第三章

第1話:妖精の夭逝 上

 青々と茂る樹林から、瑞々しい果実がこぼれ落ちそうになっている。心地よい葉擦れの音は、空気まで浄化している気がした。


 ああ、絶好の外出日和だね。

 君は何狩りがしたい?

 イチゴ?

 イチゴかぁ、実にイイね。


 口にいれるとじゅわっと広がる甘さと刺激、ツブツブがぷちぷちちゅんと弾けるのを想像しただけで、とっても美味しそうだよね。

 ぶどうやりんご、梨なんて変化球もあるね。

 ああ、ヨダレが垂れちゃうなあ。


 でもね。

 悪い奴にはね、そんな子供騙しじゃ満足できないんだ。


 僕は悪役貴族Tレックス。


 努力もせず、

 常に怠惰で、

 汚れた金と権力で女の子をつけ狙う、悪逆非道の大クズ野郎。


 そんな僕の獲物は女の子。

 ガールズハンターの名に恥じない、スーパー美少女じゃないと。


 ここでクイズ。

 それってどんな子だろう。


 学園のアイドル?

 天下の大女優?

 それとも大国のお姫様?


 チッチッチ、想像力が足りてないなぁ。

 ここは異世界、

 ここにはこすり倒され……というかヌキ倒されている、あの存在がいるんだから。


 分かったかい?

 さあ紳士諸君。パンツを下ろして、いざ開戦の狼煙をあげよう。

 こんがり肉に砥石、クーラードリンクは忘れずにね。


 さあ、一狩り行こうぜっ!


 僕は落ちていた石ころを蹴っとばした。


「メルさんっ! やりました。私、初めて一人で長耳族エルフを倒しましたよっ。これぞ、“L”の思し召しですっ!」


 彼女の足元には、言葉通り長耳族の死体があった。


 人間の腕ほどの細い上半身は深い緑色で、ブヨブヨと綿のような下半身は枯れたじじいのような色味をしている。

 胸から伸びる四本足と折り畳まれた二本の腕は、どれも半ばで千切り落とされている。

 その頭部には、直視すると吐きそうなイッパイおめめが嵌まっていた。


 ちぎった耳を手に、リラちゃんがぴょんぴょん跳ね回っている。


 うんうん、よく頑張ったね。

 すごいすごい。

 でもね、一個言わせてほしい。

 とても大事なことだから。




 それさ、エルフってか「蟲」だろ。




 複眼、六本足、緑の血に鎌って。

 耳長い以外、何一つあってないだろ。

 大体それ、触覚だし。


 何がエルフ狩りじゃ。

 ただの害虫駆除じゃんか。

 ふざけやがって。

 あとリラちゃん、腕もぎったの僕だから、君は死体蹴りしかしてないから


 死んだ魚の目をしながら、深いため息をつく。

 夏休みの課題、通称長耳族狩り。

 一年次で最も過酷とされる試験までの経緯を、僕は思い返すことにした。




 § § §




 僕はヒキコモリ、

 国民の三大義務を怠り、なのに人並みの権利を主張する、どこに出しても恥ずかしいゴミクズだよ。

 今日も今日とて、Tレックスしているんだ。


 ああ、そういえば。

 皆は国民の三大義務を、ちゃんと答えられるかい?


 簡単すぎたかな?

 勤労、教育、納税だよ。

 でも悲しいことにね。この頭の悪そうな、


「聖♡パコパコ学園 〜俺のラーテルは酒池肉林〜」


 とかいうえろげワールドでは、そんな常識など通用しない。

 血と暴力、そして強奪と、完全に名前勝ちしちゃってる野蛮人たちのるつぼなのである。


 つまりアレだ。

 国民の義務とは、一人でも多く殺せとかいう戦国時代のアレである。

 そして僕ことティガ君は、そんな世界の悪役の一人だったりする。


 貴いおうち出身で、領民とか使用人には嫌われていて、いいことしたらすぐ評価があがる、人生ハードなのかイージーなのかよくわからない奴なのである。


 うーん、知能指数下がりそう。

 こたつでゴロゴロしたいぜ。


 いや、仕方ない。

 僕の目的は女の子だ。マッチングアプリのしんどいバージョンだと思えば乗り切れる。


 たださ、一個問題があってさ。

 日常的な面で。


 あ、笑ったらケツバットだから。釘付きの。

 だからさ、真剣に聞いてほしいんだけど。



 僕には、友達がいないんだ。



 あれ? なんか反応が薄いな。

 もう一回言うよ。



 僕には、友達がいないんだ。



 へ? 知ってた?

