第2話 沼らせる男

2017年2月14日。


大学3年生の頃に勇気を振り絞って、天沢くんに告白した。


芹香は幸せだった。

これ以上の幸せはないと思った。


ところが春休みが1週間ほど過ぎたある日、朔也が突然、別れを切り出してきた。

冗談だと思い、連絡を入れたが返信はこなかった。


それは受け入れがたく、ただ独り、泣いた。

何日も、涙が 止まらなかった。



***


大学の授業が再開した日に、朔也を探して問い詰めた。


「それじゃあ、芹香が何か気に障るようなことしたのかな。もしそうなら、芹香直すから正直になんでも言ってよ!」


朔也は黙ったままだった。


「黙ったままじゃ 分からないよ。

 どうして、芹香を苦しめるの?」


朔也は黙ったまま、首を大きく横に振った。


「じゃあ、何でなの?

 芹香のこと、好きって言ったじゃない!」


芹香の指は、朔也の服のそでをぐっと掴んで離さなかった。


「好きだよ。だからだよ。

 芹香のことが好きで頭がいっぱいで苦しいんだ」


芹香は予想もしていなかった言葉に驚き、身体が震えた。

このとき、彼が望むことは何でもすると決めていた。

彼が興味を持ったSMプレイも 嫌だったけど、受け入れた―――。


大学を卒業後、芹香はそのまま結婚するものだと思っていた。

でも、朔也は違った。彼は完全に冷め切っていた。


「俺、ほんとはさ。貴船沙織のような顔が好きだったんだ」

「だれ?」

「ほら、高校のときに芹香とよく一緒にいた女子だよ」

「さおりん?!」


朔也に近づくために仲良くなった沙織のことなど、今のいままで忘れていた。

踏み台だったはずの彼女が、自分よりも好きだったのだと知り、芹香は落ち込んだ。


そんな時、整形手術をしたクラスメイトの女の子が、顔を変えたことで性格まで変わったと言い出した事を思い出した。その子の話を聞いているうちに私も顔をいじりたいと思った。


――私は天沢くんが好きな顔になりたい――


そう思うと、いても立ってもいられなくなった。



※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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