part12

 夜の月光だけで照らされる仮校舎の廊下。ジュンセとリアは寄り添うようにして、壁に背中を預け、黄昏たそがれていた。

 目が覚めたのはつい先ほど、現状に動揺はしたが、気力が保てず二人は静寂に浸っていた。

 ふと、ジュンセの頬に涙が流れる。

 決壊けっかいした涙腺るいせんから止めなく涙が零れ落ち、その様子を、リアは心配そうに覗き込む。

「ごめんな、リア」

 送られた言葉に、リアは戸惑い、悲しい気持ちになる。

「どうして、ジュンセが謝るの」

 堪えるような声で尋ねると、ジュンセは涙を拭いながら答える。

「俺はさっき、お前が居てくれて……傍に居てくれて、良かったって思った」

 ジュンセの気持ちを読み取り、リアも気持ちが沈んだ。

「そんな事、絶対に思っちゃ、ダメなのにっ、俺は、お前が生きていたいって、助けてくれって、言ってくれて、嬉しかった」

 感情のまま泣きじゃくり、忸怩じくじたる思いを発露する。口にしたくも無かったが、伝えなくてはならないと思った。もうすれ違いで、友を失くすなど、ジュンセには耐えられない事だからだ。

「……私は」

 涙目になりながらも、決して悲しみを顔に出さず、リアはジュンセに寄り添う。

「私は、ジュンセにそう言ってもらえて、良かったと思うよ」

 穏やかでいて強い声音に、ジュンセの心臓が跳ねた。

「私ね、ホントに何も無くて、自分がつまらない人間だと思ってた。だから何もないまま死ぬのが怖くて、とにかく生きていたかった。生きる目的が、欲しかったの」

 そっとジュンセの手を持ち、励ますように、そして羨望せんぼうの眼差しを持って、リアは伝える。

「死んだ事は、やっぱり悲しいし、辛いし、怖い。親もいなくなって、私には、本当に全部が無くなっちゃったんだと思った。だけど、ジュンセは私を受け入れてくれた。私に、生きたいって言ってくれって、そう言ってくれた。そうしたら戦えるって」

 溢れた涙を拭い、リアは光り輝く微笑みを見せた。

「嬉しかった、私も。必要とされてる事が、ジュンセの力になれたかもしれないって。こんな私でも、まだ出来る事があったんだって、思えたの」

「リア……」

 感極まり、また涙を零しながら、ジュンセはリアの手を握り返す。

「俺、寂しかったんだ。寂しいんだ人が居なくなるのは。人が死ぬのは。それが怖くて、お前たちと一緒でいるのが、安心できて、だからトウヤも、ミサトも助けられなかった」

「うん」 

 想いを吐き出すジュンセを慰めるように、リアが優しく相槌を打つ。

「でも、それでも俺は、もう誰も、あんな風に死なせたくない」

「うん」

「誰かの為じゃない。俺が寂しくなりたくないから、俺は……俺は、風紀委員を続ける」

 見出した願いと覚悟を語り、決意を表明する。

 活力が湧き、ジュンセは違和感を思い出して、衝動的に立ち上がる。

「もう一つ、答えを出さないといけない事がある」

 言って、ジュンセは不安そうにリアを見つめた。

「約束、また今度でもいいか?リア」

「一緒に遊ぶ約束、だよね」

 分かり切った事を確認するリアに、ジュンセは重々しく頷いた。

「分かった。じゃあ、また今度ね。ジュンセ……」

 信頼の眼差しを送り、リアは望んだ。

「ちゃんと、帰って来てね」

「……ああ」

 力強く返し、ジュンセは動き出す。

 その背中を見送ると、途端にリアは眠気に襲われた。

 きっと疲れたのだろう。そう思って、廊下の壁に身を預ける。

 もう少しだけ休もう。明日は学校だけど、一日くらいサボってもいい。週末が来て、また休みの日に、今度はちゃんと、ジュンセと遊びに行こう。どんな事をするんだろう?どこへ行くのだろう?

 想像を膨らませながら、眠りにつく。

「ジュンセ……ありがとう」

 身体が徐々に傾き、リアは横たわった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る