第4話 試練

でこぼこして冷たいものが体にくっついているのを感じる。

「う...ん?」

両手に力を入れてゆっくり起き上がる。

「洞窟?のようだ」

でこぼこした岩の壁と床。奥の方は真っ黒だ。幸いにも近くに松明の明かりがあるから周りは見えた。

「うわ。砂が着いてる」

近くにあった水たまりを覗き込み、顔を洗うシユウ。

「冷たっ!」

袖で顔をふくともう一度周りを見回す。周囲にあるのはこの水たまりと布団。そしてここは遠くの方が見えないほどに広い空間だ。

「どうしてこうなるんだよ!」

頭を抱え、髪を乱すシユウ。その叫びは鳴り響く。

ため息を一つつき、下を向く。

「とりあえず歩くしかないか。」

壁についている松明を手に取り、歩き始めた。


歩を出すたびに出る硬い音がなんども聞こえたあと、その音を止めた。

「ここしか道はなさそうだな」

しばらく進むとひとつの細い道にたどり着いた。

再び音を鳴らしていくシユウ。

しかしその音は低い声によって止められた。

「…するんだ?」

「とりあえず女子供のほうがロアマトの子孫らしいからそいつを連れていけばいい。」

「あっちはどうする?」

「どうでもいいだろ、ほっとけ。」

もう少し足先を出してじりじりと近づく。鼓動の音は響かない。

「馬は何時に来るんだ?」

「あと20分くらいだな。」

「そうか、ちょっと外の空気吸ってくるわ」

「ああ」

小柄な男はたばこをふかし、大柄な男が奥の細い道のほうへ出て行った。

「あいつもどっかいけよ」

この道の先へと顔をのぞかせると中心に椅子に座りこちら側に背を向けぼーっとする男、酒樽と麻袋、木箱がまとめて端に置いてある部屋だということがよくわかる。

そして左奥に大柄の男が出て行った道、右にも道がある。また右の道は比較的近い。

「どうする…」

汗が眉をたどり、頬を流れ、顎につく。

「右の道に行ってみるか」

しゃがんで松明を置き、物陰に隠れながら右の道に入っていく。

しばらく進んでから壁に掛けてある松明をとり、細い道を下っていくと松明が数本ある広い空間にたどり着いた。


中から人の声は聞こえず、のぞいてみても人影はない。

歩いていくと格子のようなものがあるのが見える。目を細めるとその中に見覚えのある少女が地面で横になっているのがわかった。

「カギは…外からなら開くのか」

シユウは近づき、牢の扉を開けて中に入る。

片膝をつき、少女の顔をのぞくとそこには幸せそうな顔があった。

「ぐっすり寝てる場合じゃないだろうが!」

ミアの体を大きく激しく揺らす。

「…?」

「おい!」

「ふにゃ?」

ミアは体を起こすと右左を向いたあと、体を後ろに傾け始めた。

「夢じゃねえよ!」

ミアの背中を押し上げ放した。

「ここはどこですかぁ?」

「こっちが聞きたいわ」

あくびをし、半目をこするミア。

「いまなんじぃ?」

「…」

腰を上げ歩き始めるシユウ。

「きがえどこだっけぇ?」

「…」

桶をみつけ、水たまりをみつける。

「あさごはんはさかながいいですぅ…」

「…」

シユウはミアの顔めがけてそれをおもいっきり打ち付ける。

ミアのお尻は床についた。

「冷たい!」

目を見開き、飛びあがる。

「なにするんですか!」

声が響き渡る。

「あんまり大きな声出すなよ。」

眉を上げるシユウの顔を見て下を向いた後、一呼吸して周りを見回す。

「ここはどこですか?」

牢の外に出るシユウ。

「洞窟だよ。」

首をかしげるミア。

「なんで洞窟にいるんです?」

「知らねえよ。」

ミアも牢の外に出た。

「とにかくここを出ましょう」

「当たり前だ。」

シユウの後ろをついていくミア。

「怒っているのですか?」

「…どうしてお前は怒ってないんだよ。」

小声でつぶやく。

「すいません、なんて言いました?」

「いいから。」

さっき下ってきた細い道の前に足を止めミアのほうへ振り向く。

きょとんとした顔でシユウを見ているミア。

「近くないか?」

「あ、ごめんなさい」

ミアは後ろに一歩動いた。

「この道の先に男が一人、もしかしたらそれ以上いるかもしれない。ここを出るにはそいつをどうにかしないといけない。」

ミアはうつむく。

「とりあえずのぞきにいくぞ。」

「わかりました」

細い道を上っていき部屋の前あたりにつく。手に持っている松明をミアにあずけ、シユウは顔を出すとそこにはだれもいなかった。

ふたりはゆっくり部屋の中に入っていった。

「あれが出口ですか!」

