第13話
門番になった理由なんて単純だ。
公務員で、給料が安定していて、危険が少ない。そして――俺の両親は門を素通りして入ってきた強盗に殺されたから。
今の南門の主任が当時の警備担当で、本来であれば身分不証明で通さなかった者を、主任の上司にあたる人物が賄賂を貰って門を通し――運悪くうちに強盗に入った。
その夜、物音に目を覚ました俺は血塗れで倒れる両親を見つけ、金目の物を漁る見知らぬ背中にナイフを突き立てた。騒ぎを聞きつけた騎士団が駆け付けて、賄賂を受け取った門番も捕まり、俺が罪に問われることも無かった。
当時のことを知っているのは、今は引退した駆け付けた騎士団員と主任、それと国内のことを把握している国王含む第一・第二王子。そして、第一王女だけだ。
「来たな、クザン。酒は?」
「水でいい」
王女の部屋は、さすがにスカウトされてこの国に来たからか随分と豪華な装飾がされている。
テーブルに用意されている食事は酒好きな王女のせいかつまみ系ばかりだが、文句を言うつもりもない。
「さて――そんじゃあ、話そうぜ。と言いたいところだが……訊きたいことがありそうだな?」
顔に出ていたとは思えないが、野生の勘か。
「……数日前、
「はっ! いいねぇ、手間が省けた。少し待て」
王女が指を鳴らした瞬間に、周囲の空気が詰まったのを感じた。
「何をした?」
「さすがに女の部屋のプライバシーには配慮するみたいだが、魔族連中は盗み聞きが好きでな。念のために結界を張っておいた。んで、怪物達の大行進だが――あれはあたしが魔王に進言した。そうでもしないと信用を得られないからな」
「……信用を得られる?」
「勘のいいお前ならわかると思ったんだが――あたしはこの国に潜入して情報収集やらをしているわけだ」
「潜入ってことは……つまり、この国の――魔王の味方に付いたわけじゃないってことか?」
「そういうことだ。さすがのあたしでも正面から戦って魔王やら他の魔族に勝てるわけもねぇ。信用を勝ち取り、なんらかの作戦やら戦争なんかの時に背後からってのがベストだと考え付いたわけだ」
そのために自分の国を売って百人近くの犠牲を……とはいえ、もし魔王国がこの先、人間に対して戦争を仕掛けるんだとしたら目先の犠牲は捨ておくべきか。元より騎士団や冒険者は死を覚悟している者ばかりだし、モンスターの素材で得た収入を考えればマイナスではないんだろう。
「事情は理解した。だが、それなら俺をスカウトする魔王を止められただろ」
「逆だ。あたしがお前を推薦した。魔族は魔法に長けているから、いつあたしの魔法が封じられてもいいようにそれと同等以上の強さを持つクザンを、な。まぁ、魔王が気に入るかどうかは賭けだったが」
「で、俺の望まない賭けに勝ったわけか。……俺に何をさせたいんだ?」
「あたしと一緒に情報を集めて魔王軍を制御する。信用を得て、来るその日に不意打ちで戦いを終わらせるんだ」
王女の言葉を否定するつもりはないが、どこまで信用していいのかわからない。
「魔王国に潜入していることは誰が把握している?」
「親父と兄貴は知ってる。というか、連絡も取り合っているからな。これで」
そう言うと、指先から火で形作られた小さな鳥が出現した。
「魔法か。じゃあ、俺が魔王国にいることは?」
「送ってある。まぁ、伝わるまで三日くらい掛かるがな」
魔法で作られた鳥で三日――体力があるわけでもなく飛び続けられるし、普通の鳥よりも移動は速い。ということは、ハインツヴァセル王国まで少なくとも倍の六日以上は掛かるはずだ。それだけで逃げ出すという選択肢が消えた。
国王に連絡が付くのなら、そこから主任にも伝わるはずだ。細かい事情までは秘密だとしても、仕事の無断欠勤に関しては何かしらの理由をつけてくれるだろう。
「……わかった。とりあえずは協力するが……その場合、俺の立場はどうなる?」
「あたしと同じなら魔王軍に雇われた傭兵、みたいな感じだな。扱いに関してはこの通りの好待遇だ。やることはたぶん、魔王軍の武術指南だな」
「武術指南って……俺自身そんなに強くも無いし、もの教えるのも苦手なんだけど」
「だが、現状把握にはなる。あたしも模擬戦の相手になったりしているし、単純な肉弾戦じゃあクザンのほうが強い」
「仮にそうだとして、戦い方を教えて今以上に強くなったら本末転倒だろ」
「教えた技術は本家には劣る。戦争になった時に有利になるよう適当なことだけ教えりゃあいいんだよ。その時が来るまで、あたし達は爪を研ぎ澄ます。それだけを考えろ」
「そういうのは苦手なんだが……まぁ、仕事だと思ってやれることはやるよ」
「決まりだな。そんじゃあ――どうする? 夜伽でもしておくか?」
「しねぇよ。仮にも一国の王女を相手になんかできるか」
「今のあたしは王女ではなく一人の女だ。魔族は人間を相手にしないし――魔王国にいるただ二人の人間だ。減るもんじゃないだろ」
「神経がすり減るんだよ」
「まぁ、ストレス発散だと思え。それこそ――王女の命令だ」
言いながら膝の上に乗ってきた王女に抵抗を止めた。王女だの王女じゃないだのと、適当な理由を並べられて拒否するのは無理な話だ。なんならそのために男の俺が選ばれた可能性まである。
……仕事だ。できる限り王女の精神が安定するように務めるとしよう。
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