 またまたぁ〜……本当なの?

 ふーん。

 なら確認してあげるから連絡先寄越せ。クレジットカードもだぞ♡

 やっぱムリ?

 ほら、やっぱりウソじゃん。

 嘘つきは泥棒の始まりだからな!


 でも、最近変化が起きたんだ。


 一人目。

 ケツから異臭を放つ、すごく不潔な子だ。ほら、挨拶しなさい。


「わかるぜ、ヒュウガの野郎は許せねえ。引き抜きなんざ卑怯モンのやることだろがっ。それも俺らの天使を!」

「とか言ってリングも移ろうとしたくせに。断られたけど」

「は、はぁ? んなわけねえし。俺は、チーム一筋だからよ」


 このゴミと言い合うのがチビカスだ。

 デブもいるけど、オロオロ言ってるだけだから省略するね。


 とにかく、こうやって肩を抱き合う友達ができたんだ。

 人間強度教に入信してたんだけど、間違いだったみたい。

 あー、友情ってサイコー。

 持つべき物は友だなぁ。


 って、おいお前。

 今唾飛ばしただろ、殺すぞ。

 食らえ、教皇スプラッシュっ! 


「ぺっ、な、何しやがるっ!?」

「これが十字軍の力だ!」


 僕はエールを追加して、もう一度教皇スプラッシュした。


「……やべえ、やっぱ頭おかしいわ」


 なんか微妙な顔になると、ススゥと手の届かない所に行く。

 残された僕は、宴会途中のテーブルにおもくそダイブした。


 あれ?

 友情は不滅では?


 なんか一瞬で消滅したんだけど。

 ジャン○め、ウソつきやがったな。

 漫画なら、ヒュルルルみたいな木枯らしがポップしている。

 残されたお酒さんも悲しそう。突っ伏したまま瓶を傾け、溺れるように流し込んだ。


 あー、げろげろ。

 お酒ってさ、一気にくるよね。

 なんて、体質的に全然酔わないんだけどね。正直ジュースの方が好き。

 ただあれだ。

 アルコールのほうが安いのだ。

 リアル・異世界やめてほしいぜ。ふぁんたじーでいいんだよ、ふぁんたじーで。


「ご主人っ、何のようだぞ……?」

「片付けて」


 ようやく来たアチョが、実に嫌そうな顔で掃除を始める。


 早くしろよ。ここ、次会議で使うから。バレたら去勢されちゃうの。

 ソファに寝っ転がると、まな板ヒス女のことを思って憂鬱になる。


 カラス女ことミサキちゃん。

 僕らポンコツ東組を率いる、やかましい女の子のことだった。

 全身真っ黒、髪まで真っ黒な彼女は、いつも喧しいけれど、ここ最近はいつも以上に喧しかった。


 それは前回の試験、ラトレネ山登頂試験に端を発したものだった。


 で、これを見てほしい。



 一位、中央 —— ☆ ☆ ☆

 二位、北  —— ☆ ☆

 三位、南  —— ☆

 四位、東 (つまり僕ら)

