第5話 悩みは全部エクスプロージョン
「ドラゴン⁉ すごい、実物初めて見ました」
そのドラゴンをよく見ると、痩せてしまったのか元からなのかはわからないが、全体的に細く、体のところどころが黒くかすみ、前足についていた翼がボロボロになっていた。
「というか、なんでドラゴンがこんなところに?」
先ほど俺が、初めて見たといったが、もとよりドラゴンはこんな山の中にいるものではない。冒険者たちが行くような、過酷な環境によくいることがほとんどだ。
「おーいお前さんや。ここはもうすぐ解体される。早く逃げないと死んでしまうぞー」
ゲンジさんが、ドラゴンを起こすように声をかける。するとドラゴンは目を開き、ゆっくりと起き上がる。
「珍しいですね、人間がこんなところに来るなど」
「ほう、わしらの言葉がわかるのか」
「ええ、わかります。それよりこんなところに何をしに来たのですか? 祠の封印を解きに来たというのなら、あなたたちには死んでいただきます」
どうやらあのドラゴンは、後ろにある祠を守っている様子。
「封印なんかどうでもよい。もうすぐこの山を解体するから、逃げたほうがいいぞってことじゃ」
「解体⁉ そんなことをしてはいけません。そんなっことをしたらここに封印された最悪の悪霊が出て来てしまいます」
「んーそう言われてもな。お前さんだけでも逃げれんのか?」
「無駄です。私はこの祠とつながっており、ここから離れると封印が解かれます。もとより私はこの祠につながれているため、逃げることができません」
なんだかよくわからなくなってきたが、今このドラゴンは、なんかやばいやつの封印を守るためにここにいるらしい。
「仕方ないのう。シンリ、バフ効果はまだ残っておるか?」
「え? あっはい、まだ余裕はありそうです」
「なら、ばあさんを連れて来てくれ。全速力で連れてくるのじゃ」
「わかりました」
頼みを受けた俺は、急いで山を降る。数分で山を降りた俺は、眠そうにしているトメさんを見つけ、説明する。
「トメさん、ゲンジさんが呼んでいるので来てもらっていいですか?」
「晩御飯には早いですよじいさん」
「いやそうじゃなくて」
駄目だ、またボケ始めてしまった。
こうなったら無理やりにでも連れていくしかなさそうだ。
「どうしたんだシンリ、そんなに急いで?」
「ゲンジさんが急いで呼んできてくれとのことで」
クレハさんと話していたサナさんが、こちらに気づき、話しかける。俺は、祠のことを手短に説明し、急いで山を登り始める。
「まさか本当にそんな祠があったなんて」
「知ってるのか?」
「はい。この町の昔話で、この町に相当悪い冒険者が来て、あまりにも強く、どうにかするために祠を作って封印したって話なんですが。いくら探しても見つからなかったんで、この山ではないと思ってたんですが」
「そんなとこにシンリを行かせて大丈夫だったのか?」
「わかりません。どれだけ強いのかも、本当にそんな人が封印されているのかもわかりませんし……」
「祈るしかないか……」
「はい……、そうなってしまいます……」
「シンリ……」
トメさんを乗せた俺は、急いでゲンジさんのもとへと向かった。
祠のあった洞窟のまで到着し、トメさんを降ろす。
「シンリ、ご苦労だった」
「いえ、まだバフ効果が残ってるので大丈夫です。それより、トメさんを連れてきてどうするんですか?」
「うむ、まぁ見ておれ」
「何をするつもりです……?」
トメさんに耳打ちするゲンジさんを見て、ドラゴンが少し怯える。
「わかりました、任せてください」
トメさんが、ボケる様子なく、ドラゴンに向き合う。
「ゲンジさん、トメさんに何を言ったんですか?」
「……」
ゲンジさんは何も言わず、腕を組みドラゴンを見る。おいジジイ、さては俺を売ったな?
ドォン!
衝撃音が響く。音が鳴った方向を見ると、ドラゴンが倒れており、その上にトメさんが立っていた。
「よおしシンリ、運び出すぞ!」
「え⁉ 運び出すって……、祠につながってるからここから出れないって……」
ドォン!
祠がトメさんの一撃で破壊される。
「よおし運び出すぞ」
「バカなんですか⁉ あの祠が壊れたら、なんかやばい奴が出てくるって言ってたじゃないですか!」
「じゃから出てくる前に逃げ出すんじゃ」
そう言われた俺は、残りの力を出し切り、ドラゴンを運び出す。
「ゲンジさん! 入口が小さくてドラゴンが出れません!」
ドォン!
