床板を剥がしたら
夕日ゆうや
語り部
「ここもダメだ。床板から変えないと」
311。
東日本大震災の爪痕が残るとある日。
俺はボランティアで家の掃除を行っていた。
床板を剥がしたら、そこにはヘドロが溜まっている。
日を置いて臭くなるヘドロ。それに固まっていき、黒ずんだ層になっている。
これを全部取り除かなければ、安心できる生活は訪れない。
ヘドロを集めて、処理場へ持っていく。
そんなボランティアを続けて二ヶ月。
未だにヘドロは取り除けていない。
床板を剥がさずにヘドロを取り除くこともある。
頑張っても頑張っても終わりは見えない。
流された方が楽だったんじゃないか? という不謹慎な考えが浮かぶ。
とある歯医者さんの跡地。
ボロボロになった内装にはガラス片や壁材が倒れていたりする。
俺たちは慎重に中に入り、塵となったヘドロが舞う。
身体にはよくない塵だろう。
それでも俺たちがいなければ、住民は困る。
捨てるためのものをかき集めて分類、処理場へ持っていく。
重くなった袋二つを抱えて。片方5キロはあるだろう。
2023年2月。
未だに被災者の傷は癒えない。
一度遭った恐怖体験は忘れることのできない傷跡として残っている。
沢山の人が死んだ。
何も感じない人などいないはずだ。
命は力。人を、世界を支えている力だ。それをこうも簡単に失うことはひどいことなのだ。
それを分かってもらいたい。
だから、俺はそのために生きている。
被災者の気持ちを届けるために。
語り部になる。
俺のアパートも被害に遭ったのだから――。
床板を剥がしたら 夕日ゆうや @PT03wing
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