第五話 神も知らない事実とゲイルという男

神々は老いることも死ぬこともない。即ち、神の力を宿す彼らもまた然りである。しかし、神々とそれ以外では決定的に何かが違う。そのため四柱の力は永遠ではない。何百、何千年後かに突然力は失われる。力を失った四柱の肉体は、長い年月を生きた反動には耐えられず、力を失ってから数日以内にその肉体は消滅してしまう。

神々は四柱が消滅する度に、新たな四柱を誕生させていた。しかし、時が経つにつれある問題が明るみに出る。


ある時代、また一人の守り人が使命を終え消滅した。神々は四柱の消滅の間隔が短くなっていることに気づき始めた。その中でも特に多かったのが時使いである。それにも関わらず、新たな四柱が誕生するのには百年という期間を要した。そして、時使いが存在しない時代の多くは「暗黒時代」の幕開けでもあった。


星々の争いが激化し、侵略行為も増加していた。残された守り人が駆けつけた時には、既に手遅れの状態が続いていた。未来を予測できないことによる犠牲はあまりにも大きすぎた。


そんなある時代、一人の時使いが神々に提案をした。この時代の時使いは初代時使いと同等の力を得ていた。

「神々からの譲渡が難しいようなら、私からならどうだろか」と。

神々の許しを得た彼女は行動を起こした。命に猶予がないと察知していた彼女は多くの星々を周り、次の時使いに相応しい器を持つ種族に少しずつ自身の力を分け与えた。しかし、新たな時使いが誕生する兆しがないまま、彼女はその使命を終えた。この先百年新たな「暗黒時代」が幕を開けるのかと誰もが思っていた。


十年後、事は大きく動いた。新たな時使いが誕生したのである。思いも寄らぬ時使いの出現に、誰もが疑った。しかし、見えない力の波、力の強さは彼女とよく似ていた。彼女が自身の力を分け与えた何よりの証拠である。


その後、守り人自身が後継を探すことが使命のひとつとなり、力は衰退することなく受け継がれている。しかし、時使いの寿命の短さは解決することなく、また、新たな守り人が誕生するのに十年かかることも改善されなかった。それでも神々はその方法の方が安泰だとしてそれ以降、自ら力の讓渡を行うことはなく、守り人もまた神の意見に反する事はしなかった。


そして現在、地球で起こっている異変は宇宙全体で起きていた。つまり、暗黒時代と同じ状況であり、それは時使いの不在を示していた。四柱が揃っていたのは今から5年前までである。


5年前まで、時使いとしての役目を担っていたのはゲイルという男だった。凜人に手紙を送った張本人である。彼は約500年の間、時使いとしての使命を果たし続けていた。既に時使いとしての自身の最期を知ったゲイルは、次なる器を探し始めた。


1年後、その時は突然やってきた。あまりにも早い最後だった。その時に見た未来は自身の死後の世界だった。宇宙では数多くの星が消滅し、新たに力をつけた種族がある星を占領していた。その星の生物は姿を消し、大地は荒廃していた。遺された守り人達はその光景をただ見ていることしかできなかった。

時使いの消滅によるこの未来は少なくとも回避は難しい。しかし、ゲイルにとっては到底受け入れることのできない事実である。この未来を変える手立てを持ち合わせていないゲイルは、ただ祈ることしかできなかった。そして、次の時使いに相応しい器を持つ数人に手紙を遺した。その中の誰かが必ず時使いになると信じて。


ゲイルは既に失われた故郷によく似た場所で最期を迎えようとしていた。エデル達が傍に寄り添う中、その時を待っていた。薄れゆく意識の中でゲイルは最期の未来を見た。ゲイルのこの世界への未練がその奇跡を起こしたのだろうか。ゲイルは必死にその未来をエデル達に伝えた。

「新たな時使いはこの地球に住む少年、地球滅亡後に誕生する。何としても、地球を守ってくれ」

その言葉を最期にゲイルの意識は途切れ、その肉体は消滅した。


一方、ゲイルが遺した手紙はそれぞれ次の時使い候補のもとへ散らばっていった。時使いとしての運命に導かれれば、その手紙を受け取り、ゲイルの力が残存するその場所に辿り着くことができるだろう。そしてその一人こそが新たな時使いとなるのである。


5年の歳月を経て、その場所に辿り着いた者がいた。それこそが凜人だったのだ。ゲイルが最期に見た未来にいた少年とも合致していた。


凜人の人生は大きく変わっていく。今の生活を捨て、宇宙の平和を守るという大きな役目を、今後何百年と背負っていかなければならないのだ。真実を知った今、凜人は既に時使いとしての道に歩みを進めていた。しかし、引き返す事はできない。歩み続けるしかないのだ。それが如何に残酷であるかは考えるまでもない。動揺を隠せないまま、凜人は養護施設へと帰っていった。

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