 五位、西


 これは前回の結果だよ。

 星マーク——通称スターは、順位に応じて贈られる勲章のようなものなんだ。


 特別な成績を残したり、直接対決に勝ったり。とにかく頑張ってお星さんをたくさん集めて、卒業時に一番多いクラスの勝ち。

 他にも色々価値はあるんだけど、今は置いておくね。


 僕たちは総合四位だった。

 平均クリアタイムで順位が決まるんだけど……そこはいっか。

 四位だったのだ。


 これが発端である。


 四位には報酬がないからね。

 最下位じゃないことに喜んだけど、下を見て生きるなと怒られた。

 意識高け。


 そういうことで、彼女はとてもプリプリしている。

 本気で喘ぐとあんなもんじゃないけど。

 反省しろ、中の人。


「本音は焦り、かな?」


 寝返りを打ちながら、僕は目を閉じる。


 ラトレネ山での試験から一ヶ月。

 つまり、入学から三ヶ月超が過ぎた。

 そしてクラスは、大体四つのグループに分断されていた。


 まず、僕らチームミサキだ。

 割と存在感のあるグループだったけれど、メンバーの一人……というか要だったんじゃないかという人物の離脱もあり、一時の勢いはもうない。

 アチョがいるから軽視はされていないけれど、実質三番手グループといえる。


 次がイケメン率いるチーム♂キラキラだ。

 名家や陽キャを集めた一軍グループで、「東組」では一番地力がある。

 ただ、イケメンくんのせいなんだろうか。地味かなぁっていうのが印象だ。


 最後が、新進気鋭にして赤丸急上昇中のグループ、「チーム☆アゲてけ」の皆さんだ。とある女の子を旗頭に、平民とか、名のない貴族をメインで活動している。粗も目立つけど、リーダーが東組の中だとかなり強い。

 トップに引っ張られてか、野心に溢れたタイプがわんさかだった。


 チームポンコツは置いとこう。

 集団行動できない奴らをひっくるめただけだし。

 なんだそれ。ここは軍学校だぞ。


 とにかく、チームミサキは他に大きな遅れをとっている。

 だから彼女は、めちゃくちゃ張り切って準備しているのだった。


「まったく、よく頑張るよ……あれ?」


 ふわわとアクビをすると、ひどく呆れたミサキちゃんの姿が。


 周りにはモブAとか、モブBとかが書類片手に慌ただしそうだ。

 のうのうとしているアチョの顔面が、僕の怒りを誘った。


 やべっコレ。

 ホントに寝てたわ。Tレックス怒り状態を隠しながら、毛繕いをする。


「いい朝のようね。顔は洗わなくていいわ」


 アチョ、お前起こせよ。

 何能天気な顔してんだ、こら。

 今イヤミ言われているの、お前のせいだぞ。

 股間もハイマットフルバーストさせちゃったし。珍長、バレた?


 僕はプライベートを把握されるのが嫌いだ。店員に挨拶でもされたら二度と行かない。コンビニでも。

 だから露出とか、本当に死ぬほどキライなのだ。


 そして彼女は、エロ漫画特有の、


「きゃっ」


 と恥ずかしがる純情乙女ではなく、


「まあ、とっても元気なのねぇ」


 と頬に手をやるオバハンでもないので、心の目で蔑んできた。

 どうしよう。次のターン、絶対零度で確殺されちゃうぞ。

 あとクソどうでもいいけど、いつも僕に向かって、


「まだカノジョ居ないの? 見えないのにねぇ」


 とか、心配風イヤミおばはんは元気かな。

 結局、娘は紹介してくれなかったし。

 うーん、やっぱりキャンプファイヤーしてよかったぜ。

 世界からまた一つ、悪が滅びたのである。


「それは良くない。ちゃんと皆に謝るべきだよ」


 僕がいつもの定位置、ミサキちゃんの真横の、聞いているのかどうなのか分かりにくそうな席に着くと、最近仲間になったある少年が立ち上がった。


 ピクリと青筋が立つ。

 僕ではない。

 モブでもない。

 ミサキちゃんのこめかみに、である。


「時間のムダよ。謝罪も必要ないわ」

「それが間違いさ。ムダなものなんてこの世に一つもない。まして礼儀や規律を蔑ろにするなんて、彼の成長を妨げている」

「成長?」


 ミサキちゃんは口を開いてから、しまったという顔をした。


「そう、成長さ! 僕たちは彼の間違いを正し、導かないといけないんだ。まず、そう。日常生活から見直そう。心配いらないよ! 僕たちも早起きするから、一緒に成長していこうっ!」


