第5話 落第勇者、衝撃の事実に直面する
―――2日後。
俺は10年ぶりに制服に袖を通していた。
洗面所の鏡で自分の姿を確認する。
ふむ……久しぶりに着てみたが……サイズぴったりだな。
まぁ実際は1ヶ月しか経ってないから当たり前か。
それに自分で言うのも何だけど顔は整っている方だと思うし、身長は……そこまで高くないけど、結構似合っている……はず。
自意識過剰で無ければ。
俺が年頃の女子の様に鏡で何度も自分の姿を確認していると、制服に身を包んだ年頃の女子である遥がやって来て、引いたような、不気味な者を見る様な目線を向けて来た。
やめろお兄ちゃん傷付くぞ。
「うわぁ……どうしたのおにぃ……。そんな女の子みたいなことして……」
「『うわぁ』とは何だ。久しぶりに着たんだから少しくらい浮かれてもいいだろうが」
それに異世界の服よりも圧倒的に着心地がいいんだから。
異世界のは擦れたら普通に擦り傷が出来ることがあるからな?
まぁ食べ物と違ってある程度経てば慣れたけど、やっぱり日本の服は良いなぁ。
「久しぶりって言っても1ヶ月じゃん。でも……流石私のおにぃね。めちゃくちゃ似合ってるわ」
そう言って笑顔でサムズアップする遥。
相変わらずなブラコンなこった。
まぁ俺もシスコンだからそう言われて嬉しくないわけがない。
「サンキュー遥。お前もよく似合ってるじゃないか」
「ふふんっ! 私は可愛いから当たり前よ」
そう言って胸を張る遥。
コイツ、その体勢大好きだな。
まぁそんな遥も可愛いんだが。
「あ、そうそう。おにぃ、今日一緒に行かない?」
「え? 何処に?」
突然思い出したかの様に訳の分からない事を言い出した。
俺がよく分からず首を傾げていると、遥がやれやれと言う風に頭を振る。
「そりゃあ学校に決まってるよ。おにぃ記憶力そんなに良くないから忘れてそうだし」
「…………」
「あ、あれ……? 本当に忘れたの?」
「い、いやべ、別に忘れてないけど……?」
……言えない。
めちゃくちゃ反論したいけど実際に忘れているから何も言えない……。
正直家から出て僅か1分位で迷子になりそう。
俺は全身に冷や汗を掻きながら視線を右往左往する。
その姿を見た遥が呆れた様に俺の肩に手を置く。
「はぁ……おにぃ、私が責任を持って連れて行ってあげる……」
「…………よろしくお願いします……。不甲斐ない兄で申し訳ありません……」
俺は情けない事に、自身よりも在校期間の短い遥に高校の道のりを教えてもらうこととなった。
これ程恥ずかしいことはないと思う。
穴があったら入りたい。
☆☆☆
俺は遥と共にうろ覚えの道を歩く。
遥が言うには此処が近道らしいのだが、確かに俺がこんな所を自慢げに遥に話した気がする―――と言う記憶が奥底にあるような……ないような。
「ねぇ、おにぃ……この道思い出した?」
「ん? あ、ああ。ある程度は……な」
嘘です。
全くと言っていいほど思い出せません。
きっと行けば分かるんだろうけど……。
(精神年齢が)27歳にもなって妹に連れていかれるって……何かこう色々と心にくるものがある。
主に羞恥心とか羞恥心とか。
俺が心の中で悶ていると、前方の少し離れた所に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
それは俺がこの世界に帰ってきてからどうしても感謝を伝えたい人だった。
「なぁ遥」
「ん? どうしたのおにぃ?」
「あれって―――光輝だよな?」
俺は1人の男が3人ほどの女を連れている制服姿の高校生らしき奴らを指差す。
女3人は男の腕を取ったりしながらバチバチと燃えている。
はたから見ればただのハーレムクズ野郎だな。
と言うかあの状態から察するに誰か1人を選んでないなアイツ。
「んん~~? あ、確かに光輝先輩たちかもね」
目を細めて遥も其方を見たかと思うと一瞬でそう断定した。
ま、だよなぁ……だって周りと纏っているオーラが全然違うし。
あの4人組の所だけ光り輝いている様に見える。
その為通行人の視線を一身に受けているのでめちゃくちゃ目立っている。
普通ならあんなリア充オーラ満載の所に突っ込まないが……俺と遥は違う。
「―――行くぞ、遥」
「了解だよ、おにぃ」
俺たちは4人組目掛けて一直線に走り出す。
相変わらず体の違和感には慣れないが、大分上手く動かせる様になった為、遥よりも圧倒的に先に着いた。
まぁ勇者スペックも引き継いでますから。
俺は光輝の背中をトントン叩く。
「おはようさん、光輝」
「ん? ―――あ、おはよう隼人。
そう言って笑顔を向ける光輝。
