第四話 世界の真実と宇宙の始まり

数日後、凜人の部屋の窓に手紙が置かれていた。


『君にはこの世界の真実を知る権利がある。明日、君を主のもとへと案内しよう』


そう書かれた手紙の送り主はジュアだった。凜人は「主」が誰を指すのか、ジュアが誰なのかも知らない。しかし、記憶の矛盾に気づいた今、二つの事件で出会った人物ではないか、そう考えていた。この先、引き返すことができないとしても、凜人には行かないという選択肢はなかった。


翌日、近くの河川敷で凜人は川を見つめながらその時を待っていた。そして、現れたジュアの隣には見知らぬ人物が一緒だった。ジュアよりも背が大きく鋭い眼差しで凜人を見下ろしている。

「隣の方は…」

凜人はその風貌から「主」だと思い、ジュアに確認した。

「こいつはマールス。俺と同じ主に仕える1人だ」

ジュアはそう答えた。

「大丈夫。主は住まいの方で君を待っているよ」

ジュアはそう言うと、マールスに視線を送った。マールスはバツが悪そうに、謝罪した。

マールスは二つの事件現場に立ち会っていなかった。ジュアやルナ、主の話を聞いただけだったため、半信半疑だった。主の言葉を疑うことはしたくなかったが、自身の目で確かめなければ気が済まず、この最初の出会いでテストを行ったのだ。

この状況は、傍から見れば凜人とジュアが二人で会話しているように見える。マールス本人は何の細工もしていない。存在を消していても凜人が自然に会話ができれば、ジュア達の言葉の裏付けになるのだ。

「これから主の所に向かうが本当に良いのか?」

マールスは念を押すかのように凜人に聞くが、凜人の答えは変わらなかった。しかし、凜人はその本来の意味を理解していない。彼に会い、真実を知れば、今の日常に戻ることができない事に。


マールスが取り出した「転移石」を使い、彼のもとへ移動した。転移石は、遙か昔に力を得た人物が創り出した物だ。それが長い時を経て、改良されながら現在でも使われているのだ。


転移石で移動した場所は四方を海に囲まれた小さな島。地球上に存在はするが人々は島の存在自体知らない。それは、現在その力を宿す彼女によるものだ。

凜人は島の中央にそびえる大きな建物に案内された。外観や内装は白を基調とし、この世とは思えない美しさを放っている。


彼の待つ部屋へ向かっている最中、マールスは「主」と自身のことを凜人に説明していた。

主の名前はエデル、守り人の一角を担う精霊使いである。トンネル崩落事件で凜人が会話した男である。エデルの使役する精霊は7人。特に、ジュア、ルナ、マールスはその中でも特別個体である。しかし、基本的にはエデルの力を媒介しなければならない。精霊らは自らを使役するものがいなければ存在できない。


凜人は今までの疑問をマールスにぶつけた。

ー守り人とは何か

ー何故、周囲の人々と記憶が矛盾しているのか

ー一体、今地球で何が起きているのか

ーゲイル・ディマンシオンとは何者か


その答えは、凜人を待っていた彼、エデルが説明した。そしてこの話こそが世界の真実だった。


遥か昔、神々がこの宇宙を創造し、多くの星々を誕生させた。星々やそこに住まう種族は、創造した神の性格や思想が表れているかのように、特徴が分かれた。獣の要素が濃い種族や小さい姿で昆虫などと共存する種族、そして、地球のように神の姿を模した種族など。初期の頃は星々の交流も盛んに行われ、争いなど皆無だった。しかし、年月を重ねる内に地球はその輪から離れていった。交流を断絶した地球人からは宇宙に住まう種族の記憶が薄れ、いつの間にか「宇宙人」という幻の存在となっていた。この頃になると、種族特有の文化が発展し、多くの武器も作られた。土地の奪い合いも盛んになり、その中でも地球侵略を目論む星々が多かった。無知な地球人が対抗できる術を持っているとは思えないからだ。

そんな中、この宇宙を創り、盛衰を見てきた神々はこの状況を憂いていた。しかし、自らが動くことは禁忌。そこで特に影響力のある四人の神の力を、適した種族に分け与える方法を思いついた。そして、その四人に宇宙の均衡を守らせる役割を与えた。


そうして誕生したのが「四柱の守り人」と呼ばれる存在である。その1つが「精霊使い」である。精霊使いは、自らの力を媒介に精霊を召喚し、四柱では対応しきれない場合に役立っている。精霊というのは、宇宙に存在する種族の中で特に才能に秀でた者の魂が実体化したものである。使役する精霊使いが消滅すれば、その魂も同時に消滅するのだ。

2つ目の柱は「傀儡使い」。神の力を宿した守り人らはその存在を他に知られてはならない。四柱の存在は善にも悪にもなり得る。守り人の存在やそれらに関わる事柄が表に出ないよう、都合の良い記憶へと書き換える力を持つのが傀儡使いである。

広い宇宙には大地がひとつもない水だけの星、常に噴火を繰り返し大地が燃えている星などが存在する。そうした星々に適応できる力を持つのが「魔術使い」である。魔術使いは自ら水、炎、雷などを発生できるため、どんな環境でも適応できる。また、他の守り人に比べ頭脳が良く、錬金術も扱える。そのため、転移石のような他の守り人のサポートをできる物を次々と生み出すことが可能なのだ。

そして、四柱の最後の一人は「時使い」である。時使いの力は特殊であり、四柱にとってはなくてはならない存在である。時使いの力、それは未来を見通す力である。事件や災害、戦争がいつ起こるのかを詳細に読み取ることによって、早期解決または発生そのものを防ぐ事が可能になる。そうすることによってより多くの命を救い、星々の消滅を阻止しているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る