「そうっぽいな。」

奥の道からは薄っすらと白い光が差し込んでいた。

ミアがその道を駆け上がっていくのをみるとシユウも走っていった。


「ミア?」

まぶしくて涼しい光の逆光でひとりの少女だけでなくもう一人いるのがわかる。

「だれだ?」

なにか長いものとぶらぶらしたものをもっている。

「シユウ!」

ミアは坂を下り、シユウの左腕を握るミア。

「まだいたみたいだな。」

こっちにくる男、その手に持っていたのはサーベルと小柄な男の頭だ。

「山賊かよ…」

唾を飲み、後ずさりする。

「食いもんあったか!」

後ろにもう一人山賊がいた。

「ん?まだ残ってたのか。そいつらはまかせたぜ。」

「あいよ。」

丸い固体を投げ、男はさらに近づいてくる。

後ずさりする。何か踏んだようだ。下を向くとでかい体の男の死体であった。その近くにロングソードが落ちていた。

「っう」

シユウはその柄を手につけ、握り持つ。

その男はシユウよりでかく、その表情は笑っていた。

「うおおおおおお!」

男は走りサーベルを振り下ろした。

震える足をなんとか動かし避ける。

「へええええええあ!」

さらに男は襲ってくる。

受け止めるがロングソードは弾き飛ばされる。

「っ!」

シユウは背を向け全力で走り出した。

ミアは必死についていく。

「はっはっは!」

男も追ってきている。

坂を上り切ると朝日がまぶしく、左には馬車、右は道がある。

そのまま走り右に曲がった瞬間であった。

「んっ!」

振り返るとミアが転んでいた。

手を貸すために近づこうとすると、男は追いついた。

「ふぅ、おお?」

男はすでにミアの目の前にいた。シユウは自分の手をにぎりしめる。

少女は立ち上がれない。

「ひっひっひ、じゃあな!」

サーベルを大きく振り下ろす。


青年の足は動かない。この感覚をおもいださせられる。

やはり青年は願わない。

でもシユウ足は動かない。止めているのは本能ではない。

だからこそシユウは願えない。選べない。


目の前にあったのは見たことのない光景だった。

少女の前にサーベルを剣で受け止める女性がそこにはいた。

「っち、いいとこだったんだがなぁ」

その女性の左肩からは血が流れ出している。

「しかし力はないな!」

男は嘲笑いながら体重をサーベルに乗せる。女性の剣は左に傾かないかわりに左肩がよりえぐられる。

ミアは腰を抜かしている。

「引いた方が身のためよ。」

女性は声をしぼりだす。

「強気な女はきらいじゃないぜ!」

「じゃあ覚悟は…できてるわね。」

なんと女性は自身の左肩を斬りつけながらに男の力を右に受け流した。

そして瞬時に男の喉を刺した。

女は剣を抜く。その髪は血まみれだ。

山賊は背中から倒れ動かなくなった。

剣に流れる血を振り払い、女はこっち側を振り向く。

完全に固まっているミアを見た後、呆然とするシユウのほうを見つめた。

「この子はあなたの連れ?」

「…ああ」

「じゃあこの子を頼むわね。」

「…ああ」

ため息をつくと剣を鞘にしまおうとした。

「くそ、やってられっかよ!」

荷台の後ろにいたもう一人の山賊が馬をムチで叩き馬車をうごかす。

女は動けないミアを担ぎ馬車を避ける。

馬車はそのまま物を落としながらシユウの横すれすれを通り過ぎて行った。

「もうひとりいたのね。」

ミアをゆっくり地面に座らせる。

「あ、あの…すいません。」

「気にしなくていいわ。」

笑顔で答える女。

「その肩の傷、治します」

「え?聖職者の方だったのね。」

ミアは女のほうへ手をかざすと緑色の光が女を包み、その痕が閉じられていく。

「あの男の子はあなたの知り合い?ってこういうときは自分から名乗るのが常識よね。私はソフィ、旅をしている者よ。」

「私はミア…ロアマトの子…です。」

「ロアマトの子!?」

「は、はい。あそこにいるのはシユウ、村人です。」

緑色の光は消え、傷は完全に消えていた。ソフィは肩をまわした。

「ありがとうミア。」

「いえ、あなたは命の恩人なのですから。」

ソフィはシユウのほうへ振りむいた。

「いつまでも突っ立ってないであなたは怪我無いの?」

「ああ…大丈夫。」

目を背け、下を向く。

「あなたにも話聞きたいからこっち来て。」

いつのまにかソフィはシユウの前におり、腕を引っ張ってミアの座るほうへ連れていく。



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