第4話:蝗って煌に似てるよね 下

 あー、そういえば。人生でメガネキャラ攻略したことないなあ。

 陽光を乱反射するメガネを見て、僕はそんなことを考えていた。


「無理です。立地の悪さも鑑みて準備金を捻出しましたが、あれも貸与であることを忘れずに」


 リラちゃんを拠点に送り届け、エルフの耳を換金したあと。

 僕は「チーム☆アゲてけ」と真っ向から対立するミサキちゃんに代わり、各チームの折衝役を担う委員長みたいな奴の前で小さくなっていた。


「カブトタイプは強敵だったよな」

「ほんと、お前がいなきゃやられてたぜ」


 と、そんな風に肩を抱き合いながら、東組の連中が歩いている。

 腰のジャラジャラに、盗人に転職するかと魔が差しそうだった。


 今回の試験では、換金所なる野営地が幾つも配置されている。

 僕たち学園生は、そこに討伐した証であるエルフの耳を持っていき、試験用の学園通貨に変えてもらうことができるのだ。


 例をあげると、さっきのジャンピングタイプは一〇〇学園キティだ。

 昨日のサイズタイプは一五〇〇キティ。

 他にも何体か倒していて、僕たちは現在二一五〇キティ集めている。

 まあまあ頑張っているほうだろう。



 ……ノルマは一人三万。計十八万なんだけど。



 十日間のうち、二日目の夕方でこれだ。

 ペナルティ確定のお知らせである。


「そこをなんとか。何でもしまする」

「……」

「拙者、一発芸なら自信がある所存」

「……」

「わかった、わかりました。土下座でしょ。土下座しますよ。ほら土下座」


 そんなワケで委員長――メガネと呼んでいるこのモブに、僕はおひねりを頂きに参上していた。

 穴という穴から汁を垂れ流し、地面に額を擦りつける様は、あのリラちゃんさえもドン引きしていたのだが。

 昨日の今日で土下座している僕に、メガネ君だけでなく、通りがかる皆も汚物を見るような目をしていた。


 しょうがなくない?

 二人だけって罰ゲームかよ。

 せめて中層に行けたらなあ。

 シザーズタイプなら一匹一万は固いのに。

 そして絶望なのが、報酬を全額ノルマに使えないことだった。


「あ、メルさーん。晩御飯の準備できましたよー!」


 白エプロンにしゃもじ片手のリラちゃんが、カレーの匂いを漂わせながら走ってきた。

 メガネ君の眉間の皺がマリアナ海溝の如く刻まれる。

 そりゃそうだ。

 借金するとき超頑張ると約束したし。


 しなくても頑張れよ?

 はいはい、正論正論。

 判ってる。

 皆くっそまずい携帯食料食ってるのに、クラスどころか学年でドベを爆走する僕たちが、日の暮れる前から豪勢な晩餐を準備しているのだ。

 林間学校気分? と聞かれても反論はできない。


「あいつら、またやってるよ」

「足引っ張ってばっかりなんだから。ナインテイルさんもさぞ大変だったでしょうね」


 周囲でひそひそとささやく声が聞こえる。

 穴があったら入りたい気分だ。


 でも、言いたい。

 僕じゃないんだ。

 炊事担当兼お財布係ことリラちゃんが悪いのだと。


 ドクズな僕は、一万パクって残りをどうしようか考えていた。

 なのに彼女は、そのお金でツインベッドを買ってきたのである。

 税抜き八〇〇〇キティ、超赤字である。


 そして、だ。

 商人も商人だろ。

 なんで売ってんだ。

 学園は、一般に協力を願ったと言っていたけど……僕らをカモとして見てる奴が混じってないか。

 換金所とか酒保商人の野営地に行くと、必要ないものを売りつけてくる。

 海月毒に水母毒の解毒薬とか、陸地で絶対必要じゃないでしょ。

 そして後ろをハイエナする冒険者もいた。


 ――灯り、消してくれませんか?


 クソっ、恥ずかしがる彼女が憎い。

 木に縛りつけて、ベッドを独占しても恨み骨髄である。


 ……あん、文句あっか?

