこう」
アイツはうちの学校では十分に有名人だからな。
そんな奴と俺が2人で買い出しに行って、おまけにゲーセンで遊んでプリクラまで撮ったと知られたらやばいこと間違いなしだ。
絶対にバレない様にしなければ……と、心に決めてお風呂に入るために洗面所へと向かった。
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