🔳13話

 昼休み、今日も都子と空き部室へと来ていた。

 最近は午後の授業が始まる十分前くらいまではここに残ってお互い思いおもいの時間を過ごし、目立たないように別れて教室に帰るようにしている。

 何とはなしにSNSを眺めていた俺のスマホに楓からのラインメッセージが届く。

『ハルトーヘルプ! どこいるのー!?』

 かわいいクマが慌ててるスタンプが追加で貼られる。

「おお? なんだなんだ?」

「どうかしたの?」

 部室に残されていた落語研究会の季刊誌を読んでいた都子が顔を上げる。

「なんか友達が俺のこと探してるっぽい。教室戻った方がいいかも。柊さんはどうする?」

「そうね……私はもう少しここでゆっくりしていくわ」

「そっか。じゃあ悪いけど先に行くね」

 そう告げてから俺は教室へと急いだ。


「あーハルト。いたいた!」

 廊下の先で俺を見つけた楓が手を振ってきた。

「悪い、遅くなった。それでどうかしたのか?」

「実は次の時間体育なんだけどジャージ忘れちゃってさ。貸して?」

「は? それだけ?」

 もっと緊急な用事かと思っていたので拍子抜けしてしまう。

「そんなの俺じゃなくてもいいだろ。お前、友達多いんだからさ」

「うーん。それはそうなんだけどジャージ借りれるような仲なのはハルトくらいだからさ」

「楓……」

 俺のことをそこまで信頼してくれてるってことか。

 そう言われてしまうと悪い気はしないな。

「だってジャージ汚しちゃったりしたら悪いじゃん? その点ハルトのなら最悪破れてもいいかなと思って」

「いや、よくねーよ」

 楓が「冗談だってば~」とからから笑っている。

 ホントにこいつは俺の唯一の友達か? 

 ちょっと不安になってきたわ。

 俺は大きくため息をつきながらロッカーにあったジャージを取ってきた。

「ほらよ」

「ありがと。そう言えばどこ行ってたの?」

「どこって……別にメシ食ってただぞ」

「さっき教室覗いたけど柊さんの姿も見えないよね。もしかして~」

「お前な……」

 いたずらな笑みを浮かべている。楓はこんな感じでわかっていて敢えて訊いてくることがある。

 まあこいつなら変に吹聴して都子に迷惑をかけることもないだろう。

 それにちょっと相談したいこともある。

 俺はここまでの経緯を話すことにした。

「――なるほどね。じゃあふたりは仲直りしたってことでしょ。よかったじゃん」

「いや、だからさっきも言っただろ。まだ微妙なんだって……」

「なんで? 一緒にお昼ご飯食べて、一緒に帰って、家にも遊びに来たんでしょ。それってボクから見たらただの幼馴染だと思うけどね、それも仲の良い」

「それはその、都――じゃなくて柊さんが合わせてくれてるだけで――」

「え~~~~。いくら一か月の期限付きだからって大嫌いな相手にそこまで合わせるかなぁ。ボクなら秒でうげげ~って感じだけど」

「それは……」

 俺は言葉に詰まってしまう。

 たしかに楓の言ってることは俺にとって“そうであってほしい”ものだ。

 ただ、都子が変わってしまった原因を作った俺はその希望的観測を鵜呑みにすることができなかった。

「と、とにかくさ。俺は柊さんと幼馴染に戻らなきゃならないんだよ。でも具体的にどうしたらいいかわからないと言うかゴールが見えないと言うか……」

「んー。どうしたらって言われてもなぁ。これはボクの意見なんだけど」

 そう前置きしてから楓がから続ける。


「この問題はハルトの中に答えがあると思うけどね」


 は――……?

 キーンコーンカーンコーン。

 そのとき予鈴が鳴った。

「やば早く着替えなきゃ。それじゃジャージありがとね~」

「え? あ、ああ……」

 慌てて去っていく楓の背中を見送った。

 何か良いアドバイスがもらえるかと思って相談したのだが返ってきた言葉は予想していたものとは全く違っていた。

 俺の中に答え……?

 何かのなぞなぞか?

 わけわかんねー。

「涼川くん」

 不意に背後から声をかけられ、弾かれるようにして振り返る。

「柊さん!? いつからそこに?」

「……? たった今だけど」

「そ、そうなんだ……」

それなら俺が楓に相談しているところは見られてないな。

「お友達と話している姿が見えたけど大丈夫だったの?」

「え? ああ。うん。なんか忘れ物したってだけだった」

「そう。大したことじゃなくてよかったわね」

 それだけ確認してから都子は教室へと入って行こうとする。しかし、その途中で立ち止まり、肩越しに振り返りながら付け足した。


「そういえば今日、また涼川くんのお家に行くことになったから」

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