最終話

 魔族との戦争から一か月――他国はハインツヴァセル王国に宣戦布告し、戦争へと突入した。とはいえ、ずっと戦闘が続いているわけではなく、事情を知っている冒険者達が各地でモンスター退治をしながら稀に各国の軍と争いをしている。


 勇者達は正式にハインツヴァセル王国に属することとなり、攻めてくる魔族軍やモンスターと戦う傍らに騎士団や冒険者に稽古をつけている。


 あの時、あの場にいた数名……あとは事情を知っている王女を含む王族だけは俺を英雄だと言いたそうにしていたが、それを公言すれば門番を辞めると伝えれば素直に引いてくれた。元より門番を辞めるつもりはないが、そうでも言わなければ納まりが付かなかった。


 後輩や勇者達から聞いた魔王の呪い――一つは魔法を使えるようになった。とはいえ、今のところは槍に炎やら雷やらを纏わすくらいのものだ。そして、魔法を使うと魔族と同じような角が生える。そのせいで戦う時は誰にも見られない門の外か、樹海の中でが基本になった。


 そして、もう一つ。誰かを攻撃した時――それと同じ痛みが自分に返ってくる。あれから数体のモンスターを退治したが、死ぬほどの痛みを味わっても死ぬことは無かった。おそらくそういう呪いなのだろう。このことだけは誰にも知られていないし、知らせるつもりもない。


 魔王曰く、死ねば呪いも解けるらしいが……それをさせないための呪いなのだろう。


 これから先も戦争は続くが、呪いのせいもあって俺は前線には出られない。だから、やることは何も変わっていない。


 職業・門番。それ以上でも以下でもない。目の前に大火があり続けるのなら良し、背後に火が回った時が俺の死ぬ時だろう。


「先輩、今日も頑張りましょう!」


「ああ、いつも通りな。後輩」


「……もう名前は呼んでくれないんですか?」


「まぁ、必要な時は呼ぶが……ライカが後輩であることには変わりがないからな」


 そろそろ本気で人の名前を覚える努力をしてみるか。






「急な呼び出しで悪かったな」


「いえ、英雄の呼び出しなら断りませんよ」


 目の前の円卓には勇者一行が腰を下ろす。


「それで、話とは?」


 戦争を経て、一人一人の実力が魔王にも引けを取らないほどになったように思う。――だからこそ。


「……魔王が自身の復活を幾年か後と言った。その上で、魔王あいつは俺の中にいて、数年後か数十年後かわからないが……おそらく俺自身が魔王と成る。だから、俺がそうなった時、そうなりそうな予兆を見せた時は――躊躇わずに殺してくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二度目の人生は、ただの門番です。 化茶ぬき @tanuki3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