第10話 落第勇者と異形の邂逅③
そこはショッピングモールの中でもほぼ人が居ない屋上駐車場の一角だ。
近くに立体駐車場や地下駐車場があるためか、ここには人どころか車すら滅多に来ない……様な感じだったはず。
もう昔の事すぎて覚えてないが、現時点で車が一台もないのできっと間違っていないだろう。
そんな無人の駐車場に
「ギャギャ! ギャギャギャッ!」
体長僅か1m程の子供くらいの大きさの人型モンスターで棍棒を持っている―――ゴブリン……のはずなのだが、何故か体長2m程まで大きくなっている。
明らかに異世界に居たゴブリンとは違う。
「何だアイツ……異世界でも見た事ないぞあんなゴブリン」
まずゴブリンとは、異世界でもゲームなどと同じ様に比較的弱い部類に入ったが、格闘経験のない普通の大人では背伸びしても勝てないくらいには強かった。
そして何より質より数で戦ってくるので面倒くさく、知能も高いのである程度の実力の冒険者でも殺されることが何度もあった程だ。
俺も初めの頃は何度もボコられて師匠やパトリシアさんに助けられていたもんだ。
毎回ゴブリン討伐を受けている師匠達を見て受付嬢は俺を「こんな大物になんて事させてんだ」みたいな目で睨みつけられたが。
いや俺はあの時は師匠達しか頼る人いなかったんだよ。
まぁ俺を睨みつけてた受付嬢は結果的に俺がS級になった時に専属受付になったが。
その時はお互い気まず過ぎて1週間全く話せなかったのはいい思い出だ。
まぁそんな事はどうでも良いか。
しかしそれにしても今回のゴブリンは明らかにゴブリンジェネラルほどの力を持っていそうだ。
でもゴブリンジェネラルとは見た目が全然違うし……。
「……何でそんな奴がこの世界に居るんだろうなぁ」
俺は見つからない様に隠れてゴブリンの様子を観察しながらそう呟く。
感知ではコイツ以外に気配は感じられなかった。
ゴブリンなら必ず何体かで動いているはずなんだがな……。
俺は違和感を覚えるが、取り敢えずコイツをどうにかしなければならない。
今の俺は異世界の頃より確実に弱くなっている。
まぁ弱体化しているとはいえ、俺には長年積んでいた戦いの経験や異世界の知識があるし、スキルを使えば使うほど順調に力を取り戻していっている。
今の俺の実力は高く見積もってA級下位。
そして相手は高く見積もってもC級中位。
それに奥の手を使えば全盛期の7割は出せるので俺なら余裕だろう。
この世界の人間には結構厳しいだろうが。
俺は小声で【身体強化】を発動する。
「【身体強化:Ⅱ】」
俺の体が強化され、僅かな高揚感に包まれる。
この何日間で体も鍛え直している為、ある程度身体強化を扱える位には戻っていた。
出来るだけ静かにやったがバレていないだろうか?
俺はそっと覗いてみると、先程と同じ様に無邪気に棍棒を振り回していた。
どうやら危機感知能力は異世界のゴブリンと同じらしい。
物凄い鋭い奴なら、スキルの発動は勿論の事、予め発動していた【隠密】すらも見破ってしまう。
俺は相手がそれ程の感知能力を持っていないことにホッとしつつ、ゴブリンが此方に背を向けた瞬間を狙って全力で疾走し、ゴブリンの後ろから飛び蹴りを繰り出す。
「取り敢えず吹っ飛べ!」
「ギィギャッ!?」
俺の飛び蹴りを後頭部で喰らったゴブリンは思いっきり4mほど吹っ飛んで倒れる。
その後に立ちあがろうとしているが、頭に攻撃を食らったせいで脳震盪を起こしてしまったらしく、ぶるぶると体が震えて上手く立ち上がれない様子。
当然俺はそんなチャンスを逃す訳もなく、そのまま今度は頭頂部を狙って踵落としを喰らわせる。
「グギャッ!? ギュ―――」
「その手は喰らわん。―――そりゃ」
最後の足掻きで俺に棍棒をぶん回してくるが、異世界でこの行動を何百回も体験しているので棍棒を持っている方の腕を蹴り飛ばして棍棒を奪い取る。
今度こそなす術なしとなったゴブリンは諦めたかのようにガックリと項垂れると、
「……これはこの世界特有のモンスターなのか?」
異世界ではモンスターは人間と同じく死んでも
モンスターも立派な生き物の一種だからな。
そして冒険者や騎士などの戦闘職は、モンスターの素材で武器を作る。
そのため今のように何も残らずに消える事などありえないのだ。
もしかしたらこのゴブリンはちゃんとした生き物では無いのかもしれない。
それか誰かが作ったのか……。
まぁそんな事は俺には関係ない。
「俺はもう戦うのは懲り懲りなんだよ……。もう2度と会わない事をお互いに祈ろうぜ」
俺はそう呟き、手を合わせる。
そして疲れたのでその場に座ろうとしたのだが……
「あっ―――やっべ、早く戻んねぇと。宮園を待たしてたわ! あんまり待たせてると流石に申し訳ない」
俺はゴブリンの消えた場所を1度チラッと見た後駆け足で、待たせてしまっている宮園の所へと戻った。
「……やっぱり隼人君には秘密があったのね」
隼人を監視していたのは―――清華であった。
清華は、隼人が突然何処かに意識を向けたかと思うと、自分に少しトイレに行ってくると言い残して何処かへ行ってしまったのを不自然に思っていたのだ。
なので元々「異能力を手に入れたのでは?」と疑っていたのと相まって余計に不自然さが目立っていた。
そんな清華にとある電話が掛かってきた。
「もしもし。今回は何でしょうか?」
『―――清華、仕事だ』
電話の先の声を聞いた途端、清華は隼人を追って走り出していた。
勿論他の人間だけでなく、隼人にもバレずに。
清華は異能力者であり、隠密系異能を所持している数少ない人間であったのだ。
だが探知系の異能は持っていない為、スマホに表示される位置を頼りに急いで移動すると、丁度隼人がゴブリンに踵落としを喰らわせている所に遭遇してしまった。
その後に隼人が戻っていったのを確認すると、電話を今度はこちらから掛ける。
『―――どうした? 討伐したのか?』
「…………はい。最近出る新種でした。強さはそれ程ではありませんでしたが」
『分かった。なら報酬はこちらで用意しておく。ご苦労だった』
「それでは失礼します」
清華はそう言って電話を切った。
だがその表情には迷いが浮かんでいる。
そして普段の強気な態度とは裏腹に、泣きそうな声で呟く。
「私が隼人君の事を言える訳ないじゃない……。だって私は―――」
清華はそこまで言った後、何かを振り払うように頭をブンブン振り、表情を元に戻して何時もの強気な態度に戻った。
「よし、それじゃあまた再開することにしましょう。―――隼人君との放課後デートを」
しかしその表情は先程とは違って、随分とご機嫌な表情であった。
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