part13

 訪れたのは、謳泉学園のグラウンド。朝礼代の上で、カノウが空を眺めていた。

 山奥のように鮮烈せんれつな星の輝きがある訳ではないが、都心の空よりは煌めきがある。

「来たか、ジュンセ」

 待ち侘びていたかのように、浮かれた声で、カノウはジュンセを迎える。

 すると、そこへもう一人の男子生徒が現れた。

「こんな面白そうな展開に俺を呼ばないとは、どういう了見りょうけんだ、カノウ」

 重い身体を強引に動かしながら、ヒュウガは難癖を付けてくる。

「お前なら、勝手に来ると思ったからな。というか、よく来れたな。そんなボロボロの状態で」

「はっ、油断したが、俺があの程度でやられるかよ、と言いたいが、スミネを差し向けて置いてよく言う」

 自身が回復している事もかんがみて、あの場に母が来たのだろうとジュンセは納得する。

 役者が揃ったと言わんばかりの雰囲気だ。朝礼代から降りて、カノウはジュンセに問い掛ける。

「さて。ジュンセ、私に何か聞きたい事はあるかい?」

 親しげな口調だが、ジュンセは顔を険しくし、言われた通りに質問する。

「会長……アンタは、何者なんですか?」

 核心を突く質問に、ヒュウガは感心し、カノウは期待通りだと喜ぶ。

「私は、リバイブを施された両親の間に生まれた、唯一の個体。リバイブを自由に操る事ができる、リバイブを浸透させた人間、つまり、全人類を思うがままに操る事が出来る。謳泉学園の生徒会長だ。任期はそう、今年で10年目になる」

 予想外の発言に、ジュンセは戦慄した。

「全人類って、リバイブは赤い生徒にしか使われていないんじゃ」

「蘇生の技術は確かに赤い生徒だけだ。だが、すでにリバイブは全人類の体内に宿っている。7年ほど前からね」

 話が進む度にスケールが膨れ上がり、ジュンセは圧倒される。そして、感じた違和感について言及した。

「ミオやチヒロたちが動かなくなったのも、アンタの仕業か?暴走が誤魔化されているのも、赤い制服の奴らの家族が何も言ってこない事も」

「その通りだ。リバイブを脳に作用させ、余計な疑問を抱かないようにさせてもらっている。まあ言うほど万能という訳でもないがね。現に暴走してしまう生徒もいれば、君のようにここまで辿り着いてくれる者もいる」

 教鞭きょうべんを取っているかのような丁寧な説明を受け、ジュンセはまたも息を呑む。何もかもが、世界がカノウの好き放題にされているという事だからだ。

 そこで、ジュンセは素朴な疑問を抱き、臆せずに投げつけた。

「何で、全部を話してくれるんですか?」

 その問い掛けに、カノウは夢を語るような少年の顔をして答える。

「それは、君が私の理想の力になってくれるかもしれないと思ったからだ。ジュンセ」

「会長の理想……死が規律として蔑ろにされず、皆がもう一度だけ生きるチャンスを貰える世界の事ですか?」

「そうだ」

 肯定するカノウに、ジュンセは重ねて問うた。

「会長の力なら、理想の世界は、すぐに作れるんじゃ?」

「それでは意味が無いよ、ジュンセ。私は私で、人間の事を好きでいるから、人の意思の力で、そんな世界を作りたいと願っている」

 切なそうに答えるカノウの心は、きっと本物なのだろうと、ジュンセは理解した。だが、その傲慢な理想を納得する事は、ジュンセには出来なかった。

「会長の理想に賛同したから、俺を仲間にでもするって事ですか?」

 語調を荒くしたが、カノウは態度を変えず、親しげな感覚のまま返答する。

「協力してくれる事を望むが、これを決めるのは君の意思だ」

 選択肢を与えられ、ジュンセは考える。自分の願い、自分の出来る事、リバイブが出来る事。

「会長の理想は、正直言って、悪くないと思います」

 沈黙を守っていたヒュウガが剣呑な顔になり、カノウもまた、表情を僅かに固くした。

「良い世界、とは言ってくれないようだな」

 迫力を肌で感じながらも、ジュンセは毅然きぜんとした態度で続ける。

「やり方が、納得できないんです。会長は俺たちの意思を尊重するような事を言って、結局は高い所で舵取りをしてる。何も教えないままに。俺たちは、アンタのペットでもなんでもない」

 強く言い放つと、カノウは高揚感に頬を染め、ヒュウガも高らかに笑った。

「はははははは、言い切りやがったぞ、コイツ」

 愉快な顔をして、ヒュウガも己の信念を明かす事にした。

「俺はな、ジュンセ。このクソ生意気でエセ博愛はくあい主義な男から、リバイブを取り戻す為に戦ってる」

「リバイブを、取り戻す」

「ああ。リバイブには無限の可能性がある。なのにこいつは、理想の世界の為に、その開拓を遅らせやがるんだ。自分勝手に必要が無いからと言ってな。俺はそれが我慢ならない。だから利用できる物は何でも利用し、こいつを打倒する為の礎にする。それが、俺の目的だ」

 誇らしく宣告する様は、瞠目どうもくすべき意志の強さをジュンセに伝えた。

 そんなヒュウガを頼もしそう見る目で一瞥し、カノウは改めて、ジュンセに問う。

「ジュンセ、君は以前、赤い制服の生徒との向き合い方を悩んでいた。答えは見つかったか?」

 胸に重く響いた問い掛けだ。ジュンセは息を整え、答えを出す。

「違わないんだ。赤と青、生きてる死んでるなんて。この学校の奴らはみんな、今を生きてるんだ。それぞれ必死に、自覚のある無しに関係なく。だから俺は、風紀委員として出来る事で、みんなを守る。もう寂しい思いはしたくないし、させたくないから、俺は戦う」

 啖呵たんかを切り、ジュンセは風紀委員ピンを取り出した。

「リバイブは、確かにすごい。人に必要な力なんだと思う。だから、それを守る為なら、アンタたちと協力だってしてやるさ。だが、アンタたちの好き勝手だけに、リバイブを使わせるのは許さない」

 賛同と宣戦布告を共に行うジュンセに、カノウとヒュウガは昂ぶった。

「面白れぇ、リバイブでどこまでやれるか、一緒に追い求めようじゃねぇか」

 熱意を露わにして、ヒュウガも番長ピンを構える。

「君は期待以上だ、ジュンセ。ならば私も、理想の為に君と向き合おう」

 かつてない感激を味わいながら、カノウも生徒会長ピンを掲げた。

 三人同時にピンを起動し、それぞれに対応する腕章が宙を舞い、主の腕に噛みついた。

 ジュンセとヒュウガは手に持ったまま直接ピンを腕に刺す。カノウはピンを手放すと、宙を浮遊するピンがカノウの腕まで移動し、自動的に腕章ごと刺し貫いて針を留めた。

 三者三様のリバイブが吹き荒れ、身体に浸み込む。臨戦態勢が整い、三つ巴の状態で睨み合った。

「さあ、同志たちよ。存分に語り合おう。人類の未来を、この学園の明日を!」

 高らかにカノウが宣告し、ジュンセとヒュウガが裂帛と共に駆け出した。

 直立するカノウへと突進し、間合いに入ると、各々は拳を振りかざした。

 透き通る夜の帳に、誇りと信念の火花が舞い上がった。

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