第二話 巨人の襲来と守り人との出会い
夏が本番を迎えた頃、凜人は養護施設に暮らす家族と共に隣県のキャンプ場へと来ていた。1泊2日で行われるこの行事は、養護施設恒例なのである。現在の社会情勢を考えれば中止という声も上がったが、子供達には関係のないことである。子供達にせがまれ、実施を余儀なくされたようだ。
レンタルしたマイクロバスには、子供たちの笑い声で溢れていた。運転していたのは章治、助手席には施設長が乗っていた。2人は昔の話で大いに盛り上がっていた。凜人はもう一人のスタッフと会話しながら、子供達の面倒を見ていた。
しかし、全員が揃って行われたこの行事の最終日に、事件が起こる事など誰も予想していなかった。
二日目の正午を過ぎた頃、マイクロバスは養護施設へ向けて走行していた。帰りの運転は施設長が担当し、助手席には凛人が座っていた。この時の凜人はどこか心ここにあらずといった感じで、終始その表情は暗かった。山道を登るマイクロバスは、トンネルに差し掛かった。その時、マイクロバスが上下に大きく揺れた。トンネル内で起きたため、外の様子が分からず、何が起きたか皆理解できなかった。泣き出してしまう子供達を章治は必死になだめていた。その時、更なる悲劇が凜人らを襲う。
一方、彼は使役する者らを連れ、日本のとある上空に来ていた。彼らの視線の先には移動する大きな人間。
「遅かったか」
彼はそう呟くと、その巨人の殲滅、そして崩落したトンネルに人数を分けて向かった。
上下の揺れはこの巨人の移動によるものだった。この巨人は周辺に住む人間の目にも留まり、その様子は一気に世界中に拡散されていた。
マイクロバスを襲った衝撃で気を失っていた凜人が目を覚ました。思うように身体が動かせず、何が起きたのか理解できていない様子だった。不安と恐怖でパニックになり、必死に叫んだ。
一方、章治の姿はマイクロバスから少し離れたトンネル内にあった。その後ろには数人の子供達とスタッフの姿もあった。彼らの視線の先には前方部分が瓦礫に埋まったマイクロバスの無惨な姿だった。数人の子供と施設長、凜人の姿がない。必死に名前を呼ぶが、返事はなかった。
その頃、周辺では交通、情報共に混乱していた。そんな中で巨人が突然消えたことが更なるパニックを呼び起こしていた。
車内に閉じ込められていた凜人、身動きが取れないのは、瓦礫によって押し潰された車体に下半身が挟まっているためだった。このままだと凜人の命が危ない。一刻の猶予も許されないにも関わらず、巨人の出現による混乱で、救助隊がいつ来るのか不明だった。
そんな時、彼女が車内の様子を確認しに来た。彼の使役する者の一人である。彼女は今、どんな小さい場所でも行き来できるサイズになっていた。何故か凜人はその気配を感じ、周辺を見渡していた。
「誰かいるの?」
凜人の言葉に彼女は驚いた。予想外の出来事で、慌てた彼女は凜人の目の前に飛び出してきた。その姿を見た凜人は
「こんなに小さな人間がいたんだ」
そう呟いた。彼女は凜人の前に姿を現してしまったこと、その姿をはっきり見られたことに更に驚き、慌ててその場から離れ、彼のもとに逃げるように走り去っていった。
慌てて車内から出てきた彼女は彼の肩に飛び乗った。
「ルナ、どうした?そんなに慌てて」
彼の言葉に隣にいた青年ジュアが声をかける。
「お前はいっつも慌ただしいな。少しは落ち着けよ」
いつもは何かと衝突するルナもこの時ばかりは違っていた。その態度にジュアが呆気にとられていた。
「何でもない。それより、急いで救出しないと」
ルナは凜人が認識していたことを話さなかった。今重要なのが、人命救助だと理解していたからだ。そして、彼に詳細を伝える。
「中にいたのは全部で6人。4人は、後部座席側だから怪我は大したことなさそう」
「前の状況は?」
彼の言葉にルナは少し俯いた。
「運転席にいた人は既に手遅れ。全身が押し潰されてしまっているわ。助手席の少年は奇跡的に生きている感じ」
「そうか」
彼はそう呟くと、深い溜息をついた。しかし、すぐに気を引き締め直し、凜人達の救出へと向かった。
凜人の意識は遠のきつつあった。その時、先程までの苦しさがどこかへ消えた。意識を少しだけ取り戻した凜人がゆっくり目を開けると、そこに彼の姿があった。
「誰?」
凜人の言葉に驚いた彼だったが、すぐに凜人に声をかけた。
「よく頑張ったね、もう少しだけ頑張って」
凜人は頷くと安心したのか再び目を閉じた。
トンネルの崩落事件が起きてから数週間が過ぎた。凜人はようやく会話できるまでに回復した。病院に運び込まれた時、凜人の怪我は不自然なくらい軽傷だった。担当した医師も不思議に思っていたが、それ以上は何も思わなかったようだ。その後、凜人は章治の付き添いのもと、刑事から一連の出来事について説明を受けていた。
ー巨人の出現
ーその影響でトンネルが崩落、乗車していたバスが巻き込まれたこと
ー凜人や後方に乗っていた子供たちは軽傷で済んだこ
と
そして、最後に告げられたのは、その崩落によって施設長が死亡したことだった。凜人は言葉を失い、すぐに受け止めることができない様子だった。
刑事や章治の記憶では、彼らの存在は消されている。凜人がこのことに気づくのはしばらく経ってからである。
一方、彼は仲間を招集し、巨人の襲来とそれによるトンネル崩落について報告していた。最初に確認したのは凜人についてだった 。彼はルナに事前に確認した事実について再度聞いた。
「あの時、報告しなかったのは少年に姿が見られた事で間違いないね」
その言葉にルナは頷いた。
「それは、間違いないのか?」
仲間の一人が確認する。すると彼は
「本来であれば姿の見えない私も認識していた。間違いなく、私の言葉に反応し頷いていた」
もう一人の仲間が聞く。
「怪我によるショックとかで一時的に認識できた可能性もあるんじゃないの?」
「それも一理あるな」
彼もその可能性を疑った訳ではなかった。しかし、彼らにとっては、先の見えない暗闇の中に差し込む一筋の光を見た瞬間だった。
「少年が本物かどうかは今後次第だね」
彼は期待するようにそう言った。
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