 そんな感じで、僕の更生計画を立てようとしている。


 うーん、なんだこいつ。

 それこそ時間のムダだろ。


 僕は彼のことを、綺麗事が好きな「キレイ君」と呼んでいた。

 本名は知らない。

 男なんて興味ないし。


 彼は最近チームに加わった、ぶっちゃけ役に立たない奴の一人である。僕以上に。

 無能は無能らしくヘコヘコしていればいいのに、なんか頑張る迷惑さんなのだ。

 ミサキちゃんは心底ウンザリなのか、


「……私は参加しないわよ」


 と毒づいていた。


 誰だ仲間にしたやつ。

 ……僕か、僕だったわ。

 ごめん。友達が欲しいとか、鼻くそみたいな理由で誘っちゃって。


 悪い奴ではないよ。

 礼儀、礼儀ウザいだけだ。

 朝の挨拶運動事件以来、かなり殺意があるけど。

 死ね、ボケが。


 とはいえ、彼は問題じゃない。目下僕らの問題は、大きな歯車が抜け落ちていることだ。


 昔だったら、鴉の一声でみんな右向け右だっただろう。

 でも今は、古いピアノみたいな不協和音を奏でながら会議をしている。

 それも全部、指示を理解して裏回しする人が居なくなったからだ。


 だからだろうね。

 遅刻は当たり前、出席しない奴もいる。

 薄々気づいているんだろう。上手くいってないって。


「どこに行くつもり!」

「そうだよ。話はまだ途中だよ」


 立ち上がるとミサキちゃんが怒鳴る。

 いや、早起き運動とか絶対ヤよ。


「オシッコかな?」

「ふっ、ふざけない——」


 僕は逃げ出すことにした。


 ナイス、みたいな感じでモブどもがサムズアップしている。

 なんか、はじめて真っ当に感謝されたかもしれない。芽生えた仲間意識に、ちょっと感動していた。


 あれ、元々僕のせいか?

 問題を作り、颯爽と解決する。

 それ、なんてマッチポンプ?


 人生って、何がどう作用するかわからないものだなあ。

 不思議、不可思議、うんこ製造機、まる。

 



 § § §




 唐突だけど、僕には持病がある。


 通称Tレックス症候群。

 一見悪ふざけ風だけれど、まったくもって笑い事ではなかったりする病である。


 段階的に進行するんだけどね。

 定期的に女の子とニャンニャンしないと、魂までTレックスして、最後にはリアル豚とかにズコバコしちゃう悪魔の病なのである。

 どうだ、恐れ入ったかっ!


 笑っちゃうよね。

 笑えばいいと思うよ。

 笑ったら殺すけど。


 あはは。

 冗談だよ冗談。

 でもでも、ナイーブではあるんだ。

 この世にも奇妙な、とにかく頭の悪い病のせいで、白衣の天使さまが居ないと絶望んでしまうのである。


 だが、しかし、

 しかぁしである。


 僕はモテない。

 心底モテない。

 まったく同じやり取りをした気もするけれど、


「昼は清楚で夜は淫乱。天使とサキュバスのハーフで髪は銀色、出逢いは空から降ってきて、天空の城を探している。あと絶対処女」


 などなど、童貞特有の百パー妄想な夢を抱き、貴族にもなったけれど、やっぱりまったくモテない。

 誰だ、原因は一つとか言った奴。

 全然身分関係ないぞ。


 そう、結局イケメンなのだ。


 ああ、東大とはいわない。

 有名私立も望まない。

 いま私の願いが叶うなら、偏差値がほしい。

 このおべべに、国立ぐらいに高い偏差値、つけて下さい!


