🔳エピローグ
こうして俺と都子の特別な一か月は終わり、俺たちはまた幼馴染に戻った。
神社での出来事から翌日。
今日から都子と登校する約束をしていたので、あいつの家に立ち寄った。
ピンポーン。
インターホンを押すとすぐに玄関のドアが開いて都子が出てくる。
「おはよう……み、都子」
緊張から少しどもってしまった。
うーん。心の中ではいつも呼んでたんだけどなぁ。
やっぱり声に出すと全然違う。
「お、おはよう……ハルくん」
ぽしゅん。
都子の顔がリンゴのように真っ赤になっている。
気持ちはわかるぞ、都子。
呼び方が昔に戻っただけなんだけどな……なんかすげーハズい。
ふたりして照れてしまっている俺たち。
我ながらなんだ、この光景は。
「おんやぁ? こんな朝早く誰かと思えば悠人くんじゃない」
「うおっ。びっくりした」
そのとき、都子の後ろからぬっと人影が現れた。都子の母――おばちゃんだった。本当に神出鬼没な人である。
「おっはよ~。もしかして一緒に学校行くのかな?」
「うん、今日からそうしようって約束してて」
「ははーん。なるなる。だからミヤちゃん朝からずっとそわそわしてたんだねぇ」
「え? そうだったの?」
「お母さん」
釘を刺すように冷ややかに都子が呼びかける。
「なんかね、しきりに鏡を気にして――あらら?」
「お母さんっ。洗濯物干してる途中だったでしょ。早く家事に戻って」
「じゃあ気を付けていってらっしゃいね~」
都子がおばちゃんの背中を押して家の中へと消えていった。
なんかいつか見た光景だな……。
すぐに戻ってきた都子がこほんとひとつ咳払いをする。
「それじゃ行きましょうか」
「あ。そうだ」
少し歩いたところでふと思い出す。
「どうかしたの?」
「そう言えば咲が早速プレゼントのシュシュつけてたよ。学校で自慢するんだって」
「ええ。知ってるわ。さっきラインあったもの」
鞄から取り出したスマホでメッセージ履歴を見せてくれる。
そこには自撮りでポーズを決めている俺の妹写っていた。
そして、都子はそれを待ち受け画面に設定していた。
「かわいい」
うっとりと目を細めてぽつりと呟く。
都子のやつめ、どんだけうちの妹好きなんだよ。
学校前の大通りへと出た。登校時間なので同じ高校の生徒は多い。周りから注目されているのがわかった。公開告白の件もあって都子は学校ではちょっとした有名人だ。それがいきなりよくわからない男子と一緒に登校しているのだ、無理もないだろう。
たぶん噂になるんだろうなぁ……。
視線がむず痒い。
でも一緒に登校すると約束したときからこのくらいは覚悟していた。
「やっほー。おふたりさん」
少し緊張しながら歩いていると楓の声が後ろから聞えてきた。周りが様子を窺ってる中、遠慮なく俺たちに駆け寄ってくる。
「どうやらその様子だと無事仲直りしたみたいだね」
「まあ……そういうことになるな」
「霧島くんのおかげね」
おかげ……?
そう言えば楓から昔の話を聞いたって言ってたっけ。
俺も相談に乗ってもらっただし今度ラーメンでも驕ることにしよう。
楓が悪戯な笑みを浮かべる。
「ぬっふっふ。じゃあさ~、ふたりは付き合ってるってことでいいのかな?」
なんかとんでもないことを言ってきた。
「「な――っ(……っ)」」
俺は言葉に詰まった。
都子も同じように驚いた様子だ。
「な、ななな、なんでそんなことになるんだよ!」
「またまた~。そんな隠さなくてもいいじゃーん」
「隠してるとかじゃないから! ただ幼馴染に戻っただけだっての! な、都子?」
「……っ」
俺の言葉にこくこくと頷いてる。
「………………え? 本気で言ってる?」
「それは俺のセリフだわっ!」
「柊さんもそれでいいの?」
「だ、だって幼馴染ってそういうものでしょう?」
俺たちの反応がお気に召さなかったのか、楓が呆れたように大きくため息をつく。
「ふたりして鈍感と言うかなんと言うか……ある意味お似合いだよねぇ。まあいいや。たぶんこれから大変だけどがんばってね~」
そう言うと楓は先に行ってしまった。
「まったく。誰が鈍感だっての、失礼なやつめ」
「これから大変ってどういうことかしら?」
ふたりで首を傾げる。
大変、ね……。
まあ、もし何か問題が起きたとしても心配ない。
俺が視線を送ると、それに気付いた都子が微笑む。
俺たちならまた乗り越えられるはずだ。
だって俺たちは幼馴染なのだから。
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