いつ何時見てもイケメンな奴だ。
俺にもそのキラキラオーラが少しくらい欲しいね。
あったら女子にモテそうじゃん。
まぁ今更17歳のお子ちゃまに惚れるような年齢でもないが。
「おう久しぶりだな光輝。それと―――あんたらも久しぶりだな、光輝の幼馴染に生徒会長と転校生」
自分で言ってて思ったけど、物凄い面子だな。
まるでラブコメ小説みたいだ。
まぁ俺達は何方かと言えば異世界転移系のラノベだけど。
「あ、隼人じゃん! 久しぶりだね! 元気だった?」
俺に1番に声を掛けてくれたのは俺と光輝の幼馴染である―――
コイツ本当に日本人かと思ってしまう赤色の髪と、赤色の瞳を持った可愛らしい美少女だ。
身長は遥より小さい。
勿論胸部装甲も。
「隼人……今何か失礼なこと考えたでしょ?」
紗奈が鋭く俺にメンチを切って聞いてくる。
ほんと昔からこういう所は鋭いんだよな。
「いや別に。ただ相変わらず小さいなって思って」
「どこのこと言ってるのそれ!?」
「勿論身長だけど? そう言う紗奈はどこの事だと思ったんだ?」
「んにゃ!? え、えっとそれは……」
俺がニヤニヤとしながら聞くと、顔を真っ赤にさせてモゴモゴと小さくなにかを呟いている。
まぁ俺には「胸の事じゃなかったんだ……」ってしっかり聞こえたけど。
勇者スペック舐めるなよ。
「まぁいいや。1ヶ月ぶりだけどお前も相変わらず元気そうだな。もう少しお淑やかになってもいいと俺は思うが」
「そんなの私じゃないからムリです~!」
そう言って俺にべーっと舌を出した後、上機嫌に光輝と話し始めた。
相変わらず光輝にぞっこんな様で何よりだ。
そんな彼女だが、彼女も異世界へのクラス転移に巻き込まれた中の1人だ。
まぁ見た感じ気にしてなさそうだけど。
「それで、貴方は何の用で私たちに話しかけたのかしら? 遥さんはいいとしても貴方は邪魔なの」
「……相変わらず酷いですね早乙女先輩。何で俺には
「貴方は光輝くんの親友だから必然的に私との絡みも増えるでしょう? だから自分を隠すのはやめたの」
「へいへいそうですか……そりゃあ有り難い事で」
そして生徒会長さん改め
彼女については俺と光輝以外では、完璧美少女を絵に描いたような人だと思って貰えれば良い。
そしてこの中では遥と同じで彼女は異世界へと転移はしていない。
なので彼女の前で異世界の話は厳禁だ。
確実に頭がおかしい人と思われるだろうし、俺への態度が悪化しそうな気しかしない。
そして最後に……
「あ、あのぉ……」
「…………」
「あ、やっぱり話してくれないのか……」
俺に反応さえしない彼女は
正真正銘何を考えているのか解らない不思議系美少女だ。
基本的に会話するのは光輝のみ。
光輝の次に一緒にいるであろう俺でさえも相手にすらされない。
そして彼女も勿論転移した内の1人だ。
正直言って彼女は異世界でどの様なスキルを持っていたのかも、どんな事をしたのかも分からない。
ただまぁ追い出されてないからチートスキルは持ってたんだろうけど。
月野さんとは話さないからな。
俺はそこで月野さんから視線を切り、光輝をちょいちょいと手招きする。
光輝は他の3人に「ごめん」と言うと、俺の元に来てくれた。
因みに遥は紗奈と仲睦まじく話しているので俺の周りには誰もいない。
と言う事は―――異世界のことを聞く絶好のチャンスだ。
「どうしたんだい隼人?」
「いや、久しぶりに雑談でもしたいなと思ってな。それにしてもビックリしたな」
「本当にね。まさか
「ああ、本当に―――ん?」
俺はその言い回しを聞いて違和感を覚える。
俺からしたら
そう言えばさっきから光輝以外にも紗奈や月野も何も気にした様子もなかったし……まさか……!
俺はそこであり得てほしくない1つの仮説に辿り着いた。
なるべく動揺しているのを隠しながら早速核心をつく問いを光輝に出す。
「な、なぁ光輝。お前さ―――寝ている間に不思議なこと起こらなかったか?」
俺は光輝の全挙動を集中して注意深く観察する。
今のところ光輝には焦りや隠そうとする意図は見えない。
どちらかと言うと言っている意味がわからないと言う様な感じだ。
「えっと……ごめん、寝ている間は何にも覚えていないんだ」
「あ―――」
今俺の顔はさぞ間抜けな顔になっているだろう。
それぐらいに俺は驚いていた。
え、マジで? 光輝は何も覚えていないのか?
共感して貰おうと思っていたはずが、予想外の光輝の言葉に、俺は只々驚愕に言葉を失うことしかできなかった。
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