 卒業式以来の熱唱である。

 翼が生えてこないように、顔面も変わらないんだけどね。


 だから考えた。

 すごくすごく考えた。

 考えに考え抜いた結果、結論した。



 ——悪役貴族らしく、脅してひどいことするかと。



 会議から逃げ出した僕は、ノリとハサミで一人図画工作をしていた。


「でけたでけた」


 ニッコニコの笑顔で大傑作を夕日にかざす。

 写真にはひどく艶かしい……というか、縞パンを脱ごうとする少女が映っていた。

 斜め下の角度から、仕切りで薄暗い個室を添えて。


 盗撮写真だ。


 顔だけ切り抜いて、誰だかわからないようにしてと。

 にしてもひどいな。

 三馬鹿に貰ったのだけれど、もっとエグい写真ありそう。

 あれから反省していないようである。


 いや、僕も同罪か。

 実行に移せば、さらなる性犯罪者へとクラスダウンである。


 ま、いっか。


 人生どうなろうが興味ないや。

 悲劇とか似合わないしね。

 僕はアンチ・シェイクスピアなのであった。


 呼び出そう。

 校舎裏にである。手紙と共に写真を投函した。

 文言はえっと、


「写真をばら撒かれたくなかったら、黙って一人でこい」


 みたいな感じで。

 うーん、すごく緊張してきたぜ。


 ああ、青春だなあ。

 えっほ、えっほと響く掛け声が懐かしい。

 全部野蛮な訓練の音なんだけどね。


 そうしていると、伸びる影の向こうから、のっしのっしとブレザーのポッケに両手を突っ込んだツインテールが来た。


 ツインテールとは言っても、アニメ調なロリではない。

 身長一七〇オーバーで超小顔の七頭身超え、ミスコンもびっくりなボンキュッボンの、超モデル体型ガールだ。顔も彫りの深いハリウッドタイプである。


 そして思った。

 ツインテール、似合ってないなと。


 美人は何でも似合うとかいうけど、全然そんなことない。

 つり目な分、ちょい雰囲気がマイルドになってるけど。


 うむ、

 ギャルである。

 自分カワイイを追求する、元祖ガンギャルである。


 思い出すは学生時代。

 ぼっち飯をしたあと教室に戻ると、ギャルが僕の席に座っている。

 次は移動教室だ。そうビクビク声を掛けると、


「何か用?」


 と、スマホぽちりながらあしらわれる。

 あれは悲しかった。何が悲しいって、可愛いから全然憎めない僕の情けなさが悲しかった。

 根っからの負け犬なのだった。


 というか、あれ?

 なんかおかしくないか。

 もっと弱々しい子だったはずだけど。


 しかし、ギャルだ。

 完全無欠の、スマホはないけど、インスタとか得意そうなギャルである。

 そして僕とか眼中になさそう。


 ま、いっか。

 今日の僕はやはり無敵だった。


「何なの、あのノエミの写真?」


 お、一人称が自分の名前だぞ。

 そしてイントネーションはギャル。

 なのに声はハリウッド系だ。

 中の人に金かけてんなぁ。


 ちなみにだけど、一人称がたくさんあるのって日本語特有らしい。

 我、儂、私、俺、僕……くさるほどあるもんなあ。

 そんないらないよ。

 朕で統一したいぜ、珍でも可。


「とあるツテがあってね。手紙は読んでもらえたかな?」


 ノエミちゃんは不機嫌そうに腕を組んだ。


「ちゃんと一人で来たっしょ。さっさとHさせろってはっきり言えば?」

「ぶっっ」


 な、なんだこの子。

 あけっぴろげ過ぎだろ。

 それともギャルってこんななの?


 うーむ、

 パパ活とか、割と一般的なのかな?

 創作で強調されすぎているせいで、ごく一部の人だけパターンだと思ってたよ。

 そもそも女の子自体がよくわかんないけど。

 無念、モテない僕。


 好都合か。

 イヤイヤ泣きながらとかだと、普通に謝ってたと思う。

 悪役貴族とか言っといて、結局小市民なのだった。


「つまりはまあ、そうなんだけど」

「認めるんだ?」

「えっと、はいそうです」


 なんで僕、脅している側なのに弱くなっているんだろう。

 これはイカン、悪役貴族の名折れである。


 とりあえずアレだ。

 服を脱がそう。

 あとは知らん。


 指をワキワキしながら、彼女に近寄ろうとした瞬間だった。


「死ねっ!」


 油断、とかではない。

 誰でもこうなる。

 だって今、脅しているんだから。

 そんな時に思いっきり、それもグーで殴り返す女の子がいるだろうか。


 だから僕は、遠慮とか微塵もない、完全無欠のスーパーマン・パンチを眺めるしかなかった。


「ぷげらっ」

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