 僕はフェミニストなんだよ。

 男女平等っ!


「メルさん?」


 袖を引く彼女に心の中で唾を吐く。

 男臭さが減るのだけ感謝だ。

 あとは知らん。僕が素手なのも、彼女が檜の棒なのも根性で乗り切ろう。

 薬とかは諦めた。昼塗ったやつでラストだ。アレもパクったやつだし。

 防具? なにそれおいしいの?


「あなた方には、学園生としての自覚が欠落しているようですね」


 メガネ君は、名の通り中指でメガネのブリッジをくいってした。

 うっぜ、それ。

 あと、欠落とか小難しい単語使ってんじゃねーよ。


「はっきり言います。甘えないでください。世の中自己責任です。今後一切、援助はありませんので悪しからず」


 メガネ君は、最後にもう一回メガネをくいくいしながら踵を返した。

 しかもぶつぶつ、


「努力もしない寄生虫が」


 とかディスってるし。

 完全に切り捨てられたよ。


「私、またやっちゃいました?」


 リラちゃんは、てへ、みたいに自分の頭を小突いている。

 うん、それ転生チート君以外はゴミの証だから。

 君は本来の意味でやっているから。

 やらかしまくってるから。


 もういいよ。

 君はこのまま、ポンコツかわいいを極めてくれ。

 感謝のポンコツ一万回で、無能協会会長に就任してくれ。


 僕はリラちゃん二人、とぼとぼ拠点へと戻った。

 割り振られた拠点には、小さなテントが二つと焚き火で煮える吊り鍋があった。


「うーん、いい匂いだ」


 本当はベースを守る人間も雇いたいけどなあ、東組の拠点から離れてるし。

 これじゃ他所のクラスどころか、蛮族盗賊に入られ放題だ。

 盗られる物がないのが幸いだけど。


 あー、ミサキちゃんが羨ましい。

 東組は試験会場の西にあるヤヲ・イ台地に居を構えている。

 その中でも有力なチームには、水場が近かったり、洞窟の中だったりといい場所があてがわれている。


 一方、僕らはひどい。

 水とかどこにあるんだ状態だし、試験場へはダントツで遠い。

 仕方ないけど。

 皆で固まりすぎると、今度は図鑑外のモンスターが襲ってくるのだ。

 拠点はコンパクトに、これテストに出るよ。


「最初から見捨てられていたのだ。残念無念」


 つか、寸胴鍋で作ってるじゃん。

 一体何人分だよ。

 食い切れんぞこんなの。

 作り置きは菌で飯テロが起こるし。

 そして僕が腹を壊した瞬間、リラちゃんも首チョンパ確定である。


 しょうがないな。任命したのは僕だし。

 通りがかった人に分けてあげればいいか。

 インスタント・切株チェアでチルすると、よそって貰ったカレーを口に運んだ。


「お、美味しいですか?」

「そうだねえ」


 ふつう。

 不味くはない。

 タイ米みたいなやつと、マンドラゴラみたいな人参ぽいのが入っていてマトモなんだから、すごい傑作なのかも。

 偏見だけど、カレーなんか煮込んどきゃ全部一緒だろと思っている。


「この黒いのは何だろ? エグみすごいなあ」


 カレーという風味の中に、一本丸ごとワサビが混ざっているような違和感だ。形も肉団子みたいでごろっとしている。なのに食物繊維の感触もあるんだよなあ。

 スプーンでその黒い物体を掬いながら、首を傾げる。

 リラちゃんはぽっと頬をあからめた。



 ――はしる僕の中の戦慄っ!



