part7

 一般生徒、更には教員の殆ども知らない、謳泉学園地下校舎。

 廊下に関しては普通の校舎のような建築であり、青白い電灯が不気味な雰囲気を醸し出して、怪談の舞台としてはもってこいのロケーションだ。

 ひと気の無い廊下を、カノウは足早に進み、分析室と表札のある部屋に入る。

 そこは、壁一面が計測器や演算機で埋められ、ディスプレイに囲まれた中央のデスクには、ヒュウガがジュンセの戦闘データを吟味していた。

「たのしそうだな、ヒュウガ」

 カノウの声に手を止め、ヒュウガは不機嫌そうな顔を向けた。

「あの野郎。せっかくお膳立てしてやったのに、大したデータ出さねぇぞ、おい」

「風紀委員としての正式な初陣だ。だがその様子だと、得られた成果は満更でもないんだろう?」

「誰に向かって物を言ってやがる」

 鼻を鳴らしながら、ヒュウガは忙しなくキーボードを叩く。

 必要なシステムを構築し、それを出力する。デスクの横に設置された業務用プリンターのような機械が稼働し、白煙が噴き出る。

 換気扇に吸い込まれる煙を突き抜けて、カノウは機械の蓋を開き、中に入っていた安全ピンを取り出した。

「これが……なるほど。いつもながら良い仕事をする」

 素直な気持ちを言うカノウに対し、ヒュウガは口を尖らせてそっぽを向く。

「つっても、アイツが使い物にならなきゃ、とんだ徒労だ。どうするつもりだ?カノウ」

「私は特に。ジュンセの事は、今はスミネに任せていいだろう」

 信用している顔でカノウが答えるが、根拠が分からないヒュウガは呆れて溜め息を吐いた。

「あっそ。まあ、アイツが使えるならそれでいいし。そうでなくても俺は関係ないし」

 投げやりに言いながら立ち上がるヒュウガに、カノウは取り出した安全ピンを投げた。

 咄嗟とっさにヒュウガはピンをキャッチするが、カノウの意図が読めずに困惑する。

「お前からジュンセに渡しておけ」

「は⁉何で俺が⁉」

「私は生徒会の仕事で忙しいんだ。加えて、今回の件はお前の独断だろう。最後まで面倒を見てやれ」

 親しげに言い放つと、カノウは解析室を出て行った。

 腹立たしさを顔に出し、ヒュウガがそれを見送る。

 そんなヒュウガを、ギラリとした瞳が睨んだ。安全ピンが入っていた機械からの視線だった。


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