第6話 落第勇者、早速怪しまれる①
衝撃的なことを知ってしまった俺は、思わずその場に立ち止まってしまった。
今、この世界に帰ってきた時に1ヶ月しか経っていなかった時と同等くらいに驚いている。
俺の脳が必死に理由を探すが、一向に分かる気配がしない。
「―――隼人?」
「っ、こ、光輝?」
気付いたときには俺の顔を光輝が心配そうに覗き込んでいた。
俺はいきなりの事で少しビクッとしてしまう。
「どうしたんだい、いきなり立ち止まって」
「……何でも無い。さっさと学校に行くか」
俺は何とか取り繕いながら高校まで辿り着き、クラスや階が違う遥と早乙女先輩と別れる。
「また帰りにおにぃの教室行くから待っててね! 帰ったら許さないから!」
「はいはい、ありがとさん」
俺は遥に挨拶した後、軽く早乙女先輩にも挨拶をしてから教室に向かう。
流石に教室の位置は覚えているぞ。
何せ、異世界転移が起こったのが教室だからな。
そして俺の横には俺の親友である光輝と、その親友の幼馴染の紗奈と不思議ちゃんこと月野さん。
月野さんは相変わらず無言で何考えているか分からないが。
「ねぇ隼人、大丈夫かい? さっきから元気がないけど……」
俺の顔を覗き込んで心配してくれる光輝。
さすが俺の親友、俺の事をよく分かっているだけある。
ただ今はそっとしていて欲しいと思ってしまうが。
「いや何でもない。ただ1ヶ月ぶりの学校はめちゃくちゃダルいなぁと思ってるだけだ」
「あはは……確かに1ヶ月も行ってなかったらそう感じるかもね」
「ん? 光輝はそう思わないのか?」
「まぁ僕は1ヶ月の間ずっと意識が無かったから時間が過ぎたって言う感覚が無いんだよね」
「…………そうだな」
やはり……何も覚えてないか。
しかしこれに関しては覚えていないなら言う事など出来ない。
それに覚えていないなら知らないに越した事はないからな。
異世界はこの世界ほど温くない。
モンスターだけじゃなくて盗賊や暗殺者が襲ってくる事なんて当たり前だから、当然俺たちも相手に殺されない様に相手を殺すのが日常茶飯事の世界だった。
俺は師匠の元にいたからそれにはすぐに慣れてしまったが、光輝は5年経ったあの時でさえ苦しそうな顔をしていたのをよく覚えている。
因みに師匠が色んなところから恨みを買っていたせいで、その弟子である俺が狙われる事など両手で数えきれないほどあった。
まぁそのお陰でクラスメイトのどの人間よりも早く異世界に順応出来たけど、その分何度も死にかけた。
何度も言うが俺はチートスキルなど持っていないのだ。
まぁこの世界ではこんなスキルでもチート級だろうけど。
…………やはりこのスキルの事や異世界の事は黙っていた方が良さそうだな。
それに極力この世界で使うのは止めておこう。
しかしそんな俺の考えはすぐに覆されることとなる事をまだ知らない。
――隼人達が登校していた道中。
『ターゲットは確認できたか?』
「はい。現在友人と思われる者たちと学校に登校しております」
隼人達の50m程後方で1人の少女がスマホを耳に当てて誰かと電話をしていた。
『よし、なら見失わないようにしっかりと見張っていてくれ。彼には1週間以上前から異能を使用した痕跡がある。もしかしたら――と言うよりも確実に異能者だろう』
「了解です。彼が1人になった時に接触します」
『頼んだぞ』
「承知いたしました」
少女はスマホをポケットに入れて前方で急に立ち止まった制服姿の少年を見ながらポツリと溢す。
「藍坂隼人が異能者ね……信じられないわ」
教室に入ると、懐かしい奴らばかりだった。
皆久しぶりの学校で浮かれているらしく、昔以上にざわざわしていた。
皆が皆1ヶ月寝たきりだった理由に心当たりがないか友達に聞いている様だ。
まぁそれが普通の反応だよな。
光輝達がおかしいだけだ。
と言うか、やはり異世界の事は誰も覚えていなさそうだな。
月野さんもスキルの力を失っていたし。
俺は横にいる光輝達に目を向ける。
月野さん以外は皆人気者のため、クラスメイト達に皺くちゃにされており、「あの天下のイケメン、光輝でも寝たきりだったのか?」「いつ目覚めたんだ?」などなど質問攻めにあっていた。
俺はそんな2人をダシに、1人こっそり逃げて自身の椅子に座る。
そして机に体を預け、大きな溜め息を吐く。
「はぁ……何で俺だけ覚えてて、オマケにスキルまであんのかなぁ……」
「―――どうした隼人?」
「ん? あ、将吾じゃんか。久しぶりだなぁ」
「久しぶりだな隼人! あ、そうだ。何か悩んでる様だし一緒に筋トレしないか!?」
そう言って目の前で逆立ちしたまま腕立てを始める。
相変わらずの筋肉バカだな。
教室でやる奴とか創作物でしか見た事ないぞ。
そんな創作物の中に居そうな彼の名前は
名前にも付いている通り、根っからの筋肉バカで脳筋だ。
まっ、その分異世界ではめちゃくちゃ強かったし、5年ほど成長すれば信じられないほどガチムキになっていた。
そのあまりの筋肉量に師匠共々ドン引きしたのを覚えている。
「此奴は変態だ……」と師匠に言わしめたくらいだから相当だろう。
師匠もこの世界で言えば、な◯やまきん◯君くらいだったし。
「やらねぇぞ。朝っぱらからそんな疲れる事してどうすんだよ」
「えぇ……朝からするからいいんじゃねぇか!」
「……なら1人で勝手にやっていてくれ」
「おう! そうさせてもらうぜ!」
そう言って筋トレを続ける将吾。
勿論俺の目の前で。
俺は少し鬱陶しかったので席を立ち、まだまだ朝の
「屋上に来るのも久しぶりだな……。昔はよく来てたんだが……」
俺は屋上に続く扉を開けて足を踏み入れる。
そこは俺が覚えている数少ない場所で、よく光輝や友達と遊んだり、1人で黄昏に来たもんだ。
最近屋上に行けない学校が多い中、此処は奇跡的にも入れたのが嬉しかったのはいい思い出だ。
「さて……異世界のことはどうしようか……。隠すと言っても特に何もする事なんて無いからなぁ……何なら俺が黙っていればそれで済む話だし」
まぁ偶に無意識で発動させてしまうかもしれないので、そこだけは注意しないとな。
俺がそんな事を考えていると―――
「―――何を隠すの?」
「ッッ―――!?」
唐突に話しかけられて、その瞬間に裏拳を繰り出してしまいそうになるが、腕に力を込めて何とか抑える。
あ、危ねぇ……いきなり過ぎて思わず異世界の様にぶっ飛ばすとこだった……。
一体誰だよ気配消して俺の後ろに立ったのは……。
その顔を確認してやろうと後ろを振り返った俺は、そこに居た人物を見て一瞬にして固まる。
おいおい……俺の記憶では一度もここで会ったことないぞ。
何でこんな寂しい所に来ているんですかね。
「何よ……そんなに驚いて」
「え、いや……な、何で此処に……?」
俺に話しかけてきたのは、この学園一の美少女のもう1つの片割れ。
そして何を隠そう―――異世界で光輝と同等に強く、俺とは違って正真正銘の強者であった
「ちょっと行きたくなったから?」
そう言って首を傾げる宮園は、憎らしいほど可愛らしかった。
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