 いや、嘘だろ。

 そんなわけ。けどこの反応は。

 ギョッと目を見開いて、その物体を凝視した。


 ところで皆は「兎」の生態をご存知だろうか。


 ぴょんぴょん跳ね、構ってくれないと寂しくて死んじゃう、あのウサギちゃんのことだ。

 実は彼ら、消化器官が悪いという欠点をもつ。

 ならどう補うか。それは彼ら特有のある行動が示していた。


「食糞」


 ウサギは、一度排泄した糞をもう一度食べ、繰り返し消化させるのである。


 汚い、と思うなかれ。

 これは生存術なのだ。

 食糞を辞めさせることは虐待と同義である。

 そしてそれは、他の生物……たとえば「ゴリラ」にも適用されるのだった。


「うほ♡」


 照れる女。

 黒い物体。

 二つの対比が、一つの答えを導いた。


 こいつの正体は……!


 混乱と狂気の歯車がガチッと噛み合い、恐怖で歯が打ち鳴らされる。

 僕は、込み上げる衝動に逆らわなかった。


「おえぇぇぇぇぇ」

「え、ちょ、っちょっと!」


 こいつ、ウ〇コ食わせやがったっ!

 菌そのものを食わせやがったっ!!


 僕はオエオエとえづくと、水をがぶ飲みして、またオエオエと吐き出した。


「メルさん水をっ」

「ん、ごきゅごきゅ……ってこれ、聖水じゃないよね?」

「……ぽっ♡」

「ぶーーーっ!!」


 ブツが、ブツが歯の間に!

 液が五臓六腑に染みてしまうぅぅぅ!

 僕は堕胎する思いで腹を殴りつけた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 すべてが信用できない。

 世界が敵になった気分だ。いや、彼女こそが敵である。

 これは断じて飯テロではない。冒涜だ。唯一神とは異なる神ならぬ、唯一絶対不可侵なはずのカレーかウンコかという領域を犯したのである。

 聖戦の火蓋が、切って落とされたのだ。


「え、あ、あのメルさん。目が、怖いんですけど」


 リラちゃん、

 褒めてあげよう。

 僕はムカついても、怒ることは少ないんだ。

 つまり特別だ。唯一無二だよ。


 それは認めてあげよう。

 それだけだけどね。


「僕はね、時には体罰が必要だと思っている派なんだ」


 あっつあつの鍋を持つと、リラちゃんににじり寄る。

 後退りするリラちゃん。

 無理だから。うしろ、木だから。あと君が何千回転生しようが、勝負になんないから。


「あ、あはははは。その、冗談ですよね?」

「心配しないで。僕は妊婦さんにも興奮できるから、さ」


 ――おら、ワールド・ウォーじゃっ!


 リラちゃんを足で押さえつけると、その口にカレー味のウンコであり、ウンコ味のカレーを流し込んでやったのだった。


 リアルポテ腹を見ながら、思う。

 正義は必ず勝つのである、と。

 ……これで僕一人じゃん。

 明日からどうしよ。




 § § §




「あ、ミサキちゃん」

「……あなた正気?」


 三日目の正午。

 ポテ腹のせいで暇な僕は、納税の帰りに岸壁ツルペタと鉢合わせしていた。


 慌ててワインを背中に隠す。

 ミサキちゃんはこれを、物凄い怪訝な目で見ていた。

 いや、これには深いワケがあるんだよ。断じてサボろうとか思ったわけじゃない。


 そう。

 さっき顔面昆虫系と名高い僕らの担任に納税しに行った時、

 偶然キレイくんと居合わせたのだ。


「どう、そっちは?」

「まあまあかな」


 そんな会話が……

 いや、素直に告白しよう。

 誰か代わりに納税を、具体的にはキレイ君が働いている。

 そう信じていたのだ。


 そんな期待を、彼は打ち砕いた。


「ボクは戦えないんだ」


 なんでっすか?

 あなた、一応学園生ですよね?


「け、怪我でもしたの?」


 キレイ君はフルフル首を横に振った。


「獣化に頼っていては強くなれないからね。いざという時以外、封印しているんだ。これも努力だよ」


 お前、マジで殺すぞ。


 いかんいかん。

 人生初、本気の本気で殺意が湧いた。

 今がいざって時だろ。

 じゃあ何か、君はこれまで修行三昧か?

