part7

 あくる日、謳泉学園の体育館。ここもまた、過剰な広さを誇る施設であり、日頃から様々な部活が練習に使用している。

 しかし今日は特別に、午後の時間を生徒会が貸し切っていた。

 厳密には、生徒会長であるカノウの独断だ。

 そういった事情から、少し後ろめたさを感じたカノウは、用件の相手が来るまで、体育館の床を掃除していた。

 カチッと着こなした青い制服で、何往復もモップ掛けをしているが、未だ汗一つ掻いていない。

 ふと、ステージ側の壁に掛けられた時計を見る。

 約束の時間が近付いていると分かると、扉の開く音が響いた。

 体育館の正面玄関から、青い制服を纏う男子生徒、ジュンセが現れる。

「やあ、ジュンセ。休日に呼び立ててすまない」

「いえ。今日はどうしたんですか?会長」

 呼ばれた理由をジュンセは聞いていない。それを尋ねながら、ジュンセはカノウに歩み寄って行く。

「そうだね。まずはひとつ、日頃の感謝からだ」

 モップを壁際に立て掛け、カノウはジュンセと向き合う。

「ありがとう、ジュンセ。君が風紀委員として働いてくれているおかげで、何人もの命が救われた」

 爽やかな口調で、けれど厳かな話しをされて、ジュンセは畏まる。

「やるって言いましたし、死にそうな人を助けられるのなら、頑張りますよ」

「そうか。それならば、これからもよろしく頼むという事で、君に新しい技術を教えよう」

「新しい、技術?」

 親しげな態度で話し続けるカノウだったが、どこか剣呑な雰囲気を感じ取り、ジュンセは警戒心を強くする。

「ああ。きっと、すぐに必要になる」

 言いながらカノウは懐から、生徒会長ピンを取り出した。

 風紀委員関連の事だと予想し、楽な用件でもないかもしれないと予感していたジュンセだが、こうも直接的な話だとは思わなかった。だが、覚悟はすぐに決まり、風紀委員ピンを構える。

「手荒い工程になるが、なんとしても付いて来てくれ。間違いなく、君の力になる行いだ」

 粛々と告げ、カノウは生徒会長ピンを起動する。それに倣って、ジュンセも風紀委員ピンを起動した。

 二つの腕章が数瞬ほど睨み合い、それぞれの主の腕に噛みつく。

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