トメさんが入口を殴り、ドラゴンが通れるだけの大きさになる。
「よおし運び出せ!」
もう何でもありだなこの人たち。外に出るとゲンジさんとトメさんが浮かび始める。
「え、お二人とも飛べるんですか⁉」
「うむ。ドラゴンにしっかりつかまっておれ。急いで降りるぞ」
俺はドラゴンの背中にしがみつく。すると、トメさんの運転する軽トラと同じ速度で、山を降る。
「うわああああああああ」
俺は風圧に負けそうになりながら、麓に降りるまでの数秒間、必死にしがみついた。
麓につくと、俺はドラゴンから降り、座り込む。
「シンリ、大丈夫か⁉」
すると、サナさんが駆け寄ってくる。
「はい……、何とか……」
サナさんの手を借り、俺は立ち上がる。
「すごい、本当にドラゴンが……」
遅れてやってきたクレハさんが、気絶しているドラゴンを見て驚く。
「お前さんら。少し危ないから離れておれ」
ゲンジさんが、浮かびながら俺たちに警告する。よく見ると、浮かぶゲンジさんの遥か上に、トメさんが浮かんでいた。
すると地震が起こり始め、山から黒いオーラがあふれ出し、声が聞こえる。
『ふはははは! 封印がようやく解けた! よくも我を封印してくれたな人間ども! 貴様らには死を超える絶望をぴゃあああああ』
封印されていた誰かが、最後までセリフを言いきれず、山ごと消し飛んだ。辺りには土や木くずが舞い、この光景を見ていた俺とサナさんたちは、あまりの光景に動くことができず、土や木くずを正面から受けた。
空からトメさんが下りてくる。俺はトメさんの力を目の当たりにして、冷や汗を流す。なんでこんなやばい人の監視役に……。
「大丈夫ですか?」
トメさんが声をかけてくる。俺はその言葉にハッとなり、口の中がじゃりじゃりしていることに気づく。
「ごほっごほっ! はい、大丈夫です……。ゲホゲホ」
水をもらい、口の中をゆすぐ。口の中がすっきりした後、山のほうを見てみると、そこに山はなく、端っこのほうが少し残っているだけの状態だった。
さすがに、封印されていた人に同情する。多分、本当に強い人だったんだろうが、さすがに破壊神相手にはどうにもならなかったらしい。一目見てみたかったな。
「それじゃあ、わしらができるのはこんなもんじゃろう。あとは任せてよいか?」
「あ、はい! わざわざ遠くからありがとうございました! あの……。それはいいんですが、このドラゴンはどうしましょう?」
クレハさんが、気絶しているドラゴンにそっと目をやる。
「ああ、そいつらはわしらが預かる」
すると、ゲンジさんがそんなことを言い出す。
「え⁉ ちょっと待ってくださいよ! どうやって持ち帰るつもりなんですか⁉」
「うむ。自力で飛んできてもらうか、小さくしてトラックに乗せるか、わしらが運ぶかじゃ」
「小さくする……?」
するとゲンジさんが、ドラゴンの顔の前まで行き、ドラゴンを起こそうと声をかけ始めた。
「おーい。起きておるかー?」
何回か呼びかけ、顔をぺちぺちする。
「うう……。はっ!」
するとドラゴンが起き上がり、あたりを見回す。起き上がったドラゴンは、建物二階ほどの大きさで、俺たちはその姿に圧巻された。
「ここは……。まさか私を外に連れ出したのですか⁉ そんなことをしたら封印が!」
そういいながらあたりを見回すドラゴン。すると、もともと山があった場所を見て動きが止まる。
「あれ……。私がいた山はどこへ?」
そういわれた俺たちは、全員揃ってドラゴンが見ている、山があった場所に指をさす。
「えっ。あの……。封印されていた者は?」
「顔を見ることなく消し飛びました」
「……え?」
俺の言葉に、ドラゴンが青い顔をする。気持ちはわかる。今まで守ってきたものが、急に来た老人に気絶させられ、目が覚めたら山ごと無くなっている。混乱しないわけがない。
「それでは……。私はこれからどうすれば?」
「わしらのとこへ来るといい。ところでお前さん、空は飛べるか? もしくは小さくなれるとありがたいんじゃが」
それを聞いたドラゴンは、自分の翼を広がて飛ぼうとするが、ふらついている。そりゃそうだ。長い間洞窟に閉じ込められて、飛ぶことなんて一切ないだろう。その姿を見て、ゲンジさんが話しかける。
「難しそうじゃの。では小さくなることはできるか?」
「小さく……。小さくなることは難しいですが、あなたたちと同じ姿にはなれるかもしれません」
「どういうことじゃ?」
「私は長い間、あの中に封印されている人間と祠を通して繋がっている状態でした。ですから、その者と同じような姿になれるかと」
なんかすごい話が進んでいる。だが、俺たちが口をはさんでもどうにもならないので、静かに事の成り行きを見守る。するとドラゴンの周りに、不思議なオーラがあふれだした。
次の瞬間ドラゴンが光りだす。ドラゴンは次第に小さくなっていき、人型のサイズになっていくのが見えた。
光がやむとそこには、髪が足元まで伸びた、裸の女性がいた。
「こんな感じになります」
女性はゆっくりと目を開く。宝石のようにきれいな黄色い目でこちらを見てくる。その瞳に、思わず惚れ込みそうになった。
「あら~。めんこい子やねぇ」
トメさんが、何故か俺のほうを見ながらそう言う。なんでこっちを見るんだやめろぉ!
