第10.5話
気を失ったクザンを抱える後輩が救援所へ向かおうとした時、目の前に一人の少女が現れた。
「毒ですね。私に任せてください」手を添えて光に包まれると、クザンの顔色が良くなった。「これで大丈夫です」
「ありがとうございます。貴女は勇者の……」
「はい。勇者パーティーの魔法使いです。主に支援を担当していますが、攻撃もまぁそこそこに。それはそうと――そこのアンデッドやリザードマンはこの人が?」
「そうです。ほとんで一人で倒していました」
「なるほど……この国にも規格外の人がいたわけですか……」
「あの、たしかに先輩は規格外かもしれませんが、魔法を使えない人なので……」
「魔法が使えない? ……そういうことですか。その方に、また会いましょうとお伝えください。では」
そう言って少女は前線へと向かっていった。
勇者の活躍により
主な近衛や騎士団には休暇が出され、各々が戦いの傷や疲労を癒しているが、門番だけは翌日からも普通に業務を続けていた。
「……やはりクザン君はいないか」
「はい。怪物達の大行進の翌日から――心当たりのある場所は探したんですがどこにも……」
「無断欠席をするような性格じゃないから何かがあったんだと思うけど……あまり私生活を話さないタイプではあったからどうすればいいものか……」
「一応、昔からの知り合いという近衛騎士団の団長さんには伝えたんですが、何もわからないから捜してみる、とだけ」
「近衛騎士団が捜しても見つからないということはこの国にはいないのか、はたまた――……報告を待つしかないね」
ハインツヴァセル王国内は怪物達の大行進の被害を受けなかったため日常生活が続いている。忙しいのはモンスターの解体や樹海の報告を処理する冒険者ギルドと、商人ギルド。そして娼館街。
未だ王国内に留まる勇者一行は食事処の個室に集まっていた。
「災害により判明した規格外の人物は三名――近衛騎士団の団長、南門の主任、そして姿を消した門番の男。もう一人いた門番の娘もそう悪くはない」
酒を飲む重戦士は、言いながら三枚の金貨と一枚の銀貨をテーブルに並べた。
「集めた情報によれば近衛騎士団の団長はこの国の第二王子だそうだ。それと、公にはなっていないが第一王女もしばらく前から行方不明なんだとか」
「定期的に人が消える国? この国にそういうきな臭い話は無かったと思うが……」
「王女に関してはわからないけど、私達と同じように強い方を探している人がいるのかもしれませんね」
「門番の男性に関しては僕等も気に留めておくとして、他の二人――いえ、三人には声を掛けておきましょう。魔王国と全面戦争になる前に、戦力を集めておく必要がありますから」
いつもと変わらぬ日常が過ぎていく――ただ一つ、槍一本で国を守っていた門番の姿が、そこには無かった。
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