第3話 光
月が街を照らす。しかし窓から入る光はシユウのみをさしていた。
窓に顔を向ける。
下を見ると明かりの消えたイリィの街、少し上を眺めれば山の向こうに城があるということがよくわかる。
「お待たせしました。では中に入れてください。」
すぐに甲冑の音が聞こえ扉が開いた。
「すいませんが、カーテンを閉めていただけますか。」
ロウエルとロアマトの少女がソファに座る。
火の光だけが部屋をみせる。
「拘束しないのか?」
「しませんとも。」
「なぜ?」
シユウが疑問を問うとロウエルは軽く笑う。
「すいませんね、さっきのはやりすぎましたか。私たちはあなたの話が聞きたいだけですよ。」
「…」
シユウは木の椅子に座った。
「私たちの目的はミアの予知にでてきた大災害を呼ぶ男を見つけ出し、未然に大災害を防ぐことです。」
「で、その男が矢のような剣、魔剣?をもっていたってことだよな」
「そうです。」
ひとりの騎士がカップ3つをテーブルに置いて部屋の外に出て行った。
「魔剣の能力といつどこで手に入れて失くしたのかを伺いたい。」
ロウエルは落ち着いた様子でコーヒーの入ったカップに口をつける。
「あれはだいたい半年前だ。俺はクリスの港にいた。気が付くと矢のようなものを手に持ってレンガの地面で寝ていたんだ。」
「酔っぱらいが路上で寝たら魔剣がもらえるなんてことがあるんですねぇ」
なぜかうれしそうな中年。
「…そのあと町をうろうろして、そのとき間違えて憎たらしい猫に矢が刺さってしまったんだ。」
ミアがシユウをにらむ。
「そしたら猫が大人しくなって、矢を抜こうとしたら矢が消えていつの間にか矢を手に持っていたんだよな。」
「猫は?」
ミアが眉を上げながらハーブティーの入ったカップに口をつける。
「猫に傷はなくて、そのあと猫にだめものとで金をせがんだら金をもってきてくれた。」
手を組みながら上を向き、にやにやしているシユウ。
「どんな状況…?」
手を組みながら下を向き、顔を固くするミア
「猫に小判ですか。」
両肘をテーブルに立て、真剣な表情をし続けるロウエル。
「ほかにも物をもってくれと言ったらもってくれたし、時計をとってくれって言ったらとってきてくれたんだ、どこでもドアは出してくれなかったけどな。」
「ドコデモドア?」
首をかしげるアトラス人。
「まぁ、なんでもできるわけじゃないってことだ。」
汗を袖で拭きながら説得する日本人。
「つまり、魔剣の能力は猫を操る能力ということですか。」
「ほんと?」
うなずくロウエルとまたしても首をかしげるミア。
「いや、そのあと大型犬にもさしたし、亀にもがんばってさして同じようなことになったから猫だけじゃないな。」
「なるほど、動物を操る能力ですか。そういった妖術もありますしね。」
「大型犬?亀?」
話を続けるシユウ。
「この力を使って誘拐犯を捕まえたり、悪徳な商人を懲らしめたりして人助けをしたりもした。そうやって矢を使ってて思ったんだよ、金儲けできるなって、それでレルドアに行ったんだ」。
ロウエルは手帳に筆をあてる。
「そしたらカジノで大儲けだったよ、わざと悪いカードを出して疑われないようにしてな。」
「なるほど、人にも使えるってことですか。」
「少しの時間だけだけどな。」
筆が進むロウエル、うなずくシユウ、そして首をかしげるミア。
「その金で豪邸に住み、毎日いいもん食って…あの時は楽しかったなぁ」
「へーそれはいい魔剣だったんですね。」
「使いこなせばな。」
男二人はそれぞれのこぶしを握り締める。一方、カーテンを見始めた女。
「ごほん。それでどこで失くしたんですか?」
「ある日目が覚めると、矢を盗った男が門の外に走って出ていくのが見えて急いでそいつを追ったんだけど…結局見つからなかった。」
シユウはこぶしを握り歯を噛む。
「あなた以外に魔剣の能力を知る人はいたのですか?」
「いや、いないはずだ。」
顎に手をつけ下を向くロウエル。
「お金に換えるために盗んだわけではないようですね。」
「どうして?」
「お金を狙っていたのなら金庫などを狙うはずです。」
「あ、なるほど。」
椅子から腰を上げるシユウ。
「だいたいこんなもんだよ。」
「魔剣の能力は生物を操る能力、ただし人間には少しの時間しか操れない。不可能な命令には従えない。そして自分の手に戻ってくる性質がある…といった感じですかね。」
「だいたいそんな感じだ。もういいだろ。」
手帳を閉じるロウエル。
「ええ、帰っても結構ですよ。」
あくびをしながらシユウは扉に向かって歩いていく。
「私、外まで送ってきます」
駆け足してミアは扉を開ける。
「あなたがそんなことする必要はないのですよ。」
「べつに見送りなんていらないぞ。」
「でも迷惑かけましたので。」
騎士を後ろにつけながら、シユウとミアは階段を下りて行った。
宿屋の扉を開け砂を踏むと夜風が身にあたる。
「やっぱ寒いな。」
「そうですね。」
これから明かりの消える宿の方を向くシユウ。
「明日にはリィリを出て行くのか?」
シユウの顔を覗き込むミア。
「ええ、ここに来たのはあなたの話を聞くためでしたので。」
「そうかい。」
すでに明かりの消えた街に足を向けるシユウ。
暗い風の音が鳴る。
「…」
その瞬間、シユウの頭は地面についていた。
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