第9話 落第勇者と異形の邂逅②
「…………何で俺とお前なんだ?」
「しょうがないでしょクジで決めたんだから」
出し物を決めた後の放課後、俺と宮園は2人で学校の近くのショッピングモールに来ていた。
理由は単純で、文化祭の出し物である食べ物の材料を買う為だ。
その買い出し係をクラス全員でくじ引きをして2人選んだのだが……
「よりにもよって俺と宮園だったとは……」
「何? 私とじゃ嫌なの?」
そんな事を言って睨んでくる宮園を俺は軽く睨み返す。
コイツのせいで俺までコスプレをしなければならなくなったからな。
「俺を巻き込んだ張本人となんて嫌に決まってんだろ」
「悪かったとは思ってないわ。だってもしあのままだと女子しかやらない事になっていただろうし」
そう悪びれもなく宣う宮園。
それに一瞬イラッとくるが、俺が27歳でコイツが17歳だった事を思い出して怒りを落ち着かせる。
大人が子供相手にムキになってはいけないよな。
大人っぽく自然な感じで流さないと。
「まぁいいや。それで何を買わないといけないんだ?」
「……貴方聞いてなかったの?」
「聞いてなかったぞ。だってその時は俺が行くとは思わなかったからな」
俺がそう言うと宮園は額に手を当ててハァ……と大きくため息を吐く。
その1つ1つの動きがめちゃくちゃイラっとくるのは俺だけなのだろうか。
しかし今回は俺が悪いので何も言わない。
「………それで何を買ってくればいいんだ?」
「今回喫茶店で出すのはスフレパンケーキとサンドウィッチね。あ、それと紅茶とかコーヒーとか。ジュースもいるらしいわ」
宮園は指を立てながら1つずつ数える。
なるほど……結構本格的にするんだな。
だが、スフレパンケーキとかコーヒーって作れる人いるのか?
俺はそう言ったオシャレなものは作れない。
異世界ではそんなのよりも如何に不味い食材を美味しくするかに重点を置いていたから見た目とか全く気にしなかったんだよな。
師匠もパトリシアさんもそこはあまり気にしなかったし。
結局調味料がなさすぎて美味い飯なんて片手で数えるほどしか作れなかった。
「買うのはいいとしてもそれを作れる奴は?」
「私は作れるわよ? あと天野君とかクラスの女子の中に何人か作れる人はいるわ。そして彼女たちが他の人に教えればもっと作れる人が増えると思うわ」
「お、おう……そうか……」
俺は自分のクラスの予想外の優秀さにたじろぐ。
まさかオシャレな物を作れる奴がそんなにいたとは……。
と言うかちゃっかり光輝も作れるの凄いな。
流石女子人気不動のNo. 1だ。
俺は親友である光輝に感心すると同時に、宮園も当たり前に作れるのは凄いと思う。
盛り付けとかはどうしても才能が関係するからなぁ。
「お前態度がデカいだけじゃないんだな……」
「なっ!? はや――藍坂君は随分と失礼な人なのね」
「い、嫌そうじゃなくてな、純粋に凄いなぁ……家でも作ってんのかなぁと思っ――どうしたんだ?」
突然俺から顔を背けた宮園に首を傾げる。
今俺何か失礼なこと言っただろうか?
「い、いえ何でも無いわ……」
「……まぁいいや。なら作る人はそちらに任せて取り敢えず俺たちは材料を買うとしよう。と言うか他にまだ買うものはあるのか?」
「……人任せなのはどうかと思うけれど、それはツッコまないでおいてあげるわ。……後はお皿やテーブルクロスとかそう言った感じのものね」
「りょーかい。なら先に皿とかを買いに行くとするか」
俺たちは食材が売っているスーパーマーケットより先に小物や雑貨の売っている店へと向かって移動を始めた。
「……誰かさんとの約束の為に練習してたとか言えるわけ無いじゃない……」
清華は隼人に何か責めるような視線を向けていた。
その時の清華の顔は真っ赤に染まっており、約束を忘れていそうな隼人の態度に酷く不服そうだった。
雑貨屋に向かっている途中、宮園がやけにゲームセンターに興味を示していたので、ゲームセンターに行くことにした。
「ここがゲームセンターという場所なのね……」
様々なクレーンゲームやメダルゲームを見ながら宮園が感嘆の声を漏らす。
心なしか目もキラキラ輝いている様に見える。
コイツ子供っぽい表情も出来るんだな。
と言うか―――
「お前ゲームセンター行った事ないってどういう事だよ……。今時プリクラとかもゲーセンにあるだろ」
「プリク……ラ……? それは一体どういう物なのかしら?」
まさか今時JKがプリクラを知らないとは……。
宮園がいいとこのお嬢様と言うのは聞いたことあったけど、本当に金持ちってゲーセン来ないんだな。
「プリクラは……友達とか恋人と写真を撮ってその写真を好きな様に加工するんだよ」
「へぇー、なら後で撮りましょう」
「はいはい後でな―――って俺と?」
俺は思わず聞き返してしまう。
俺的にはプリクラとは殆どが女子どうしで撮るか恋人と撮る印象があるからだ。
しかし宮園は一瞬固まった後、
「そうよ? 別にいいでしょう?」
と何でもない風に―――いや少し顔が赤くなりながら言う。
やっぱり恥ずかしいんじゃないか。
だが宮園は引く気は無いらしく、俺はそんな宮園に説明した所で意味ない事を悟り、少し……いやめちゃくちゃ恥ずかしかったが、
「……後でな」
と言って承諾した。
少しの間俺達の間に気まずい雰囲気が流れるが、宮園がゲームセンターにある中で気になるものがあったのか、
「ならそれは後にするとして……私はこれがやりたいわ!」
珍しくテンションを上げて声を弾ませながら指差したのは、可愛い猫のぬいぐるみのあるクレーンゲームだった。
宮園は其方へと足早に移動して眺め出したので、俺もついて行こうと―――
「―――ん? なんだこの気配は……」
した所で馴染みのある気配を感じた。
それも本来この世界に絶対に居るはずのない気配だ。
「……少し行ってみるか」
俺は宮園に少し悪いと思いながらも「少しトイレに行ってくる」とだけ告げて駆け足で気配のした方に向かい、【感知】を発動する。
相変わらず頭が痛くなるが、最初の頃よりはマシになったので、少しの間我慢して発動させ続けていると、すぐに感知できた。
「……やっぱり間違いじゃないな」
俺は眉間に皺を寄せ小さく呟く。
何故この世界にいるのか分からないが、俺的には絶対に会いたくなかったし、もう2度と会わないと思っていたのに……。
「何でモンスターがこの場所にいるんだろうな……」
俺は今物凄く面倒な事に巻き込まれに行ってしまったかもと後悔するも、無視する事も出来ないので仕方なくその後を追った。
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