 それを証明する成果いっぱい、空気いっぱいの僕らの箱。

 五日目の中間発表まで公開禁止なのに、担任は涙ながらに見せてくれた。


 だから納税などせず、最高級ワインを買ってきたのである。

 今日は仕事お休み。

 昼間から飲むぞー!


「余裕そうね。その調子だと、半分は集まっているのかしら?」

「ボチボチだよ」


 半分?

 一日分の半分ってことだよね?

 十八万を十日で割り算すると……一日で五〇〇くらいかな。

 頼む、そうだと言ってくれ。


「そっちはどうなの」

「私? そうね、あまり情報を漏らしたくないのだけれど」


 ミサキちゃんがふふっと胸を張る。

 これ聞いて欲しいやつだ。

 死ね、と思った。


「口は硬いんで、あちき」


 見よ。

 これが奴隷根性だ。

 なんて気が利くんだろう、僕。


「昨日時点で三十万は超えたわ」

「ほえっ!?」


 二日で三十万って、嘘でしょ?

 浅層を根絶やしにでもしたのか。

 どんなハイペースだよ。

 あ、カツアゲ?

 学園生同士で恐喝は御法度だぞ。


「時間帯を夜にしたの。中層で三本角のヨロイタイプに出逢えたのも幸運だったわね」

「ああ、コーカサスは五万だっけ」


 賢いなあ。

 競合相手の少ない夜に、しかも中層まで行くとは。

 寡占独占の通信事業である。

 ボロ儲けだ。


 真似したいけどなぁ。

 リラちゃんデスしちゃうし。

 リスポーンがあればやってた。

 せめて回復魔法が欲しかったぜ。


「これなら百万の大台も余裕ね……何をやっているの?」

「恵んでくだちゃい」


 ミサキちゃんは無言で僕の足をぶみっと踏んだ。


 残念。

 リラちゃんの貧弱ボディとは一線を画すので、イヤー・ブレイカーごときではノーダメージなのだ。

 あ、うそ、うそです。

 鼓膜は常人仕様なので止めてください。

 夜な夜な聞こえてくる、女の子のアレな声だけを生きがいにしているのだ。


 ……主人公くんの元カノさんだけど。

 ミカ君、寮で隣なのである。


「これはチーム同士の戦いよ。履き違えないことね」


 うーん、イケメン君ならワンチャンないかな?

 土下座で済むなら安いものだ。

 ついでにイケメン成分を財産分与してほしい。

 ドリルちゃんも四分の一くらい欲しい。


 しかし、随分順調だなあ。

 若干勘違いしている気もするけど。


「暇よね、少し付き合いなさい」


 彼女はふわりと空の住人となった。

 僕は飛べませんが?

