part3

 ジュンセの母親、スミネの朝は早い。

 愛する息子の為に朝食を作り、寝坊しないように起こしてあげて、行ってらっしゃい、と晴れやかに送り出す。慌ただしくも爽やかな時間。

 そういった願望を抱いてはいたが、実際は特殊なリバイブの施術が行われた身体を検査する為であり、無愛想な研究員たちに舐め回すように調べられる毎日だ。情欲のない視姦をスミネは退屈に思い、そんな事を考える自分を卑屈ひくつに思った。

「いやいやいや。視られる快感って、どんなんだ私は」

 ベッドやカーテンしか目立つ物の無い待機室で、スミネは独り、気を晴らすように声を出す。聴いてくれる相手のいない虚しさに溜め息を吐くと、検診衣のポケットに入れたスマホが振動する。

 着信に気付いたスミネは、嬉しそうに応答する。最近連絡をくれる相手が、愛おしい息子である事が殆どだからだ。

「あ、母ちゃん。おやよう」

「おはよう、ジュンセ」

 期待通りの相手に、スミネは一瞬だけ顔を熱くさせ、すぐに真面目なモードへと気分を切り替え、すでに察している用件を待つ。

 電話の向こう、謳泉学園の校舎にある特別保健室にて、ジュンセは用件を伝える。

「暴走を止めた奴を、保健室まで運んだけど、母ちゃんは今、検査なんだよな?」

「うん。けどいつも通りちゃんと止められたんでしょ?息してる?」

 聞かれて、ジュンセは保健室のベッドで眠る部員を見る。

 しっかりと呼吸をしながら、静かに眠っていた。

「ああ、ちゃんと出来たと思う」

「なら大丈夫。検査を巻いてもらってすぐに私がるから、ジュンセはもう心配しなくていいよ」

 保健委員であるスミネの仕事は、暴走した生徒の検査と、その生徒の体調を回復させる事だ。

 生命維持を担うリバイブが暴走すれば、やはり暴走した生徒の体調に影響を及ぼす。それを軽減させる為に、保健委員の腕章から与えられるリバイブは、風紀委員の腕章とは別の作用で、暴走した生徒のリバイブを正常な働きをさせるよう促す効果がある。ちなみに、これは風紀委員の腕章からリバイブの恩恵を受けるジュンセにも応用が可能で、戦闘を行った直後の風紀委員の体力を回復させる事が出来る。

「ごめんね。回復させてあげる時間もないし、朝ごはんも作ってあげられなくて」

 まるで普段は朝ごはんも振る舞っているような言い回しだが、そう言いたいのだろうと母の気持ちを尊重し、ジュンセは合わせるようなテンションで返す。

「別に大丈夫だよ。苦戦した訳でもないし、朝飯の当てもあるから」

「そう。でも、ジュンセも大分風紀委員に慣れて来たね」

「そうでもないって。やっぱり不安がデカいし……正直、怖い」

 弱音を言っているようだが、ジュンセの目には光があり、確かな意志がった。

「でも、やらないといけないし、俺はこれからも続けようと思う、風紀委員を。それで、まだ何かが出来る、誰かの為になるなら」

「そっか……うん。あとは私に任せて。お疲れ様」

「じゃあ、よろしくな、母ちゃん」

 そうして通話を終了し、ジュンセは特別保健室を後にした。

「さて、腹も空いてるし、今日の朝飯は、アイツ等の所か」

 言いながら、ジュンセは自前のスマホを取り出し、アポイントメントを取る。

 了解を得て、ジュンセは足早に移動を開始する。まだ生徒の少ない校舎に、陽気な足音が鳴り響いた。

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