第2話 ロアマトの予知
窓の隙間から流れる冷たい風で夜になったことに気づいた。
「もうこんな時間か。」
起きてみて外をのぞく、たくさんの影が酒場のほうにある。彼は眉を下げた。
振り返り、ベッドを見ると同時に虫の鳴き声を聞いた。
シユウは外に出て行った。
歩くとともにその歩幅は少しずつ小さくなる、その一方光と音は大きくなっている。酒場の目の前までくると足は止まっていた。
「ほんとに司教きたんだな。」
宿屋のほうをみると大きな馬車がある。
「まぁ気にしても仕方ないか。」
階段を上り、シユウは扉を押した。
シャンデリアは眩しく床のきしむ音は聞こえなかった。中に入ると大人から子供までみんな騒いでいた。
「おい、見ての通りだから手伝ってくれ」
グラスを出しているジェイが見えた。
「司教ってのはどいつなんだ?」
カウンターに向かう。
「ちょうど司教に料理を出すとこだったんだ、持ってってくれ。二階の奥の方だ、見ればわかる。」
シユウはカウンターに置かれたトレイを手に乗せ、階段のほうに歩いて行った。
リナとレイが柱の周りを走り回っている。
「そこどけ。」
シユウは遮るようにリナとレイの間を割って通った。
「お?ついに仕事見つけたのか?シユウ」
はっきりとわかるレイの声。
「うるさいぞ」
シユウは振り向いて顔を赤くして、腰を曲げ、にらんだ。
「すいませんね。ってシユウか」
肉屋のおばさんが早歩きをしながらあやまった。
「お、仕事の手伝い?えらいじゃない」
「あたりだよ」
シユウは顔をしかめながら階段を上って行った。
「奥の方…ってあれか。」
階段を上り西のほうを見ると白い服を身に着けた少女と少しだけ白い服を着ている中年の男、そして護衛一人を挟んで町長も座っていた。ほかにも護衛が二人席の前で立っている。
トコトコと音が鳴る。
「どうも。」
トレイを机に置き、顔を上げながら中年の男と少女の顔を見る。
中年の男は年季のある深い顔、少女はどこにでもいる女の子だ。
「すいませんね。うちの若い者が」
町長は頭を下げる。
「いえいえ、元気な証拠ですよ。」
中年男性はナイフとフォークを置いていた。
「ほら、シユウも謝りなさい。」
「すいませんでした」
シユウは軽く頭を下げた。
「気にしないでいいですよ。そんなことよりおなかがすいているようですね。」
「!?」
トレイを落とすシユウ。
「私たち聖職者は人体に詳しいですからね。よかったら君も座りますか?」
「いや、遠慮…」
断ろうとしたら町長が立ち上がりシユウの耳元にきた。
「せっかくなんだから、話をきいてみるのもいいとおもうぞ」
町長がソファに座った後
「じゃあお言葉に甘えます」
シユウは町長の隣に座った。
「すいませんな、ロウエル殿。」
「いえ、お気になさらずに。」
「では話をつづけますね。」
「ええ」
机の上にある鳥の丸焼きをじっくり見ていたのはシユウだけではなかった。
「気にせず食べていていいですよ。」
鳥の足に手を伸ばす少年と鳥の胴体部分に手を伸ばす少女は鳥をとりあっていた。
「では…2000年前にあったといわれる大災害は知っていますよね」
「ええ、天と地が割れ、炎と水で大地を覆い、大風が家々を飛ばし、世界のおよそ4割の生命を滅亡させたといわれる大災害のことですね」
「それがロアマトの子であるミアの予知によると、それが近い将来起こるらしいのです。」
「なんだって…」
町長の顔は青ざめていた。
「でもミア様はまだ子供でしょう?ロアマトの力はほんとうなのですか?」
「ミアは現在16歳ですから、的中する可能性はあります。」
「しかし…」
「なら実際会ってみますか?」
「いえ、私はイリィを…」
「すいません。」
少女は口を開けた。
その隙に少年は鳥の足二つをとった。
「名乗るのが遅れてごめんなさい、私はロアマトの子のミアです。」
町長は少年の鳥の足を一つ横どった。
「ロアマトの子孫様だったのですか!ご無礼をお許しください!」
町長は席を立ち、深く頭を下げた。
「いえ、もともと私が外に出ているのは機密情報なんです、お気になさらなくてもいいのですよ」
ミアも席を立った。
その間に少年は鳥の胴体に手を伸ばそうとしたが、ミアににらまれた。
ジェイがトレイに皿とグラスを乗っけてカウンター裏に入っていくのを、腹を十分に満たした少年が上から横目に見ている。
「私が見た景色は火のような色をした空の下、丘の上に一人の男が立ち、そしてその男のいるところから黒い線のようなものが空に向かって広がっていくのが見え、その直後に大地が大きく揺れ、雷が鳴り、豪風が私たちの体を吹き飛ばしていったというものです」
ロアマトの子は机の上にある汚れた皿のほうを向いて言葉に表す。
「それが大災害ということですか」
膝の上に手を置いたまま下を向く町長。
「特徴的には大災害の伝承に近いものだと考えられます。」
ロウエルは表情一つ変わらない。
「パンドラの箱を探している噂を耳にしたのですが、そんな理由だったのですか」
「ここまで広まっているとは驚きですよ。」
「しかし、パンドラの箱なんてほんとに存在するのでしょうか」
頬付きをつき天井を向きだした少年。
「パンドラの箱なんてあるわけないだろ」
固まった町長の顔が少年の後ろにはあった。
「どんな願いも叶える道具なんて昔の人のただの夢だ」
手を上に伸ばしながらソファを立つ少年。
そのまま歩き、直立する護衛の横を通ろうとする少年。
「多くの人はそう思っているでしょう、しかしあの男は矢のような剣を持っていました。」
ミアは振り返り足が動かないシユウの目を入るようにまっすぐ見ていた。
「矢のような剣…」
「私たちはその男を探しています。だからここに来たのです。」
ロアマトの子はシユウの目を瞬きせずまっすぐ見ていた。
「どうゆうことですか!」
イリィ町の長は立つ。
「私たちの目的は矢のような剣、おそらく魔剣でしょう。それを持つ男とその魔剣そのものをみつけることです。」
シユウの冷たい汗が床に落ちる。
「待て!誤解だ!俺はあの矢をもってない!」
下にいるジェイが叫ぶ男を見ながら皿を洗っている。
「でも持っていたのでしょう?」
ロウエルは手の甲を机の上につけた。
騎士はシユウの後ろを塞ぐ。
「確かに持っていたけど、盗まれたんだ!」
ロウエルは腰を上げると、騎士たちはシユウを外に連れて行った。
「ミア、私たちも行きますよ。」
「はい。」
司教とロアマトの少女も階段を下りていく。
「どうも、楽しまれましたか?」
ジェイは階段の横で礼をしながら申した。
「ええ、おいしかったですよ。」
にっこりと店員のほうに返事をする司教。
ジェイは司教と少女の後ろ姿に浅くお辞儀をした後、トレイを持たず階段を上っていった。
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