part5

「それで、風紀委員の仕事って?」

 校舎の端、人通りの少ない廊下で、リアは真剣な眼差しをして、ジュンセに問う。

 それに対し、ジュンセも引き締まった顔を作り、すぐに限界がきて、目を逸らした。

「が、学校と生徒たちの平和を守る……的な?」

「は……?」

 軟弱なんじゃくかつ、いい加減な返答に、リアは苛立ちの声を漏らした。

 その威圧感に少しだけビビるも、ジュンセは開き直って弁明する。

「俺だって頑張ったんだぞ!念を押された直後に会長に相談して!でも結局話していいラインは決まってて、後は俺の裁量さいりょうで誤魔化すなり説得するなりしろって!もう漠然としたイメージを伝えるしかないんだよ」

 途中からヤケクソ気味な愚痴を零し始め、その熱気にあてられ、リアは億劫そうな顔でたじろいだ。

「わ、分かったわよ……何かゴメン」

「あ、いや、俺も期待に応えられなくて、悪い」

 互いに謝ると、気まずい空気が二人を包んでいく。

 それを振り払うべく、ジュンセは予てから疑問に思っていた事を尋ねる。

「なあ。何で風紀委員や生徒会について知りたいんだ?」

「それは……」

 躊躇いを顔に出し、リアは難しい顔で考え込む。

 そして、警戒するような顔をジュンセに向け、慎重な口調で答える。

「知りたいの、この学校の事を」

「学校、謳泉学園の何を知りたいんだ?」

 何気なく聞くと、ジュンセはそれを後悔した。

 感情を堪えるようにして強張る顔は、悲嘆に暮れるリアの心を現しているように歪み、その苦しさや辛さを、ビリビリとジュンセに伝えていた。

「っ、悪い」

 あまりの迫力に、ジュンセは目を背け、何が悪かったのかを考える。

 謳泉学園とリアを結びつける事柄。

 それはリバイブだ。

 恐らくリアは、リバイブについて知ろうとしているのだと、ジュンセは予想する。

 自身に施された死者蘇生の技術に興味を抱く。

 だがそれは、否応にも自身の死を自覚する事でもあるのだろう。

 何も感じない訳がない。

 そして、それを知る為に、学校の中枢に近い生徒に近付く。

 そう言う事ならば、納得のいく質問や行動だったと思い、ジュンセは苦悩する。

 今の自分では、リアの力にはなれそうにないと思ったからだ。

 途方に暮れ、沈黙が苦しくなると、予鈴の音が響き渡る。

「……教室に行こうぜ、遅刻しちまう」

「……うん」

 か細い声でも、返事をくれた事に、ジュンセは安堵する。

 今暴走を起こされたとして、リアを救える自信など、ジュンセには微塵みじんも無かった。

 チヒロに感化されて、リアの力になろうとした結果がこの様だ。

 本気で風紀委員は向いていないんじゃないかと、ひどく不安になる。

 自然と足が重くなり、歩調が遅くなる。

 すると、リアが前を歩いて行くのが見えた。

 置いて行かれている感覚に、ジュンセは打ちのめされた気分になる。

 思わず声を掛けた。

「リア」

 名前を呼ばれ、リアは振り返らずに足を止めた。

「今すぐ何かしてやれる訳じゃないけど、何とか手伝えるよう考える……だから、その……」

 上手い言葉が見つからないが、足掻くような態度がリアの心に響いた。

 おもむろに振り返ると、向けられたリアの目には、いつもの活力が宿っていた。

「ありがと。その……多分これからも、頼ると思う」

 感謝と要求を続けて送るが、これは建前だ。

 はにかむ顔で、リアは自分の意思を真っ直ぐに伝える。

「よろしく、ジュンセ」

 言葉を受け取り、その温もりに、ジュンセは小さな嬉しさを感じた。

 これでいいのかは分からないが、この調子でいきたい。

 そう思いながら、リアと共に教室へと向かう。

 割と急いで。

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