第15話

 戦争が起きる当日――俺達は樹海の中央に建てられた砦に集められた。


 魔王は魔族軍一万と、魔物約二万を連れて前線へと向かった。後方の第二陣に控えているのが本命の魔物の大群と将軍率いる魔族軍だ。これを止めるのが俺達の役目だと思っていいだろう。


「さて――開戦の合図と共に俺達も始めるわけだが……魔王直々に陣頭指揮を執っているんじゃあ狙えない。将軍を落としてからモンスターを狙うんでいいか?」


「ああ。モンスターのほうはクザンの投げ槍で、将軍はあたしのほうで引き受けよう」


「……遊ぶなよ?」


「もちろんだ」


 大軍の最後尾から眺める光景は圧巻だ。目の前の全てが一気に敵になると考えると恐ろしい。スカウトされ魔族側に付いた人間は俺達以外にもいるが、そいつらの半数は魔王と共に前線へ行き、残りの半数は将軍と共に兵を率い、こちらからの進言で俺と王女が後衛を任されることになった。いまいち信用されていない可能性もあるが。


 前線で爆発が起こった瞬間――兵士とモンスターは雄叫びを上げた。


「よし。俺達も始めっ――」


 その瞬間、脇腹に受けた衝撃に喉が詰まった。


 視線を下ろせば、背中側から貫かれた剣が見え――引き抜かれると血が溢れ出し傷口を手で押さえ付けた。


「殺しはしない。お前は魔王様のお気に入りだからな」


 振り向けば、剣を握る王女が刃に付いた血を拭っていた。


「お前……まさか……」


 ハインツの王族は催眠に掛かりにくいって話だから安心し切っていたが、血の濃さだったり男女の差で違ったりするんだろう。


 傷は――王女の言う通り致命傷になる臓器は避けているが、血は止まらない。


「そこで蹲ってろ。あたしは親父と兄貴を殺しに行く」


 表面上では操られていることがわからない。王も王子達もそう簡単に殺されることはないと思うが、それだけの被害で済むはずがない。


「いや……悪いがそれはさせない」


 すでに動けないと判断してこちらに背を向けている王女に目掛けて槍を振り、その首を刎ね飛ばした。


 落ちていく頭と倒れる体を眺めていると――突然、頭と体が燃え盛りながら渦巻くように混ざり合い、一つの体を作り始めた。


 第一王女の通り名は不死鳥。魔力自体が炎の性質を持ち、死んでも生き返ることを知っている。というか、実際に昔、一人で樹海に向かった王女を捜しに行くよう命じられて今と同じような光景を見たことがあった。


