part4

 カノウに相談に乗ってもらった日の翌日。

 HRを終え、放課後の静かな教室に居残り、ジュンセは自分の席から窓の外を眺める。

 分厚い雷雲が迫り、ポツポツと小雨も降りだしていた。

 小学生の頃は、こういった天気に以上にテンションを上げていた気がすると、ジュンセは思い出にふける。

 眩い落雷が光ると、ゴロゴロと独特な騒音が響き、その音の大きさに一々はしゃいでいた。

 男子は分かる。雷鳴のヤバさにカッコよさを感じる気持ち。

 特に活発な子どもだったトウヤは、光を見ると雷鳴と同時に叫んでいた。

 それに対抗する形で、ミサトも荒々しく暴れていた。

 トウヤを抑え込む時は力技で何とでもなるが、女子であるミサトを相手にする時は、いつも躊躇いが出て苦戦した。

 世話の掛かる二人だった。

けれど楽しかった。

 さすがに今は雷ではしゃぐ事は無いだろう。ならば、何がアイツらの気を引くのか?

 たとえ先が見えないとしても、何も必要としないという事はないハズだ。

 今のミサトとトウヤについて、ジュンセは知りたいと思った。

 その為には、会わなければならない。向き合わなければならない。

 たとえ良くない反応をされても、そうしなければ始まらない。

 意を決して、ジュンセは席から立ち上がった。

 指定カバンを担ぎ、意気揚々と教室を出ようとする。

 そこでふと、教室の施錠せじょうが気になった。

 その日の日直である生徒が、教室の鍵を閉める事になっているが、すでに教室にはジュンセ以外の生徒はいない。

 不審に思いながら廊下に出ると、一人の女子生徒が、出入り口の引き戸に背もたれてジュンセを待っていた。

 赤い制服のクラスメイト、リアだ。

「やっと出て来た」

「え?」

「何か考え込んでたみたいだから、声掛けにくかったの。やっと鍵が閉められる」

 辟易へきえきとした様子で、リアは教室の扉を閉め、鍵を掛けた。

「あっ、今日の日直……悪い、気を遣わして」

「……あんまり、悠長にはしてられないのに」

 嫌味のようにリアが言うが、今のジュンセには深く突き刺さる。

 ミサトとトウヤの事が最優先だからと言って、他を無下むげにしていい訳は無い。

 二人と同じく、残された時間が少ないリアの事を考えると、ジュンセは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「本当にごめん。悪かった」

 しかし、平謝りしか出てこない。

 こんな事で、ミサトやトウヤと向き合えるのかと、ジュンセはいきなり自信を失くしそうになる。

 そんなジュンセを、リアは注意深い目で見据え、自然な口調で切り出した。

「なら、って言うのもアレだけど……探してた先輩は見つかったの?」

 唐突な質問に、ジュンセは戸惑う。

「マドカ先輩の事か?」

「そう」

 何故マドカの事を聞くのか気になったが、それ以上にジュンセはリアに詫びたい気持ちが強く、すぐに返答する。

「まだ会えてない。けど、生徒会長には会って、用件を伝えてもらうよう頼めたけど」

「生徒会長に⁉」

 思わぬ人物が出てきて、リアは驚きを露わにする。

「え、生徒会長とも知り合いだったの?」

「いや、あの人とも、学校見学の時に偶然会って……まあ、お互い名前も知ってるし、相談に乗ってもらった訳だから、もう知り合いっちゃ、知り合いなのかも」

 歯切れは悪いが、正直に話した。

 それを聞いたリアは唖然とし、考え込むような顔で視線を逸らした。

「本当に、ごめんな。待たせて」

「それはもういいよ。じゃあね」

 強引に切り上げて、リアはその場を後にした。

 バツの悪そうな顔で、ジュンセはリアを見送る。

 何かに急いでいるような姿にも見えた。

マドカについて教えてもらった事もあり、ジュンセは自身の問題が収まったら、何か手伝えないだろうかと考える。

 ならば、自分の問題をキッチリと解決しなければならない。

 背中を押されるような気持ちになり、ジュンセはミサトとトウヤを探すべく、踏み出した。

 行き先は謳泉学園の学生寮だ。

 赤い制服の生徒は全員そこから通学し、ジュンセを含めた青い制服の生徒も、大半がそこで生活している。

 だが、ジュンセは予想外の早さで、目的の人物を捉えた。

 校舎の窓から、中庭を歩く人影。ミサトとトウヤの姿があったのだ。

 思わず窓に張り付き、ジュンセは目を凝らして二人を見る。

 やはり見間違いではない。トウヤがミサトの手を引く形で、中庭を横断している。

 行き先が反対側の校舎の方だと分かり、ジュンセは追い掛けるべく飛び出した。

「何だよアイツら。人があれこれ悩んでたってのに」

 独り愚痴を零すように呟くが、ジュンセは妙な違和感を覚えていた。

 こんな天気に、外に出てどこへ向かっているのか?

 二人が向かった校舎は、特別教室などが集まる校舎。授業で使う時以外は、ほとんど使われなさそうな印象だ。

 ひと気の無い場所。

ミサトを連れて行くトウヤ。

 違和感は焦燥を生み、ジュンセは走る速度を上げていく。

 まさか、という不安を振り切るように。

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