part5
謳泉学園には、使用されていない仮校舎という物が存在する。
いずれリバイブの技術が施された生徒が増えた際の受け入れを万全にしている訳だが、実際の所、使われない方が良い建造物であると誰もが思っている。
そんな仮校舎は、生徒はもちろん、教員ですら全く寄り付かない場所であり、何かを隠れて行うには絶好のスポットであると言える。
校舎一階の女子トイレで、荒々しい息遣いが木霊する。
そこには、赤い制服の女子生徒が一人、力なく倒れており、青い制服の男子生徒、ヒュウガが、鬼気迫る表情で心肺蘇生法を施していた。
その傍らにはスマホが置かれており、発信の画面が表示されている。
数度目のコールの後に、電話が繋がった。
「もしもしヒュウガくん、どうしたの?」
「スミネ!今すぐ仮校舎!一階の女子トイレまで来い!早く!」
猛獣の如き叫びで要求を伝えると、スミネは聞いた事の無いヒュウガの声に驚愕し、けれど直ぐに了解する。
「わ、分かった!」
通話が切れ、あと少しでスミネが来ると、ヒュウガは微かな希望を抱いた。
しかし、それはすぐに暗闇に沈んだ。
息苦しさを覚えながら、ヒュウガは懐から、無地の腕章を取り出した。リバイブの状態を検査する為に作った特殊な腕章は、口だけを出して、女子生徒の手首に噛みついた。
そうする事で、女子生徒の体内にあるリバイブの状態を読み取り、ヒュウガはスマホを拾って、自作アプリで検査結果を確認する。
画面の数値を見て、ヒュウガは肺腑を抉られるような感覚に陥り、全身から熱が引いた。
「バカがっ。せっかく拾った命を無駄にしやがって」
誰にも聞こえない怒声を上げると、ヒュウガは額を抑えて縮こまる。
しばらくして、冷静さを取り戻したヒュウガは立ち上がり、制服のポケットから安全ピンを取り出す。それは、ジュンセに使わせる為に用意したピンだった。
「いらないって事なら、その身体、有効に使わせてもらう。もう、悪くも思えないだろうしな」
冷え切った瞳で、ヒュウガは息絶えた女子生徒を睥睨した。その胸の内には、憤りと覚悟が宿っていた。
程なくして、スミネが現場に到着する。
「ヒュウガくん、どうしたの⁉」
すでに保健委員の腕章を装着し、あとは回復させる対象の指示を受けるだけだ。けれど、女子トイレに、ヒュウガの姿は無く、赤い制服の生徒が横たわっているだけだった。
問題の生徒あると考え、スミネは女子生徒に駆け寄り、身体を起こした。
「っ、リアちゃん⁉」
倒れていた女子生徒がリアだと分かり、スミネは愕然とし、口から制服に掛けて吐しゃ物がこびり付いているのにも戸惑う。
だが、冷静に観察すると、静かだが呼吸をしているのが分かる。血色は悪いが、まだちゃんと生きているのだ。
何が起こったのかと、スミネは訝しむが、今はとにかく、リアを何とかしようと、その身体を担ぎ上げた。
腕章から得る力を存分に活かし、スミネはリアを特別保健室へと運び出した。
その様子を、廊下の角で見送ると、ヒュウガは
行き先は、仮校舎の隠し通路から入る、地下校舎だ。
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