第8話 再会

大きな壁についている柵の扉をくぐる。するとその奥にはものすごい大きな壁があり、大きい両開きの扉がついているのがわかった。

ヲーリアの都市は円の壁がまわりを囲んで、入り口にはさらにちいさい壁が囲っている構造である。

「本に書いてあった通りだ!」

「たしかに珍しいかもしれないわね、他の都市は二重の門ではなかったわね。」

「そうです、世界有数の二重の門!」

目を輝かせて元気になったミアをみるとソフィは伸びをした。

「扉ばっかり見ていたら他の場所に行く時間なくなるわよ」

「そ、そうですね」

こっちを向いたソフィの左手は剣の鞘を手で触れていなかった。

馬車が通った後、何人かの鎧を着た人たちが内門から出てくると外壁の角のほうに行った。

そこには鎧を着た人がたくさんいて、少し派手な鎧を着たおじさんがその人たちに大きな声を出している。

「なにかの任務でしょうか?」

「あの人数だと山賊退治とかかしら。」

じっとその人たちをみるミア。その中にはミアと同じくらいの年齢の男の子もいた。

怖くないのかな。

「行くわよ。」

「は、はい」

ソフィの少し強めの声で足を動かした。


内門をくぐるとさっきよりも全然大きな城がむこうにそびえたっていた。

これだけ歩いたのにお城まで行くのにはまだ歩かないといけないの…。

肩を下げるミア。

「残念だけどお城にはあとで行くわよ。」

「べ、べつに残念じゃないですよ!」

そういえばヲーリアに来た理由はロウエルたちと合流するためでした。でもどうやって合流すればいいんでしょう。ソフィは預けるっていってたけどだれに?王様?

「あ、あのこれからどうするんですか?」

「最終的には城に行くけど、その前にせっかくだから散策でもしない?」

「散策!…じゃなくてお城に行くって教会じゃないんですか?」

ソフィは目をそらした。

「この町に来たのはあなたを保護してもらうためなの。」

「でも別に王様じゃなくても…」

「そんなに坂が上る嫌なの?」

「いえ、そうではないですが。」

ソフィが顔をしかめるとミアが下を向く、それに気づいたソフィは頭を横に振った。

「あなたが教会に行きたいならそれでもいいわよ。」

それでもミアの方を見ず嫌そうな顔をするソフィ。

教会に何か嫌なものでもあるのかな。ここまで迷惑かけてるしお城に行ったほうがいいのかな。

「お、お城がいいです!」

「そう…」

ミアの元気な声に対してソフィの声は小さい。

それに対してミアはまた元気に話しかける。

「ソフィはヲーリアに行ったことがあるんですよね、おすすめの場所に連れて行ってくださいよ!」

またソフィは頭を横に振ると胸を張った。

「はぐれないようについてきなさいよ!」

ミアは少しはやく歩く。


王都ヲーリアはその名の通り王政であるが、民の意見をよく取り入れている。そのおかげもあってか、街は活気にあふれている。

都の構造は南西、北東、北の三つに門があり、大きな壁が街を囲っており、道路は門のほうから都の中心にある広場につながり、そこで三つの道路は交わっている。

南西の大通りにある露店は、果物や肉、魚などの食料品が多いが、珍しい武器やアクセサリーなども並んでいる。これはもともと農業が盛んなヲーリアであるが、交易も活発に行われているためにさまざまなものが手に入るからである。

また、北東の大通りには料理店、服屋、宝石屋などの少しおしゃれなお店が連なり、北の大通りは武器屋、道具屋、酒場などの働く人がよく通る場所になっている。

街の真ん中にある広場は大きな宿屋、教会、銀行、城門に囲まれ、中心には豪華な噴水がある。この噴水は魔術によって動いている仕組みである。

住民が住むところは店の並ぶ大通りの裏にあり、井戸もその周辺に作られている。

店の数はかなり多いのがヲーリア一番の特徴である、すべてをまわるのには一日中かかるだろう。

「ってラピッドの放浪記に書いてあったけど、本当でしたね!」

「そ、そうね。」

夕暮れの下の広場のベンチにソフィがゆっくり座る。

「座ってどうしたんですか?」

ミアはポカンとする。

「疲れたのよ。」

ミアはにやにやするとそこに座った。


鐘の大きな音が都中に響き渡る。

いつの間にか露店の看板は下げられ、通りを歩く人も少なくなっていた。

そして家の中からでる明かりが街を照らしていく。

たまにきこえる足音がよくわかり、遠くには勢いのある男らの声がある。

「今から城に行くのね」

「そうですね…」

城からは物音がしない。その窓から出る明かり、それは新鮮なものではない。

日が落ちて少し経っただけなのにその風は冷たい。

「じゃあいこっか。」

ソフィはベンチから立ち、手を私のほうに出す。それはロウエルとは違うと感じる。

ミアは目をそらす。そして少し伸ばした手を縮め、こぶしを握って立った。

胸を張ったミア。

「急がないとお城がしまっちゃいますよ」

ソフィはほんの少しはやく歩いた。


ヲーリア城は広場にある門をくぐり、坂をしばらく上った先にある門の中にある。

怪しい人は騎士に門で話しかけられるが、基本的にはだれでも城の中に入ることができる。これはほかの都の城ではありえないことであり、民主のための政治という考えのためだと思われる。