「それがお前さんの封印しとった者の姿か?」
ドラゴンは、自分の体を見て不思議そうな様子を浮かべる。
「おかしいですね。本来ならもっと大きな男の方でしたが……。なんででしょう?」
多分、このドラゴンの見た目や性別が優先されたんだろう。多分。
改めて人間になった姿を見てみると、白かったであろう髪は黒く汚れ、体もボロボロの状態だった。
「とりあえずこれを着てくれ。その姿だといろいろまずいからな」
サナさんが、カバンから着替えを取り出し、ドラゴンに渡す。
「ありがとうございます」
「こっちで着替えよう」
サナさんがドラゴンをトラックの陰に隠す。目のやり場に困っていたのでありがたい。
「それじゃああの娘が着替え終わったら帰るとするかのう」
「そうですね。それよりトラックあのままでいいんですか?」
俺は、黒く変色しだしているトラックを指さす。
「まぁ別に。帰りも轢き殺すわけじゃし、別にいいじゃろ」
どうしてそういうこと言っちゃうかなぁ……。
「お待たせしました」
トラックの陰から、着替えたドラゴンが出てくる。サナさんの服では少し大きかったようで、ちょっとダボダボだった。
なんというか……。かわいい。
「あら~?」
「何ですかトメさん……」
「あらあら~?」
「やめてください……」
「おーい、そろそろ帰るぞー」
ゲンジさんのおかげで、どうにかトメさんを振り払うことができた。
「本日はありがとうございました。サナさんも、またどこかで会いましょう」
クレハさんに見送られ、車を出すトメさん。行きと同じスピードで突っ走り、またモンスターたちを吹っ飛ばしながら、道を駆け抜ける。荷台に座っている俺たちは、ドラゴンにいろいろと話を聞いていた。
「ところで、名前とかってないんですか?」
「私に名前はありません。生まれた時からあの祠に縛り付けられ、あまり人とも会わずに生きてきましたから、私を呼ぶ者はいませんでした」
「そうか……、なら名前を決めないとな」
「そうですね、ドラゴンって呼ぶわけにもいきませんし」
「名前……、ですか?」
サナさんの提案に、名前を考え出す俺たち。
「あの、名前がなくても、私は大丈夫ですから」
「そうはいきませんよ。これから一緒に暮らすんですから」
「一緒に……、暮らす……」
俺の言葉を聞いたドラゴンが、顔を赤くして嬉しそうにはにかむ。
「うーん……。ノアとかどう?」
「ノア……。いい名前ですね」
「そうだな。ちなみ何故ノアなんだ?」
「いえ……。なんとなくで……」
「これから一緒に住む仲間の名前を、なんとなくで決めるのはどうかと思うぞシンリ……」
「すいません……」
「大丈夫ですよ。私は気に入りました」
名前を気に入ってくれたノアが、そっと微笑む。
「気に入ってくれたなら何よりです」
俺は少し嬉しくなりながら、言葉を返す。
「なんじゃ? 名前が決まったのか?」
すると、助手席に座っていたゲンジさんが、後ろの窓を開け、話に入る。
「はい。ノアという名前をつけてもらいました」
「ほうほう。いい名前じゃのう。ばあさんや、この子の名前はノアになったそうじゃ」
「コアですか。いい名前ですねぇ」
「コじゃなくてノじゃ。ノアじゃ」
いつものようなボケっぷりを披露しながらも、運転を止めないトメさん。行きに轢いたモンスターの死骸を轢きながら、また新たなモンスターを弾き飛ばす。顔色一つ変えずに轢き殺すトメさんに改めて恐怖を実感した。
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