「チッ――なるほど。やりやがったなぁ、あのクソガキ。クザン」


 そう言って近寄ってきた王女が血が流れ続ける脇腹に触れると、一瞬の炎で傷口が塞がった。痛みは残っているが動けないほどではない。


「ふぅ……操られていた時の記憶もあるんだな?」


「ああ。最悪なことにな。そもそもどうして――いや、魔法だよな。クソッ。悪かった、クザン。戦えるか?」


「まぁ、それなりには。お前が臓器を避けてくれたおかげでな」


「それはそれで複雑だが……その分はあたし自身で返させてもらう」


 全身に炎を纏った王女が大群を突っ切るように走り抜けると、モンスターが一気に燃え盛り、そのままの勢いで将軍を押し倒した。


 騒ぎになったのを見計らい、俺も後ろから槍を放り投げてモンスターの数を減らしていく。


 減ったモンスターの大群の間を縫って魔族軍の背後から奇襲を仕掛けた。


「っ――どうして裏切った!?」


「元から味方じゃねぇんだよ」


 俺の姿を見た兵士たちは一斉に剣を手に取り向かってくるが、付け焼き刃の技術で勝てるはずがない。


「魔法を使え! そいつは魔法がっ――」


 使われる前に殺せば関係ない。


 魔族軍兵士の魔法はほとんど知っているし、戦う上では何も不利ではない。


「クザン!」全身が炎に包まれた将軍が、王女に吹き飛ばされモンスターの大群に突っ込んでいった。「ここは任せる! あたしはクソガキを止めに行く!」


 そう言って王女は前線に向かって跳び去っていった。


 ここまでは予定していた通りだ。タイミングは少し遅れたが誤差でしかない。


「クザンッ! 貴様も、あの女もただでは済まさない! 全力を持ってお前を殺っ――」


 起き上がり際の将軍に槍を放り投げ、その首を貫いた。


「言う前に動け」


 落ちていた大剣を拾い、モンスターを殺しながら進んで息の無い将軍から槍を引き抜いた。


「囲んで殺せぇえええっ!」


 向かってくる兵士の首を槍で刎ね、風の魔法を弾きながら拾った剣を放り投げ、隆起してきた地面の上を跳ねながら兵士たちを殺して行く。


「っ――」


 死角から伸びてきた植物の蔓の先が胸を貫いたが、即座に槍を回して深手になる前に蔓を切り落とした。


 手に付いた血で槍が滑る。血脂のせいで切れ味も落ちてきた。体力も無限じゃないが、奥歯を噛み締めて槍を握る手に力を込めた。


 兵士を何人、何十人――モンスターを何匹、何十匹倒しても終わらない。わかっていたことだが、そろそろ槍も限界が近い。


 兵士の剣を弾いた時、槍が真っ二つに割れ――折れた柄のほうを兵士に突き刺し蹴り飛ばした。


 そろそろ限界かと思ったその時、目の前に雷が走った。


「クザン先輩ッ!」


「良いタイミングだ、後輩!」


 投げ渡された筒から飛び出た複数の槍が地面に刺さり、その一本を手に取った。


 握りやすい。使い慣れた武器はいい。本気で投げても壊れないのが最高だ。


 向かってくる兵士とモンスターに槍を投げれば、今まで以上の威力が出て周りを囲んでいた敵が一瞬だけたじろいだ。


「先輩、今のうちに回復を」


 当てられた魔法の光で傷口が塞がり、疲労感が減っていく。あくまでも一時凌ぎでしかないが、これでまだ戦える。


「後輩、前線はどうなっている?」


「モンスターや魔族は集まった冒険者や騎士団、門番のみんなが力を合わせています。魔王は王女様と王子様、勇者一行が相手をしていますが――劣勢です。王女様から話を聞き、先輩を連れて戻ろうと思っていたんですが……この数を一人で相手していたんですね」


「魔王と戦うより幾分かマシだ。今ならお前もいることだしな」


「はいっ! 全力でお手伝いします!」


 一瞬怯んだところでそこは魔族だ。人間を滅ぼすという強い意志と、俺に裏切られたという怒りでモンスターを引き連れて立ち向かってくる。


 どちらが悪で、どちらが正義か――など、無い。俺は人間で、人間側だからこそ魔族を殺さなければならない。もし仮に魔族として生まれていたのなら逆の立場だったのは間違いない。これはただ立ち位置の問題だ。だから、恨まれこそすれ恨むつもりは無い。


 槍の対応策をわかっているからこそ、距離を詰めてこようとする魔族軍の兵士を一人ずつ狩り殺していく。


 槍は撓り、速度が増せば切れ味も増す。その代わりに耐久が減って壊れやすくなるが替えはある。


 一本目が壊れ二本目――二本目が壊れ三本目。その三本目を放り投げて、四本目はモンスターの突進を防いだ衝撃で圧し折れた。


 五本目を掴んだ時、前線から飛んできた王女の火の鳥が目の前で消えた。


「貴様がすべての元凶だな! クザン!」


 血塗れの体で怒りの表情を浮かべた魔王がこちらに向かって一直線に飛んでくるのを見て、俺は持っていた槍を空高く放り投げた。

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