第二章  味方

part1

 郊外の一角にある養護施設。

 それぞれの事情で親元から離れたミオ、ユン、ハルカ、そしてチヒロは、そこで出会い、共に生活していた。

 四人はちょっとした問題児だった。

 手が付けられない程やんちゃという訳ではないが、決して大人しくもない。

 イベント事では積極的に楽しみ、退屈な時は可愛い悪巧みを実行する。

 良くも悪くも施設の人気者たちであった。

 ある時、チヒロが里親に出される話が上がった。

 これに対し、チヒロ自身が猛反対をする。

 ミオたちと絶対に離れたくない。

 頑なな意思を主張して、里親に出る話は白紙となった。

 この時、最年長であり、四人のリーダー格であったミオは、チヒロの行く末に不安を感じた。

 ずっと一緒に居たいと思いつつも、いずれは離れてしまう時が来る。

 穏やかでしっかり者のハルカや、無鉄砲ながらもたくましい精神を持つユンなら心配ない。

 だがチヒロは、ミオたちの誰か一人でも隣にいないと、殆ど何も出来なくなるのだ。

 それは中学に上がっても変わらず、このままではダメだとミオは考えるようになる。

 しかしミオは、家族の温もりを分かち合うチヒロに、厳しく接する事が出来なかった。

 間違いを注意したり、叱りつける事は何度かあっても、突き放す事など、チヒロにはもちろん、ユンやハルカにも出来ない。

 もうこのまま、四人いつまでも一緒に生きていけばいいのではないか?

 そう考えた事もあったが、そうもいかなくなった。

 養護施設の近くには、動物園があった。

 ある日、その動物園で、事故による火災が発生した。

 ちょうど動物園に訪れていた四人は、火の手から動物たちを助け出そうと飛び出した。

 若気の至りであり、四人一緒ならば何でもできるという自信が全員にあった。

 しかし、現実は非情である。

 勢いによる行動で四人は引き返せない所まで進んでしまい、炎に囲まれて、逃げ出せなくなった。

 息がまともに出来なくなり、ハルカとユンが倒れる。

 絶望的な状況に陥り、それでも、ミオとチヒロは諦めなかった。

 なんとか見つけられた三匹のウサギをチヒロが抱え、意識を失ったユンとハルカを、ミオが担ぐ。

 二人の耳に、救助に来たレスキュー隊員の声が聞こえる。

 希望のきざしを前に、ミオとチヒロは最後の力を振り絞って、駆け出した。

 その瞬間、チヒロが数メートルほど先行する形になる。

 抱える重さが違う為、当然の事態だ。

 天井が崩れ、チヒロの駆け抜けた場所に落ちた。

 荒々しい炎が、チヒロとミオたちを隔てる。

 チヒロの悲鳴を最後に、ミオは意識を失った。

 それから目が覚めると、ミオは知らない天井を目にした。

 無機質な場所が病室なのだと分かり、助かったのだと安堵する。

 しかし、やって来た職員から聞かされたのは、自分が一度死亡し、新世代医療技術によって蘇ったという事だった。

 そして残された時間が、謳泉学園での三年と少しの期間である事を知る。

 ミオがまず心配になったのは、チヒロの事だった。

 自分たちがいないチヒロは、どうなっているのか?どうなってしまうのか?

 ミオはユンとハルカについて尋ねた。

 二人ともミオと同じく死亡し、それぞれ高校に入学する時期に合わせて蘇生されると教えられる。

 それではダメだと、ミオは直感した。

 チヒロの為に、バラバラになる訳にはいかない。

 ミオは職員に、自分とユンの謳泉学園の入学を、チヒロとハルカに合わせるよう懇願する。

 あまりにも強く熱烈な要望に、小さな騒ぎが起こった。

 そこへ、一人の科学者が現れる。

 新世代医療技術の第一人者である科学者は、条件付きで、ミオの要望を叶える事を約束した。

 そうしてミオが起こした騒ぎは収まり、科学者はミオに課す条件の準備をするべく、助手である息子に連絡する。

「いいモルモットが手に入った。入学前だが忙しくなるぞ、ヒュウガ」

 科学者はとても愉快そうな顔をし、電話の先にいるヒュウガも、同じ顔をした。

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