part10

 謳泉学園から少し離れた位置に、リバイブの研究施設が存在する。

 日々生徒たちをモニタリングしながら記録を取り、時にはリバイブを使用した実験が行われている。

 そして、そこにはリバイブが枯渇こかつし、生命活動の時間が残り僅かしかいない生徒たちが眠っている。

 近代的な雰囲気が満ちる白いフロア。カプセルのような装置が並び、カノウはその内のひとつ、マドカが眠るカプセルの傍らに立っていた。

 寂しげでいて厳粛な姿は、まるで霊安室に訪れたような佇まいである。しかし、カノウの心は、場違いな程に高揚していた。

「マドカ、君は想像できたかい?あの時、偶然出会った少年が、君の後を継ぎ、君の領域に到達する可能性を見せてくれている」

 返事など来ないと承知したうえで、カノウは続ける。

「君の親友であるスミネの息子、ジュンセ。運命的な巡り合わせにも思うが、彼は本当に普通の人間だ。幸福に喜び、絶望に嘆く。そんな彼が、リバイブの真実に近付こうとしている。こんなに嬉しい事はないよ」

 そっとカプセルに手を添える。そこにまだ命があるのを感じ取り、名残惜なごりおしそうに離れた。

「願わくば、また君とジュンセが再会できる事を、私は祈っているよ」

 カノウがフロアを出る。フロアは節電モードへと移行し、照明が消された。

 光も音も温もりも無いその空間は、虚無と呼ぶに相応しい場所なのかもしれない。

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