第9話 おつかいと仕事

ヲーリア騎士がそのドアをあける。そこが眩しいシャンデリアと火のついてない暖炉などが配置されていて、特にベッドが二つある部屋だとわかる。

「これはどうゆうこと?」

ソフィが怒るのは当たり前だ。それに俺もこんな女と同じところで寝るなんて嫌すぎる。

「い、いえ、客室はここしか空いてないんです。」

騎士は動揺しているようだ。ここに俺たちを連れてくるときにもなんかそわそわしてるとおもったら、こういうことだった。

「じゃあ私は宿をとるわ。」

ドスンドスンと音を立てるかのように、その場を離れていくソフィ。

「も、もう城の門は締まってますよ!」

その言葉が放たれると、ソフィは騎士をぎらりとみつめてこっちに戻ってきた。

騎士の目の前にまでくると、その騎士をさらにらみ、部屋の中に入っていった。それはすごい形相で。

「ででで、では失礼します!」

騎士は後ずさりをしながら逃げるように去っていった。

「俺もお前と同じ部屋は嫌だからな。」

小声で言ったはずだったのに、にぎりつぶされるような気を感じた。

これがミアらが玉座から出てきて、飯を食った後、俺の置かれた状況の理由だ。


夜はすごく静かでお祭り騒ぎしているわけでもなく、召使たちがせわしなく走り回っているわけでもない。

いつも遠くからみていた城がこんな風になっているなんてことは実際ここにきてからわかった。

城は豪邸とは違うのだと。

「ねえ」

ベッドで真っ白な天井を見ていると、ソフィにさっきとは違った冷めた声をかけられた。

「なんだよ。」

ふてくされたような態度でシユウはソフィのほうをみる。髪を下したソフィが鏡の前に立っていた。

「あなたはなんでここにいるの?」

鏡の前に椅子を運びながら、ソフィはあっさりと聞く。

シユウは頬を赤らめ、窓のほうに顔を向けた。

「俺が聞きたいくらいだ。」

「は?」

この窓から見える景色には、城の二階なのに都の全体がおさまる。山の向こうはさすがにみることはできないが、4階まで行けばわかるのだろうか。

「今日の朝にあの集落を出ただろ、馬車に乗って村に戻ろうとしたんだ。」

シユウが説明を始めると、首をかしげるソフィが鏡にうつる。

「馬車に乗るお金なんてあったの?」

「そこはどうでもいいだろ。」

実際には隠れて乗ったんだけど、そんなの言えるか。

むっとしたシユウが窓にうつる。

「しばらく馬車の中にもぐっていたら、いきなり馬車が止まって男の声が聞こえた。」

一瞬手を止めるソフィ。

「外をのぞくとそこには斧を持った男がふたり、たおれたおじさんの近くに立っていたんだ。」

再び手を動かす。

「それを見ていたらすぐにこっちのほうへ歩いてきたから、俺は馬車の下に隠れることにした。」

正直、ほんとについてないと思った。おれだってヲーリア街道が安全な方だって知ってたし、ましてや馬車が止まるなんてことありえなかった。

「で、無事に隠れきったの?」

ソフィはシユウのほうを少しじっと見た。

顎に手を当てていたシユウはビクッとしたあと、話をつづけた。

「荷台の中に入って物を漁る野盗の笑い声がよく聞こえたな。一通り漁った後、そいつらは逃げていこうとしたっぽいが…」

「ん?」

ため息をつくシユウ。

「うるさかった野郎どもの声が消えたと思って表に出たら、白い騎士たちとロウエルがいて、野郎どもはたおれてた。」

ソフィは椅子をもとの位置に運んだ。

「ロウエルって司祭でしょ、そんなのがなんでいるのよ?」

ゆっくりと歩いてベットの隣にあるベットに座る。

頬を赤らめて目を外に向ける。

「ロアマトの予知ってなんなの?」

シユウはしばらく遠くをみつめたあと答えた。

「あいつの予知の中には、ある魔剣をもった奴がでてくるんだ。あいつらはその魔剣を探してる。」

少しの間、ほんのわずかに都の濃い声が聞こえたような気がした。

「そう…」

その後ソフィはシユウに部屋の明かりを消すように指示し、文句を言いながらもシユウは明かりを消した。


なんか変声っぽい声がする、なんだ…?。まぁいいか、もう少し寝よう。

「起きろ!」

耳元で大きな声を出すな。

それをくらっても寝ようとすると、耳に衝撃波が飛んできた。

「いつまで寝ているの?王が呼んでいるのよ。」

しかめっつらで天井がみえない。

ミアはもっとやさしく起こしてくれたというのになんだこの女は。べつに起こしてほしいと頼んだわけでもないし、王のことなんて知るか。

真顔でゆっくりと立つ。そして背伸びしながらおおきなあくびをする。

「いまなんじだ?」

鏡の前に立つソフィを横目にみる。

「時計も読めなくなったの?」

8時33分。結構寝たな。てか、王はもう起きてんのか。

「9時ごろには玉座の間に来いって言っていたわよ。」

「あ、そう…。」

旅人だからかわからないが、せわしなく支度をするソフィに疑問を感じながらも机の上に置かれたパンを食べて水を飲む。