 あわれヌコ畜生、拒否権などなかった。

 岩肌をぴょん、崖をジャンピン。


 歩くこと四半刻、僕たちは丘の上に立っていた。


「遅いわよ」


 むしって〇すぞ。


 僕はミサキちゃんの隣でへたり込む。

 運動させるな。

 体力のなさに定評があるんだぞ。


「それで、これが目的なの?」


 彼女は小川沿いに設けられた拠点を、じっと睨んでいる。

 ガン見丸である。ちなみに僕は、昔校長先生の、


「話している人を穴が開くぐらい見つめましょう」


 という説法を信じていた。

 痴漢扱いされましたけどね。

 許すまじ、給湯室のオバハン。


「まったく理解不能ね。勝つ気があるのかしら」

「英気を養っている、とか? 明日から本気出すぜみたいな」

「もう三日目よ。チーム間での融通もないようだし」


 ミサキちゃんはかぶりを振りながら、キャキャと姦しい「チーム☆アゲてけ」を見下ろしている。


 彼らの拠点は異様の一言だった。


 まず目に付くのは、効率を完全に度外視したBBQセットだ。

 ジュウジュウとお肉がいい匂いを放っている。

 次に気になるのは、カラフルなパラソルだろう。白いビーチチェアに寝そべる男――ミカ君の上に、彼女さんがまたがってマッサージしていた。

 そしてなにより、小川の流れに逆らいながら、パシャパシャと水を掛け合うビキニ姿の女の子たちは、水面で反射する光と絡み合い、目もくらむような輝きを放っていた。


 計十二名。

 ニチーム分にもなる男女が戯れている光景は、夏を肌で感じさせるものだった。



 これが殺戮の限りを尽くす、エルフ狩りの途中でさえなければ。



「もういいわ、行きましょう」


 ミサキちゃんは顎を背けると、さっさと歩き出す。

 僕は慌ててその背中を追いかけた。


「ヒュウガ君もそうだけれど、彼女には心底失望ね。内心はわからなくても、目的は同じだと思っていた。なのにこんな恋愛ごっこにうつつを抜かすだなんて」

「……」


 そうかなあ。

 宣戦布告までしたんだ。

 負けられないことは百も承知のはず。


 戦意喪失には早すぎる。

 勝算があって動いている、そう考えるべきじゃないかなあ。

 一匹で一億万キティとかいう、昭和のクイズ番組的なバカバカしい裏技以外の、すごくまっとうな方法を。


「聞いているの?」

「えっ、あ、うん。そうだね、向こうに希望を感じたとか?」


 ミサキちゃんは眉を顰めてみせた。


「冗談でしょう? このクラスで私以上に有望な人間はいないわ」


 うーん、過大評価じゃない?

 確かに優秀だよ。小技も豊富だし、知略勝負なら比肩する相手は限られる。

 でも、違うじゃん。

 君って、敗色濃厚な銃弾飛び交う塹壕戦で、


「俺、命中率百パー!」


 って威張ってたんだよ。

 根本が間違ってるんだよ。

 ……リラちゃんよりはマシだけど。

 彼女の場合、


「私はマシンガン派ですっ!」


 とか言っているようなものだし。

 ユーは何しに異世界に?


 あ、純真な男性さま用に一応解説しとくけど、銃のことじゃないからね。

 なんていうかな。女性専用の、一般男性が見ることはない、非常に高度な技術でできた、前後運動を目的とする兵器のことだ。

 ソロハンターが好んで購入するらしい。

 クリぼっち・ラストリゾートである。


「ちなみに僕は騎銃カービンらしい」


 うう、ぐすん。泣かないもん。

 乗馬用って方を信じるから。


「まあいいわ。彼らも中間発表で自分達の甘さを知るでしょう」

「それはそうかもだけど……どこに向かっているの?」


 その顔やめれ。

 そして、馬鹿なの? 的な沈黙もやめて欲しい。

 これだから頭の良い人は。

 皆が君についていけると思うな。


「忘れたのかしら。この試験は元々、他のクラスが相手。彼らが敵にならない以上元の目的に立ち返るべきよ」


 そうだったね。

 宣戦布告とか、便女カレーとかで完全に吹っ飛んでいた。


「で、だから?」

「敵情視察は戦略の基礎でしょう」


 そう言ったミサキちゃんは、薮を切り開いて光の先を見た。


 ヤヲ・イ台地に居を構えた東組と違って、南組はキャスト平野に陣を築いたと噂には聞いていた。

 騎馬戦を得意とする彼らにとって、開けた平原こそ十八番である。

 試験場からは距離があるが、地の利を生かす作戦を取ったのだろう。



 目の前の光景は、そんな予想を大きく裏切るものだった。



 数日前まで影も形もなかったはずの場所に、木の柵と土嚢の城壁が輪になって続いていた。

 その中央には、まるで天守閣のような豪華絢爛な天幕が乱立している。

 どれもが色とりどりの華で飾り立てられ、王侯貴族御用達かと見紛うほどだ。

 周囲を徘徊する学園生らしき歩哨と、ウヨウヨと行列をつくるイナゴのような汚っさんの群れが、ただただ異様としか言いようがなかった。


「なんなのよ、これっ!?」


 ミサキちゃんは、幔幕から顔を覗かせたを見て叫ぶ。

 プレイヤーから蛇の巣穴と称され、試験中堂々と春を売る、


「南組」


 の本拠地が僕たちを出迎えたのである。



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