part8

 地下校舎の一室、ヒュウガが勝手に私室として利用している部屋がある。

 ここまでの特権が与えられているのは、偏にヒュウガがリバイブの研究者として非常に優秀な人材であるからだ。

 幼い頃より、リバイブの権威として今も研究に明け暮れている父に、その知識と技術を叩き込まれ、今では独自の解釈を持って、リバイブと真摯に向き合っている。

 ヒュウガに取って、リバイブは水のような存在だ。

 人体の蘇生や強化を始め、特定の形状に構築する事で物体を発現させたり、人の思考に影響を及ぼす事も出来る。そして、未だに数多の可能性を秘め、人が生きていく上で必要不可欠になるべき因子であるのだと。

 リバイブの新たな可能性を開拓する事が、ヒュウガの幸福であり、生き甲斐だ。その為に利用できる事があれば、可能な限り利用する。

 それが、人の心を踏みにじり、尊厳を冒涜ぼうとくする行為であろうとも、やると決めた瞬間から、ヒュウガは迷う事なく実行する。

 愛用のPCを操作し、最終調整を行う。

 その表情は、期待と緊張、そして執念が入り交じる心情とは裏腹に、無機質で事務的な真顔であった。ここ一番の集中力を発揮し、黙々と作業を進めていく。

 人事は尽くした。最期の入力を終え、ヒュウガは席を立って、深く溜め息を吐く。

 そして、内心で決意を固めた。

 きっとまだ届く事は無いだろう。だが、今出来る最高の技巧と出力を獲得できる。これはまだ通過点であり、ここで得られる成果を活かして、必ず目的を成し遂げる。

 再び息を吐き、ヒュウガは部屋を出た。

 その先の廊下には、一人の女子生徒が待っていた。

 制服は赤色、明るいセミロングをツーサイドアップに纏めた端正な顔に、活力の満ちる瞳をした少女、リアだ。

 緊張と不安、そして希望を胸に抱き、リアはここに居る。たとえ悪魔と契約してでも、自身の願いを叶えたいからであり、今この瞬間に、リアは最後の一線を越える。

 ヒュウガの手から、安全ピンが渡された。

 それには、禍々まがまがしい書体で「風紀」と掘られている。

 ヒュウガの私室、パソコンの陰から、顔の浮かんだ腕章が、そのポップで厳つい目を光らせ、怪しく嗤った。

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