「ほんとになにもなく通れましたね」

「そうね、ほんとうにすごいところだわ。」

二つ目の門をくぐると広い庭があり、噴水が両側に並んだ道の先に城の屋内に入る扉がある。

「この噴水も魔法なのでしょうか」

「おそらくそうでしょうね」

その扉は大きな扉でだいたい夜の9時くらいまで開いている。9時はヲーリア王が食事をとる時間帯であるが故。

扉の先にあるのは大きな広間。歴代王の肖像画が飾られている。

「えーと、1、2、3、4、5人ですね、今の王様は5人目の方ですか」

「あとでわかるけど全然似てないわよ。」

「でもあの本には書いてありませんでしたよ?」

「王より絵のほうがかっこいいなんてこと書けるわけないじゃない。」

玉座の間は4階にあり、そこまでの廊下にはさまざまなものが飾られている。

2階にはヲーリア平原にあった村がヲーリア王都になるまでの成り立ちが書かれた大きな石板が壁に埋め込まれている。

「ときどき絵が刻まれてますよ、こんな細かく刻むなんてすごいです」

「そうね。」

「恐竜と戦ってる人の絵がありますよ、しかも鎧も身に着けずに!」

「騎士じゃなかったのでしょうね。」

「怪獣ベルクレクスをたおした英雄テグがヲーリアの初代王なんだって!」

「変な名前ね。」

3階には武器、防具、魔剣、魔法物や宝石などのレプリカがガラス越しに飾られている。

「魔剣ヴィントは風で斬りつけることができるって書いてありますよ!」

「でもそれが逆に隙になりそうね。」

「え、ええ?」

4階の階段を上ったら大きな窓がある。そこからは都を一望できる。

「こんな高いとこまで上ってきたんですね。」

「どうしてこんなに城を高くするのかしら。」

「それはですね…」

「…」

玉座の間はまっすぐ進んだ扉の先である。騎士が二人ほど立っているからすぐわかるだろう。

ほんとに腰に剣、腕に盾、体に甲冑をつけた人が二人、扉の前に立ってる。

「旅の者、こんな時間に何の用だ?」

「この子を王様にあずけたいの。」

首を傾げた兜が扉の前に二つ並んだ。

「その子はだれだ?」

「それは言えないわ。」

そういえばどんな理由で玉座の間に入るんだろうとは思ってたけど、こんなに正直でいいのかな。

そもそも私がロアマトの子だということは公にしてないことですし、するべきことでもないですから…。

「言えないなら通すことはできない。」

「いいの?通さなくて。」

ソフィは騎士を煽るように言った。

「この子は王様の…かもしれないわよ?」

「…とはな、なんだ?」

膝を少し曲げた騎士二人。動揺しているのかな。

「いいの?こっちは善意でこの子を秘密にして王様のところまで連れてきたのに?」

「嘘だ…」

「い、いやでもありえないことないだろ…」

いったい何の話してるの。べつに私はヲーリア王とはなにも関係ないはずなんだけど。

「い、いや、でも通すわけにはいかない!」

「なんでよ!」

「まずは王に確認を取ってからだ!」

「ちょっと!」

その騎士は玉座の間の光景がわかるくらいその扉を強く大きく開けた。

そこには3人の鎧を着た人と1人の怪しいおじさんとうるさそうな少年がいた。

他の人達が謁見中だった。

「王!あなたまでそんなことするようになったんですか!」

「お、おい。」

威勢よく王に叫んだあと、だまって周りをみまわした騎士。

王はため息をついた。

「緊急か?」

王の見た目は思ったより若かった。髭はあるけど黒ひげで王冠は被ってない。そして似てはいたけどカッコよくはなかった。

「い、いえ…」

「じゃあ下がれ。」

あきれた顔をしてる。怒らないんだ。

「ふむ?ミアじゃないですか。」

よく見たら怪しいおじさんはロウエルだった。

「なんでここにいるんですか?」

そしてその隣にいたうるさそうな少年はシユウだった。なんでここにいるの。

「王に事情を話していたのですよ。」

やっぱりロウエルはロウエルだった。

「ロウエル?司祭の方?」

ソフィはちゃっかり玉座の間に足を入れていた。

「司祭じゃなくて司教です。」

でた。にっこりロウエル。

「そのお嬢さんが探していた娘さんのようじゃの。」

王の左側にメガネをかけた太ってないおじいさんが立っている。

「そうです。ご迷惑をおかけしました。」

教会騎士二人がミアのほうへ歩く。にらみつけながらその道を開けるソフィ。

お辞儀をしたあとロウエルとシユウも廊下の方へ歩く。

「まて。」

王はさっきの様子とは一風変わって、頬杖をしながらロウエルを刺すようにみつめる。

「なんでしょうか?」

振り返ることなくロウエルは答える。

「ロアマトの予言の話、まだ途中だろう?」

扉は開いたまま、二人の騎士は王のその言葉を耳にするとミアのほうをみる。そして硬直した。

「もしかして王は…」

「父親を超えるとはそういう意味だったのか…」

小声で話すヲーリアの騎士。

「なんか勘違いしてないか?」

王はさっきの様子とは一変変わってぽかんとしてる。

「そういう意味じゃったのか。」

左のじいさんは複雑な顔をしてる。

「逃がしてはもらえないようですね。あらぬ誤解をかけても仕方ないですし…」

ロウエルはその王の言葉を聞いて振り返る。あきれたような顔で二人を見ながら。

その後、ロウエルとミアと教会の騎士は玉座の間に残ったままシユウとソフィはお礼もなく王国騎士にそこを追い出された。

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