第4話 落第勇者、家に帰る
病院を出ると看護婦さんや医師の言う通りに病院の駐車場に向かう。
ただそこで1つ思い出したことがあった。
「……俺の家の車がどんなのだったか忘れた……」
10年も経てば、誰でも自分の家の車なんて忘れてしまうと思う。
決して俺が忘れやすいわけでは無い。
無いったら無いぞ。
「うーん……感知で探してもいいんだけど……」
「おーい隼人ー!」
俺が感知を使おうか迷っていた時、俺を呼ぶ父さんの声が聞こえた。
声を頼りに歩いてみると、車から出ている父さんを見つけた。
「ありがとう父さん」
「病み上がりだから流石に1人で帰らせるわけにはいかないだろ?」
そう言って軽やかに笑う父さんは、少しカッコよかった。
遥と母さんに強く出れないのは減点だが。
俺は父さんの運転してくれている車に乗り込んで家へと向かう。
長く見ていなかったため本当は見慣れているはずの景色が新鮮に感じる。
俺が車の窓からずっと景色を眺めていると父さんが話しかけて来た。
「……どうしたんだ? そんなに景色ばかり眺めて。見慣れたもんだろう?」
「あ、いや、1ヶ月も見てなかったから少し新鮮だったんだ」
「そうか。もう少しで着くから寝るなよ? 寝たらまた遥たちにめちゃくちゃにされるぞ?」
「それはやだな……寝ない様にするよ」
俺は少し焦りながらも言葉を返す。
いきなり話し掛けないでくれよ……久しぶりすぎて家族とどう付き合って行こうか分からなくなってんだから。
これでも異世界で何度も家族と再会した時の練習をしてきたが、全く意味がなかった。
俺は深呼吸をしてバクバクと鼓動を刻んでいる心臓を落ち着かせる。
しかし一向に落ち着かない鼓動を感じていると、いつの間にか車は家に着き、既に駐車場に車を停めていた。
俺は車の扉を開けて家を見上げる。
記憶に残っている物と全く同じだ。
まぁ此方では1ヶ月しか経ってないから当たり前なのだが。
しかし俺にとっては10年ぶりの我が家。
少し緊張しながら玄関の戸を開ける。
「た、ただいまぁ……」
俺は小さな声でよそよそしく入ろうとすると、いきなりリビングの扉が開いて、我が妹である遥が腰までありそうな綺麗な黒髪を靡かせながら、どたどたと走って来た。
そして俺へダイブ。
「おかえりおにぃ!!」
「ちょ、まっ―――ぐふっ……」
俺は頑張って受け止めようとするが、いきなりだったことと、全身が筋肉痛のため、受け止めるのに失敗。
そのまま倒れそうになるが、遅れて入った父さんに抱き止められ、倒れずに済んだ。
「こ、これは一体どう言う事だい?」
「このおバカがか弱い俺に助走をつけてダイブして来たんだ」
「なっ! おにぃ、バカとは何だ! バカとは! 私はこれでも成績優秀なんだぞっ!」
そう言って自慢げに胸を張る遥。
現在高校1年生の遥は、150後半とそこまで高い身長を持っていないが、その分胸部の装甲が大きく、胸を張った時にぷるんと震える。
その姿を見ると学校では人気なんだろうなと思った。
まぁ俺は何とも思わないのだが。
妹なんてどんな容姿でどんな姿をしていようが妹だ。
シスコンである自覚はあるが、別に欲情したりしないぞ。
逆に俺的には遥が誰かに襲われないか気が気でない。
まぁそんな事があったら相手の命の保障はしないが。
「はいはい凄い凄い。そんな賢い遥は今の俺の状態分かるだろ? 分かったら
「むぅ~~……はーい……」
「よしよしいい子いい子」
俺が遥の背中をトントンとしながら言うと、不承不承ながら退けてくれた。
やっぱり久しぶりの遥とのこのノリは案外心地良い。
帰って来たと言う実感が湧いてくる気がする。
俺は遥に手を引かれながらリビングへと移動する。
そこにはテーブルには様々な料理が用意されており、病院の味気ない食事など目でもない程美味しそうな匂いが漂っていた。
俺の口に知らず知らずの内に唾液が溜まっていく。
そしてテーブルの近くの壁には、『退院おめでとう!!』と書いてあるプラカード? みたいな物が付けてあった。
俺が言葉を失っていると、遥がドッキリが成功した様な嬉しそうな笑みを浮かべて、
「どうおにぃ? 私たち頑張って準備したんだよ? 嬉しい?」
俺は笑顔で俺を見ている家族を見ていると、安心したからか分からないが、また不意に涙が出て来た。
何か帰ってきてから涙脆くなってるな俺。
涙が止まらないぜ。
「おにぃ……? どうしたの?」
「いや……何でもない。―――ありがとな遥。それに父さんも母さんも」
「久しぶりの家族揃ってのご飯なんだからこれくらいは余裕よ! まぁ食べられなかったら許さないけどね!」
母さんがそう言って笑う。
俺たちもそれに釣られて笑う。
「それじゃあ食べようか」
父さんの合図で皆んなで椅子に座り食べ始める。
本当に久しぶりの家族との食事は、今までのどの料理よりも美味しくて楽しかった。
勿論1番は10年間まともな食事を取れなかったと言うこともあるが。
「どお? 美味しい?」
「ああ……めちゃくちゃ美味いよ」
「なら良かったわ! どんどん食べてね!」
母さんが俺の皿にどんどん食べ物を入れてくる。
いや全部食べるよ? 食べるんだけどさ……
「遥、嫌いなものをどさくさに紛れて入れようとするなよ」
「んにゃっ!? どうしてバレたの!?」
「バレるに決まってるだろ。俺はお兄ちゃんだぞ」
「それじゃ答えになってないよ……」
不貞腐れる遥に皆が笑う。
俺はそんな皆を見て、不服だがスキルと言う神からの贈り物はこの人たちのために使おうと、心にそう決めた。
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