第7話 落第勇者、早速怪しまれる②
「それで……隠し事って何?」
再びそう聞いてくる宮園。
その姿はさながら獲物を狩る獅子の様だ。
俺が異世界帰還者で宮園が美少女じゃなかったら逃げ出している自信がある。
特に俺には物凄い隠し事があるので、多分実際の10倍くらい怖く見えていると思う。
「きっと宮園さんが知りたい様な事じゃないと思うぞ?」
「別にそれならそれでいいわ。私は何なのかが気になるだけだから」
俺の遠回しの聞いてくるなと言う言葉に、真っ向から反発してくる宮園はめちゃくちゃ性格が悪いと思う。
顔がいいだけじゃモテないぞ、俺みたいにな。
これは……結構面倒な事になったかもしれない。
ほんの数十分前に隠し通すと決意したばかりなのにもう既にピンチとか、流石の俺も想像してなかった。
あのまま将吾の筋トレを見て周りのクラスメイトの女子に引かれながらも教室にいた方が良かったかもしれない。
俺は屋上に来た事を後悔しながらも、どうやってこの危機的状況を切り抜けるか必死に思考していた。
しかしそんな隙を与えないとばかりに宮園の質問は続く。
「それで一体何を隠しがたっているの? もしかして浮気?」
コイツやっぱり性格悪すぎだろ。
絶対俺に彼女が居ないこと知ってるくせに。
「俺に―――彼女はいない」
「……それは悪い事を聞いたわね。―――ごめんね。わざとじゃ無いの」
そう言って結構本気で謝ってくる宮園。
どうやら俺に彼女が居ないことをマジで知らなかったようが、今に限ってはそんな謝られ方は俺の傷を的確に抉るだけだ。
ああ……めっちゃ最悪なんだが。
何で大して仲良くもない、しかもよりにもよって異性に俺の恋愛関係を暴露しないといけないのか。
まぁそんな事を言える様な空気じゃ無いけど。
俺は心の中で大きくため息をついた後、頭をガシガシと掻いてから頭を下げる。
「すまん、どうしても教えられないんだ。だからこれ以上の詮索はやめてくれると助かる」
宮園は突然の俺の行動に驚いた様で「えっ」と言う呟きが聞こえた。
チラッと彼女の顔を覗き見ると、やはり突然のお願いに困惑の表情を浮かべている。
まさかいきなり頭を下げられるとは思っていなかったのだろう。
しかし小さく溜め息を吐いた後、宮園は口を開いた。
「そ、そこまで言うのなら別に強要はしないしもう聞かないわ。でもそう言った隠したい事は自分の部屋で言うことね」
「……おっしゃる通りです」
宮園から放たれる正論に何も言えず項垂れる。
だがこれ以上模索されないのはこちらとしてはありがたい事この上ない。
後は速攻でこの場から離れるだけだ。
「わ、分かったなら早く教室に戻ることね。これ以上私が聞きたくなる前に」
「……了解です」
俺も丁度思っていたので、特に反論する事なく大人しく屋上を後にする。
やはり学校では気を抜かないほうがよさそうだな……ん?
俺は屋上の扉を閉めて階段を降りている途中である疑問が頭に浮かんだ。
それは本来ならあり得ない事だった。
そう言えば俺……どうして宮園の気配に気付かなかったんだ……?
幾ら感知を使ってないからと言って、長年鍛えていた感覚が無くなるわけでもないし、そもそも異世界転移の記憶もないただの一般人に背後を取られるなどあり得ない。
戦場だったら常に神経を張り巡らせないといけないので、俺の感知能力はスキル無しでも人間離れしている。
だから教室でも沢山の人がいる中で、いきなり将吾に話しかけられても驚かなかったのだ。
それなのに俺は彼女の気配を話しかけられるまで気付けなかった。
そんなことなど此処5年くらいは1度もなかった。
それこそ寝ている間でも気付いたくらいだし。
「全く……帰還してから分からないことだらけだ……」
俺は溜め息を大きく吐いて重い足取りで教室へと戻った。
『それで、どうだったんだ?』
「ええ、何か隠している事があるみたいです。もしかしたらいきなり異能の反応が現れたのにも理由があるかもしれないですね」
先程まで隼人と話していた宮園清華は、此処にはいない誰かと会話していた。
先程の口調とは違って、敬語を使っている様だ。
『異能を使ったのはバレたか?』
清華の耳にそんな言葉が入ってくる。
その言葉を聞いて清華は先程の隼人の不可解な動きを思い出していた。
「いいえバレてません。彼は純粋に驚いている様でした。しかし1つ不可解な事が……」
『何だ? 言ってみろ』
清華は少し躊躇ったのち、話し始める。
「……その……一瞬物凄い殺気が私に放たれました」
『ほぅ……殺気だと? それはどのくらいの強さの?』
「…………一瞬私の体が硬直して自分の死の幻覚が何十回と見えるほどでした」
『戦うならどれくらいの戦力が必要だ?』
そう問われる清華は言いづらそうにした後、決意を決めた表情で告げる。
自分たちからしたらたまったものではない悲惨な事実を。
「我々異能者では―――彼を倒すことは不可能です」
一瞬電話越しに息を呑む音が聞こえるも、直ぐに次の指令が出された。
『……分かった。彼については此方も調べてみるとするが、其方でも引き続き頼む』
「はい。お任せ下さい」
清華は、耳に付けていたシークレットイヤホンを外した。
そして自身が気を失っていた1ヶ月間の事を思い出す。
最低でも1ヶ月前までは異能の気配など欠片も無かったはずだと日頃から隼人の事を意識していた清華は思う。
しかし今日対面して彼に異能の気配が現れたのを確信した。
清華は誰も居ない屋上で1人、小さく困惑と心配を孕んだ言葉を呟く。
「貴方の身に……いえ、私たちの身に一体何が起こったのかしらね……。―――隼人君……」
その問いは誰にも聞かれる事なく風と共に消えていった。
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