その後くらいに小さい騎士がドアをたたき、ソフィと玉座に向かった。

ちなみにここの水はうまかった。


夜とは違って、玉座の間はかなり眩しい。

すでに王は座っており、じいさんは立っており、ミアとロウエルらも王らと話していた。

「待たしたかしら。」

「いえ、今来たところです。」

ソフィとシユウが玉座の前まで来ると、王は改めて話し始めた。

「すまないな、こんな早朝に。ロアマトの件と他にも話があるのだ。」

てか俺はもう関係ない気がするのだが。

「ロアマト教会は、矢のような魔剣を持った男を探しているときいた。ステイト大陸では、その男の捜索をすることを約束しよう。」

この世界にある大陸のうちの一つを統治する国が、新たに協力してくれるようになったのか。

教会本部の大陸であるマルケスは、すでに探しているはずだから、あとレイロンド大陸の一つか。

「そしてレイロンド大陸への船だが…まだ出航できないらしい。天候がすぐれるまでは城の客室を貸そう。」

ロウエルはにやりとした。

「そしてもう一つ、これはソフィに対してだ。」

「私?」

やっぱり俺関係ないよな。もしかして俺もレイロンド行きか?。

「三日前、南西にある洞窟がマックス山賊団の基地であると判明して、騎士らに向かわせた。しかし二日経っても帰ってこないため、新たに騎士らを行かせたが、それも朝になっても帰ってこなかった。」

山賊団の基地がある割には他に比べて平和なほうだよな。灯台下暗し的な感じか。恐ろしいことを考えるもんだ。

「昨日、南西門で準備してましたね。」

「ええ、見たわ。」

あらたまるように咳をする王。

「ソフィ殿、南西の洞窟に向かい、様子を見てきてはくれぬか?」

たしかにソフィは腕が立つ剣士でもあるが、いくら何でも無茶だろ。何考えてんだこのおっさんは。

「なんで私なのでしょうか?」

王は玉座から立つとソフィの前に下りて行った。

「たのむ、今現在騎兵が十分ではないのだ。」

あきれた様子で、王を鋭い目で見るソフィ。

「わかったわよ、でも報酬は弾みなさいよね。」

王はソフィに背中を向け、玉座に座りなおした。

「では話は以上だ、下がってよいぞ。」

なんで俺は呼ばれたんだと疑問を抱きながら戻ろうとすると、王の隣に立っていたじいさんが俺の肩をたたいた。

「これを都にいるジローに届けとくれ。」

じいさんが手に持っているのは長方形の箱だ。和菓子でも入ってんのか。

「なんで俺が?」

じいさんはにっこりとした顔を俺に見せつけてきた。

「報酬ならジローがよこしてくれるぞい、結構すごいのをな。」

納得はいってないが、なんとなく引き受けることにした。

「どこにいるんだ?」

「北通りの武器屋にいる白髪のじいさんじゃよ。目立つだろうからすぐわかるぞい。」

「あいよ。」

なんか怪しいんだよな、あのじいさん。まぁいいか。

玉座の間を出ると、扉の前には結構な人が並んでいた。


南西門には騎士三名がソフィが話し合っている。そこにいる騎士らがみんなソフィのほうを向いて話しているから、ソフィが指揮官なんだろう。

シユウは離れたところで、指示だしや提案をしているソフィの横顔を突っ立って見ていた。

彼が門の真ん中でずっと立ているから、旅人などはむっとしながらその横を通っていった。

「なんであんたがいるのよ。」

話を一通り終わったようで、ソフィが俺の方に走ってきて俺が思っていることを代弁してくれた。

「まさかついてくる気?」

馬鹿にしやがって。俺がお前のそばにいるのが、どれだけ嫌かわかっているくせに。だからここに来たくなかったんだ。

「ちげえよ、見送りにきたんだよ。」

シユウは目線をそらす。騎士三名の装備はそれほど重厚には見えない。

「なにそれ、心配しているの?」

嫌な顔をするソフィに俺はため息をついた。

「ミアが外でれないから代わりに来たんだよ。」

ミアが行って来いって何度も言ってきて仕方なく。ロウエルとヲーリア王のせいだからな。

「そんなことだと思っていたわ。」

あきれながらソフィは、ポーチの中から押し花のしおりを取り出して見せてきた。

「なんだこれ、いらねえよ。」

挟まれているのは鮮やかな紫色の花だ。

「本でも読んでなさいって意味よ、ミアに渡しておいて。」

俺がそのしおりを受け取るとソフィは騎士たちに一声かけて門の外に出て行った。

生きて帰って来いよとか言ってやろうとおもったが、ソフィの背中をみてたらそんな言葉は出なかった。

「てか、自分で渡せよな。」

またおつかいだ。というかじいさんに頼まれたおつかいもしなきゃいけないじゃねえか。

俺をなんだと思ってやがる。

シユウは商店街の通りの方を、そのしおりを見ながらむっとして歩いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る