第6話 門番の役目
昨日の試合を経て、主任から半日休みをもらって今日は午後出勤になった。いつもより長く眠れるだけでもありがたい。
一人暮らしの家でのんびりしていると、ドンドンッとドアが叩かれた。
「せんぱ~い!」
騒がしいのが来たな。
「開いてるよ」
「お邪魔しま~す」
躊躇いなく入ってきた後輩は、対面のイスに腰を下ろした。
「もう少しで出るつもりだったから、あんまりゆっくり出来ないぞ?」
「迎えに来ただけなのでいいですよ。それにしても――増えましたね、折り紙」
「古いやつから捨てていっていいんだけどな」
娯楽の少ない世界だから、暇潰しの手遊びに前世の折り紙を作っている。子供の頃から作っているせいで、もはや創作折り紙にまで発展しているが……下手をすればこれだけでも商売になるレベルの完成度になっている。まぁ、売ったりするつもりはないが。
「もったいないのでダメです」
と言われるから残してあるが、さすがに紙の劣化に負けていったものから捨てている。
「少し早いけどそろそろ行くか」
「は~い」
革鎧を着けて、刃の部分にカバーの掛けた槍を手に家を出た。
半日休みとはいえ時間の概念が曖昧なこの世界では日が真上に来た時が昼になる。
「よぉ、重役出勤だな」
また騎士団に絡まれたと思ったら、聞き覚えのある声だった。
「お久し振りですね、近衛騎士団・団長様」
振り返れば金色の長髪を靡かせたイケメンが馬上からこちらを見下ろし、その後ろには馬に乗った騎士が並んでいた。
「他人行儀はやめろ、クザン」
差し出してくる拳に、こちらも拳を返した。
「久し振りだな、第二王子」
「昨日は悪かったな。だが、想定以上の結果だった」
「今度なにか奢れよ」
「それくらいならお安い御用だ」
「それで、近衛騎士団引き連れてどこに行くんだ?」
「樹海の調査だ。何やらモンスターの数が尋常ではないという話を聞いてな。どんな異変が起きているのか――場合によっては今日のうちに不安の種は取り除いておくつもりだ」
「そうか。まぁ、がんばれ」
そう言うと笑顔を見せ、近衛騎士団を引き連れて南門へと向かっていった。
「あの、先輩……今のって……」
「ああ、この国の第二王子だ。向こうのほうが年上だが、訓練学校時代の同期でな。何かある度に突っ掛かってくるが、まぁそれくらいの関係だ」
第一王子は国王の後を継ぐために、現国王から国政を学んでいる。そして第二王子には幸いにも剣と魔法の才能があった。魔法に関してはよくわからないが、剣の腕前はこの国随一の使い手まで成長し、今やその若さで近衛騎士団の団長を務めている。
「先輩って意外と人付き合い上手いですよね」
「本当に人付き合いが上手ければ決闘なんて申し込まれないと思うけどな」
「それはそれ! ですねっ」
調子のいい後輩だ。
南門に着けば、すでに近衛騎士団が出た後だった。
「やぁ、疲れているところ悪いね、クザンくん」
「いえ、仕事ですので。すでに近衛騎士団は樹海に向かった後みたいですが――樹海にモンスターの異常発生の情報なんてありましたっけ?」
「どうやら他国からの情報提供らしいよ。樹海に入った冒険者の数名がモンスターの大群を目撃したとかで」
「でも主任。この間、先輩が対応した冒険者は樹海でレッドベアーが見つからなくて~って言ってましたよ?」
「まぁ、樹海自体が広いからねぇ。中央地帯は未踏だし、モンスターの生息域も日々変わっているだろうから……そういうのを確認するために近衛騎士団の皆さんが調査しに行ったってことだね」
樹海はどこの国の管理下にも無い。故に過去にも大規模な調査が行われたことはなく、今も冒険者が依頼を受けて入る以外はほとんど未踏の地になっているが――門番の俺には関係の無い場所だ。
午後から南門の警備についたが、今日も今日とて暇である。
まだ昨日の怠さが残っているし、入国対応が無いのは楽でいい。
日が傾き――夜間組との交代時間が近付いてきた頃、樹海から傷だらけの近衛騎士団が帰ってきた。
「クザン! 手当てを頼む!」
「主任、教会への連絡をお願いします。後輩は何人かと一緒に重傷者を門の内側へ」
動き出した門番たちを見て、第二王子の下へ駆け寄った。
「死者は?」
「いない。だが、馬に載せてきた何人かは重傷で意識が無いから扱いに気を付けてくれ」
その言葉を受けて、後輩たちが馬ごと近衛騎士団を引き連れていく。
手足が折れている者に、血塗れの者、意識はあるが朦朧として今にも倒れそうな者がいる中で――第二王子は鎧が汚れているだけで無傷だ。単純に実力の差だと思うが、それでも近衛騎士団はこの国の最高戦力だぞ?
「何があったんだ?」
「
「ああ。教会からの応援もくるだろうし、あとで後処理の近衛騎士数名を寄越してくれればいい」
「では頼んだ」
そう言うと第二王子は馬に乗り城へ向かって駆け出した。
何やら大変な事態が起きているようだが、おそらく門番にはそれほど関係が無い話だ。何かあったとしても、門番の役目は門を守ること。それだけは変わることが無い。
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